第355話 美紀探偵の推理力


「あ、あるわ」


「なら聞かせてちょうだい。貴女の推理をね」


 突然始まった探偵ごっこに蓮見は頭がついていけずとりあえず黙ってこの状況を静観する。


「まずお前は自分の口でさっきルート開拓と言った。つまり本来であれば本人しか知らないはずの情報をなぜか知っていた。そこから導き出される結論はお前が事件に関与している可能性」


「なるほど。それで?」


「次にお前はなぜ私ですら知らない蓮見の情報を知っていたのか。それは第四回イベント終わりで蓮見に接触していたから。これは私だけでなく七瀬と瑠香も知っている事実。つまりは私達の目を盗み悪知恵を拭きこむ時間は沢山あったとわかる」


「ふふっ。でもね、それだと私が犯人の可能性ってだけで断言はできないわよね?」


 善人と悪人。

 もうこの二人役者かなにかでと思えてならない。

 それだけ二人の演技が上手い。

 素人目線ながら近くで見ていてわかる緊張感に思わずこの後の展開が気になり始めた蓮見の目は二人に釘付けとなっていた。


「そうね。でも一つ大事なことを見落としているわ」


「大事なこと?」


「えぇ、そうよ。大事なこと」


「一体何かしら?」


「さっき言った朱音さん相手にまだ何か隠して戦ってたの? という問いに対し「まぁね」とお前は言った。つまりお前はその時点で全てを認めたってことだ。そう犯人である可能性を自分で提示しておきながら最後の最後で肯定したんだ!」


「……ぅ。お、お見事ね。認めるわ……私が共犯者よ……」


「なら一つ聞いてもいいか?」


「なにかしら?」


「お前は水蒸気爆発以外に何を吹き込んだ? とな」


「ふふっ。探偵さん?」


「なんだ?」


「探偵なら答えは人に聞くものじゃないんじゃないかしら。探偵なら答えを推理し導くのが一流の探偵の証だと私は思うのだけれど、貴女に一流だと証明できる推理力はないのかしら?」


「…………」


 言葉に困る美紀の視線が泳ぎ始めた。

 探偵の仕事が推理なら犯人特定だけでなく、それ以外も推理してみろよという犯人からの挑戦状に探偵が苦戦している。

 そして探偵――美紀から向けられたSOSの視線。

 さらに犯人――エリカから向けられた私の味方よね? と言いたげな視線。

 に。

 悩む探偵、劣勢を覆そうとする犯人、どっちの味方になればいいのかわからない一般人(仮)の構図ができやがった。


「それは……」


 思い悩む美紀に助け船を出したいところではあるがここは探偵の推理力とやらを見せてもらうことにする蓮見。

 圧倒的に情報が少ない中での推理。

 これには名探偵コナンでも苦戦をするだろう。

 そう考えれば美紀はよく頑張っている。


「過去の情報から推測するに間違いなく被害者がある程度でるものだと推測できる……のと――」


「なるほど、良い判断ね。で?」


「――恐らくだけど今までの傾向とは違う気がする」


「そう思った理由は?」


「一言に爆発と言ってもゲームの中で意図して起こせる種類は限られているしそう何度もあの手この手で起こすのは常識人では不可能。となると、一旦別路線に行ってその前段階もしくは補助、言い方を変えれば新しい事象を起こす為の新しい力がそろそろ必要。特に蓮見の場合は一つの力というよりは複数の力を超融合(意味わからない合わせ技)が核となっているから。超融合に必要な素材が底尽きれば自ずと答えはそうなる。特に今回のイベントでアイテム使用禁止とか言われたらそれはもうスキルしかないなって。どうかしら私の推理」


「や、やるじゃない探偵さん」


 奥歯を噛みしめ認めるエリカに蓮見は首を傾ける。

 なぜなら蓮見としては美紀が難しいことを言ったせいでその言葉の意味の半分以上理解に苦しんでいたから。

 蓮見からしたら全力で楽しんだ際にたまたま被害者が多く出ているだけ。

 その為、超融合やら前段階やら不可能と言った意味がよくわからないのだ。


「こうなったら認めてあげる。確かに今回は直接爆発する系統ではないとね」


「ふっ。そうよね、流石私の推理はかんぺっ――」


 鼻で笑い、推理が当たった事に喜びが隠せない美紀。

 だがその嬉しそうな笑みは困惑の笑みへと変わった。


「今なんていった?」


「だ・か・ら・今回は直接爆発する系統ではないって言ったのよ」


「……もしかしなくてもだけど……間接的に言うとどうなるのかしら?」


 するとエリカの視線が蓮見へと向けれれ、続くようにして美紀の視線も蓮見へと向けられる。


「……え?」


「どうする予定なの、蓮見君?」


「一応聞くけど予定は?」


 急に話しを振られた蓮見はその場の勢いで頭が軽いパニック状態になった。


「……そりゃ……いつも通り全力で楽しむだけであって……後はその場の勢いというかなんというか……いつもその場のノリでやってるからなんとも……」


 その言葉に一人は「やっぱり」とどこか納得し、一人は「やっぱり」と頭を抱えた。

 同じ言葉であってもエリカと美紀の心の中はそれぞれ違うことを考えていた。


「え? ……もしかしてだめなの?」


 不安そうに蓮見が二人に確認をすると、


「いいわよ♪」


「……そうね~、まぁいいんじゃない」


 と乗り気なエリカの声と未来が見えたと言いたげな視線と一緒に美紀が頷いた。




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