第337話 大歓声と約束の時間二十時
それから十分後の十九時四十分。
第二層闘技場にあの男が姿を見せる。
数々の異名を手にし、それを嘲笑うかのようにして沢山の神災を起こし、多くの者に様々な感動をいい意味でも悪い意味でも与えた男。
その男とは【異次元の神災者】の異名を持つ――蓮見である。
その隣には幸せそうな顔をしたエリカが一緒になって歩いている。
「後は本番ね。頑張ってね」
「ありがとうございます、エリカさん。まさかここまで付き合ってくれるなんて俺感動ものです。このお礼は必ず終わってからしますので、少し待っててください」
「うん♪」
蓮見が落ち込んでいるとどこかしらか聞きつけたエリカはすぐに蓮見の元にやって来た。それからプロ相手にでも通用するかも知れない正攻法を調べ幾つか蓮見に教えた。だけど蓮見にその正攻法は難易度が高すぎて再現が不可能だと悟ったエリカは全てを神災仕様へと変換させることを提案。そこからはひたすら蓮見の力になり、結果が出始めたつい数時間前に罰ゲームとは別にお礼して欲しいと提案し、今夜話し相手として会いたいと言い出したのだ。その裏に何があるかとも考えもしない蓮見は当然その場返事で「いいですよ」と人が良い為に言ってしまったのだ。普通に考えて女の子が夜の九時以降それも家に蓮見以外誰もいない日を狙って来たいと言っている時点で色々と察する必要があるのだが、これも蓮見の良いところで悪いところでもあるのか、その意図を汲み取れていないのだ。逆に七瀬と瑠香は今美紀の家にいるのだが、窓の外を今日は一度も見ていない蓮見がそれを知るよしはない。
「ちなみに今回はタイミングが一番重要だから気を付けてね」
「わかってます。上手くすれば俺が一本取れるけど、失敗すればどうなるかも」
「うん、それならいいわ」
蓮見に向かって、優しい微笑みを向けてくれるエリカ。
その言葉は表情に出さないだけで僅かに不安の色が混じっている。
「ぶっちゃけ俺が勝つ確率ってどれくらいだと思いますか?」
最後の確認をするように蓮見が質問する。
「そうね~」
考える素振りを見せてからエリカが答える。
「正直に答えるならフィフティーフィフティーって所だと思うわ。私が考えるに紅君って相手が強い程頭のネジが沢山外れるってイメージがあるのよね? だからそう考えるとなんだかんだ最後は接戦とかになるんじゃないかな? って私は思うの。ただし今までと違うのは相手は別ゲームの現役プロ。似たような仕様のこのゲームではやっぱり向こうに分があるのは当然。だけどこのゲーム自体の慣れと言う部分では紅君の方が上。そうなると最後はアレが決まるか決まらないかなんじゃないかって私は思うの。だからフィフティーフィフティーよ」
その言葉に蓮見は何度も頷く。
流石は難大に通うお姉さん。
言葉に説得力があるし……あれ? 俺今軽くディスられてなかった?
エリカの言葉を脳内再生しているとふとっ疑問に思う蓮見だったが、
いかん、いかん、幻聴まで聞こえてきたな。
と、自分に言い聞かせる。
なので、言葉に説得力があるなと素直に納得する。
どうやらここ最近で七瀬、瑠香、朱音に続き美紀にまで弄られたせいか悪い方向に頭が考えてしまうようになったらしい。いや蓮見の場合、元から重症でそれが悪化したと捉える事もできるかもしれない。
「なるほど」
「ちなみに閃光弾の予備はちゃんとある?」
「はい。えっと――」
慌ててアイテムリストから閃光弾の所持数を確認する蓮見。
…………
――手榴弾 147 (Max 150)
――閃光弾 29 (Max 150)
――火炎瓶 24 (Max 150)
…………
殆どのアイテムはエリカからの支給品であるわけだが、それは言い方を変えれば底を尽きる事がない宝物庫のような物である。それはエリカが蓮見に常に暴れさせるだけの力を与えているような物であり、事実最近では最恐夫婦として他のプレイヤー達から再認知されているぐらいに恐ろしい事実なのである。その理由の一つは最近蓮見がストレス解消に行う行為の一つが原因になっていた。
色々あったせいか五日ほど前から女の子達と上手くコミニケションが取れていないと勝手に思っている状態=美紀達の枷が完全にないと勘違いしている状態の蓮見はストレス解消法として俺様戦闘機を使い空へと飛びピンを抜いた手榴弾をフィールドに見境なく永遠に気が済むまで落とすと言う変な遊びに快楽を見つけてしまったのだ。
それを見た者達は口を揃えて言う「今日も空襲か……」と。反撃しようものならどうなるかは第四回イベントの葉子戦PV映像で大体皆察しているので誰も反撃しない。
その為、蓮見は自由に大空を羽ばたいていた。普段であれば特に美紀が介入し正しい道へと戻すのだが、裏でエリカが美紀達に七瀬と瑠香の為に今不器用ながら裏で頑張ってるから今日の対戦が終わるまでは好きにさせてあげて欲しいと頭を下げているとは知らずに。黙って見守るも時としては信頼関係があって初めて出来る友情と言う最高の形。そんな素晴らしい仲間を四人も持った蓮見は無邪気に自分を出してここ五日間ほど遊んでいたのだ。その光景が神災ファンにもしかしたら今日も何かがあるかも!? と思わせる結果になったとは知らずに蓮見は愉快に笑いながら無意識にファンと多くの悲鳴を創造し今日その期待にも無意識のうち応えようとしていた。その為に必要なのが閃光弾と言うわけだ。
「あ、あります」
「ふふっ、ならいいわ」
そして、蓮見とエリカの足が止まる。
とうとうやって来てしまった。
これより先に進めば、もう後戻りはできないところまで。
「頑張って」
「はい。必ずお母さんからミズナさんとルナを貰ってきます」
事情を知らない者が聞いたら意味深発言にしか聞こえないであろう言葉にエリカが優しい微笑みを向けて答える。
「うん。信じてるから」
「わかりました」
力強い眼差しで見つめ合う二人が頷きあう。
それから蓮見は真っすぐに前だけを見て闘技場に設置された控室、エリカは美紀達の待つ観客席に向かってそれぞれ足を進めていく。
蓮見の最大の武器は超短期的なスキル使用回数の限界が来る前にその破壊力によるごり押し戦法に似た所にある。制限がかかれば掛かる程蓮見の瞬間火力は凄い勢いで減少する。故に長期戦になればPS以外にもスキル面やアイテム残数などといったハンデを多く抱える事となる。そうなっては蓮見にとっては絶望的。だからこそ、必要だったのだ。切り札となる必殺シリーズが。
そして控室を通り過ぎて闘技場へと直接向かう蓮見。
時刻はちょうど二十時。
遂に【異次元の神災者】VS
二人の登場に会場は一気にスパークし、大歓声を上げる。
「「「ウォぉぉぉぉぉ!!! きたぁーーー!!!」」」
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