第310話 もう一つのフラグ
分身二人に綾香とソフィの相手を任せた五人はフィールドの中心地に向かって走っていた。
「あの二人本当に大丈夫かな?」
とても心配な美紀。
なにを心配しているかは言うまでもなく、二人の命ではなく、問題の心配。
「きっと大丈夫よ。なんたって私の発明した毒煙のモグラ君がしっかりと紅君をアシストするから」
「それが心配の原因なのよ」
エリカの新発明品だと言うことは聞いたことがない名前だと言う事ですぐにわかった。だけど大抵そう言った珍発明の時は少し後ろを追いかけてくる蓮見の案や意見が少なからず入っている事が多い。その為、結果的にはいつも【神眼の神災】暴走補助アイテムになってる気しかしないのだ。
「なによ、もう。最近里美口が悪い……あっ、もしかして女の子日だったりする?」
「余計なことは言わないで、金儲けババア!」
「あー言ったらいけない事言ったわね、ロリ巨乳!」
「なによ!」
「そっちこそなによ!」
ぐぬぬ、バチバチ。
と前方で行われる仲が良いのか悪いのかわからない二人のやり取りに平和を感じる蓮見。そもそも走りながら手で相手の頬っぺたを捻るってやる事が可愛いので見ててつい和んでしまう。
可愛い女の子と綺麗なお姉さんのやり取りは目の保養に持ってこいだ、と自分の欲求を満たしている蓮見はどこか幸せな気持ちになる。
「ちなみに紅さん的には分身さん達がどうなるとお考えですか?」
その言葉に少し考えて、
「まぁ、なんとかしてくれるだろ。なんたって俺の分身だからな!」
と、根拠のない回答をする蓮見に瑠香が苦笑いで返す。
「なら私からも質問。さっきエリカさんが言っていた毒煙のモグラ君を紅は知ってるの?」
「はい。だって俺がイベント前にお願いして作ってもらったアイテムですから」
「ちなみにどんなアイテムなの?」
「ただモグラ君が毒煙を放出しながら動くだけですよ?」
小首を捻る七瀬。
何か思い当たる節があるのか、問いかけるようにして蓮見に言う。
「それただの毒煙発生アイテムが動くだけなんじゃないの? それだったらわざわざエリカさんにお願いしなくても似たようなアイテムあるじゃない」
「それは予算の関係ですね」
「「……なるほど」」
妙に納得してしまった七瀬と瑠香の言葉が綺麗に重なった。
常時貧乏少年の懐では欲しいアイテムすら買えない。
そこでエリカに頭を下げて出資してもらっているのだと、そこは聞かずしてすぐにわかってしまった。
なんとも悲しい現実。
女の子にカッコイイ所を見せるどころか情けない姿しか見せれないギルドリーダーは。
ただし蓮見に限っては例外的な部分がしっかりとあるので、そこはあまり触れない。
下手に刺激し変なスイッチが入った日には新規の板が立ち上がり一夜にして凄いことになるぐらいに何かをしてくれるからだ。
そうこうしているうちに後少しで目的地が見えてくる場所までやってくると、少し離れた方向から一人の少女がやってきた。どうやら目的は同じらしい。というよりかは必然。今回最大級のボスが出る場所が既に決まっているので、それ狙いの者は必然的にそこに集まるのだ。
少女は腰まで伸び綺麗なピンク色の髪をしており、美紀達には目もくれずある男の姿を走りながら見てくる。そんな少女の存在に気付いた七瀬と瑠香が蓮見と少女の間に入る。
「そこ、痴話喧嘩してる暇ないわよ」
その言葉にようやく美紀とエリカが状況を理解する。
少女は細身で整った顔立ちをしており、どこか落ち着いた雰囲気でこちらを見ていた。
だけど蓮見以外は知っている。
彼女がプレイヤーKillに長けた化け物プレイヤーにして暫定四位の実力者であることを。
「プレイヤーキラーとここで出くわすとはね。見逃してくれるかしら?」
「うーん、どうだろう……」
とりあえず話しを聞かない事にはどうにもならないと、足を止め近づいてくるラクスを待つ五人。相手に敵意がないならいいがと心の奥底で願う女四人。
「武器を構えずに私達の所に来るって事は敵意がないでいいのかしら?」
「ないわよ。私が興味あるのは【神眼の神災】だから」
「どう言う意味かしら?」
「私は【神眼の神災】と手合わせをしたい。ただそれだけ」
そのまま美紀から蓮見に視線を合わせたラクスが言う。
「私と一対一の手合わせを今からしない?」
その言葉に蓮見。
「いや……俺弱いし……相手になりませんよ?」
「そうなのか?」
「はい……」
いや、待てよ?
ここで妙案が浮かんだ蓮見が言う。
「やっぱり今のなしで!」
そして視線を美紀達の方に向けて、
「ここは俺に任せろ! 四人は先に行け。俺も後から行くからよ!」
何かを期待した眼差しを女の子四人に向けてドヤ顔で言い切った。
なぜこのような行動に出たかと言うと。
心の中で先程の分身と同じ事をすれば、俺も褒められて四人の女の子が同時に惚れる! とやましい事ばかりを考え期待しているからだ。
だけどこれは年頃の男の子として当然の生理現象でもある。
故に仕方がないこと。
何百年も前から遺伝子に刻まれているのだ。
男は子孫を後世に残す為に種を多く残すようにと。
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