第354話 始まる探偵ごっこ



 それから一時間程経過すると、お風呂上がりの女の子達がパジャマ姿で蓮見の部屋へと戻ってくる。


「お待たせ~」


「今戻りました~」


「やっほ~」


「ただいま~」


 部屋を出て行った順番で入って来た女の子達の声にベッドの上で漫画を読んでいた蓮見が視線をそちらに移す。皆髪の毛がまだ湿っている事からちゃんと乾かしていない。その為か近くに来ただけで甘い良い香りが鼻を刺激し脳が異性だと認識し始めるが、ここで手を出してはいけないときつく自分に言い聞かせて自制心を保つ。


「おっ、おかえり」


 ――あれ? 俺の生命線は?

 何処を探しても内心期待していた物がない。

 幾ら苦しんでいたとはいえ、リアルで命が掛かっている言葉を聞き間違えるなど九九パーセントあり得ない。

 そう思った蓮見は首を傾げなら。


「あれ? 俺の夜ご飯は?」


「「「「……あっ」」」」


 お風呂に入っている途中までは誰が簡単なもので夜ご飯を作ってもっていくかを確かに話しあっていたのだが、途中から別の話題になった為にすっかり忘れていた四人はお互いの顔を見て苦笑いを始める。


「ごめんなさい途中からすっかり忘れてました……ちなみになにか食べたいの?」


「うん……」


「なら私が――」


「はーい、ストップ! それなら私が作るわ」


「あっ! お姉ちゃん、それは私が!」


 美紀の声を割り、口を開いたのは七瀬と瑠香だった。

 二人は最近ちょくちょく美紀とエリカの二人が蓮見に手料理を出して胃袋をつかんでいることをお風呂の中で知り、このままでは出遅れると危機感を覚えていた。その為、今夜はなんとしてでも胃袋掴んで置きたい二人はいつも以上に積極的になってみる。恋愛サイトにも異性の胃袋を掴むのに手料理を振舞うのは好感度上昇の大チャンスと書いてあった。それを姉妹で見ていたからこそここはと名乗りをあげる二人に美紀とエリカはいつも作ってあげてるし今日ぐらいはと思い譲ることにした。


「なら二人で作ってきたら? 多分一人で作るより蓮見的には時短で手早く出来て美味しい物が今欲しいと思うから。そうよね、蓮見?」


「……うん。お腹空いて力が入らんぐらいに死にそう」


「だそうよ? 姉妹で口論している暇はなさそうよ?」


「わかった。すぐに作るから待ってて蓮見」


 お腹の音をグルルルルと鳴らす蓮見に胸を張って言った七瀬が料理を作る為に部屋を出て行く。


「任せてください! 私本気出しますから!」


 七瀬に続くようにして瑠香も自信満々の笑みで部屋を出ていく。

 そんな二人を見て蓮見は思う。

 こうしてみると、俺以外全員料理できるじゃん……と。

 嬉しような、悲しような、気持ちになる蓮見。

 だけど心配していた夜ご飯確保は時間の問題で解決することが確定したのでこれで一先ず一安心である。

 なので、さっき気になっていて聞けなかった事を今のうちに聞いておく事にする。


「ところでさっき言ってたイベントっていつなんですか?」


 スマートフォンを取り出してエリカが再度運営から来たメッセージの内容を確認して告げる。


「えっと……来週の土曜日に開催らしいわよ」


「時間は朝からだっけ?」


 確認の意を込めて美紀が聞くとすぐに返事が返ってくる。


「そうみたいね。十時から十二時までの二時間限定みたいね」


「なら時間との勝負でもあるわけですね」


 ボソッと蓮見が口を開く。

 するとエリカが少し考えながら、


「そう……なるかな?」


 と言い、美紀も、


「そう……かな?」


 と歯切れが悪い返事をしてきた。

 だけど蓮見からしてみればそれは二人にとっては二時間もあるんだしの感覚なわけで俺みたいな素人だと二時間だと短く感じるのかな? ぐらいの感覚かなと思ったのでわざわざどうしてそんな反応をしたのかは聞かない。仮に聞いても蓮見が気になった事との優先順位を比べればそれはどうでもいいことに過ぎないからだ。


「ちなみにアイテム禁止ってさっき言ってたけど全部?」


「違うよ。禁止なのは戦闘アイテム以外のアイテム全部よ」


「なら鏡面仕様の高速回転するボールパーティーアイテムはダメってこと?」


「そうゆうことね」


「俺の太陽拳が……」


「えっ……落ち込むとこそこ?」


「うん……」


 せっかく手に入れた無作為目つぶしはどうやら次回のイベントでは使えないとわかった。まぁ、そんなこともあるだろう。だけどせっかく手に入れた必殺シリーズがいとも簡単に封印されてしまうのはなんかもったいない気がしてならない。どうせなら使い古した事にもう使えなくなりました、となった方がこちらとしては納得がいくのだが、多くの人がプレイしている中で自分だけじゃなくて皆が同じ条件ならそれは受け入れるしかないのだろう。


「でも蓮見君にはまだアレがあるから……まぁなんとかなるんじゃない?」


「アレ?」


「うん。今回はフィールドと相手の関係で使っても不利になる可能性があったから使えなかったけど次は逆にそっちが使えると思うしそんなに落ち込まないでいいと思うわよ」


「ちょっと待って。朱音さん相手にまだ何か隠して戦ってたの?」


「まぁね。ほら蓮見君第四回イベ終わりに新しいスキル手に入れてるからそっちのルートも開拓しとかないとじゃん?」


「……悪知恵を吹き込んだ犯人はお前か」


 細くて綺麗な人差し指をエリカの顔に向けて美紀が探偵風なノリで言った。


「ふふっ。証拠はあるのかしら。探偵さん?」


 こちらもノリが良いのかよくドラマとかで犯人が口にしそうな言葉を言ってシラを切ろうとする犯人役のエリカ。


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