第299話 【深紅の美】VS【ラグナロク】 2


 この状況をどう打開しようかと考えた美紀はやはり指示役である大柄な男を倒すのが一番だと判断する。

 だが美紀と同じく今戦っている相手もまだまだ余力があるように思われる。

 今まで蓮見が相手だった為に【雷撃の閃光】ギルドや【灰燼の焔】ギルド同様にあっけなく神災の巻き沿いを喰らい死んでいった者達の本領はこの程度ではないことは一目瞭然だった。ただ神災の前では彼らと言えど予測不能な行動と現象の連発に頭と身体が付いて来れないだけで……。


「ルナとミズナまで苦戦……。紅とエリカは……」


 心配になった美紀は小刻みに動き、襲い掛かってくる攻撃を躱しながら二人を目で探す。


「よそ見する暇はないぞ。スキル『睡蓮の花』!」


 瑠香の必殺スキルの一つを使い攻撃してくるラグナロクメンバーの一人。瑠花と同じスキルを持っている時点で実力者だとわかる。


「……なら、スキル『デスボルグ』!」


 スキル『破滅のボルグ』の上位スキル。

 効果:槍専用スキル。狙った相手を貫く。

 命中率100%回避不可能。

 威力は消費したMPとプレイヤーSTRに依存。

 使用回数:一日三回。


 MP消費量はプレイヤーの任意で決められる事がこのスキルの利点であるわけで、美紀は今ある四割のMPゲージを全て使い、突撃してくる女――ラグナロクメンバーの一人に向かって槍を投げつける。

 と、同時に腰から短刀白雪の小刀を抜き、別方向から攻撃してきた細身の男の一撃を受け止める。


「スキル『兜割』!」


 カーン!!!


 全体重を乗せた男の一撃に美紀が両手で対応するも、片膝をつかされてしまう。

 槍はまだ黒味のかかった暗くも白いエフェクトを放ちながら、標的を狙い飛んでいてすぐに回収は出来ない。


「……しまった」


 そう思った時にはさっきまで美紀に攻撃していた残りの三人がもう既に近くまで来ていて攻撃態勢に入っていた。


「スキル『突撃』!」


 片手剣に盾を持った男が盾を前に突き出し突撃。


「スキル『燕返し』!」


 別の男が鞘に収まった長剣を握り、青いエフェクトを放ちながら低空姿勢で駆けてくる。


「スキル『五月雨』」


 同じく青いエフェクトを放っているがこちらは普通の剣。

 だけど女の真剣な表情からこちらも警戒が必要な一撃であることは間違いない。


 かと言って両手の力を抜けば、頭上から降ろされる剣が美紀の身体を頭から真っ二つにするだろう。


 ドーン!!!


 音に反応し、横目で何が起きたかを確認すると槍とレイピアの先端が接触し激しい光と音、さらには衝撃波を発していた。


「もらった!!!」


「里美の首は私の物よ!」


 勝利を確信する者達。

 だが――。


「まだよ」


 ニヤリと不敵に微笑む美紀。

 そう美紀は見てしまったのだ。

 さっき視界の隅で。

 七瀬が誰の援護を中心にしていて、その七瀬を倒そうとやってくる者達をしっかりと蓮見とエリカが護っていた光景を。

 故に――。


「スキル『水龍』『乱れ突き』!」


 大きくジャンプして上空からやって来た瑠香はすぐに美紀の救出を始めた。

 水龍の大きな口が美紀を攻撃していた細身の男を丸呑みにして美紀から引き離す。

 それと同時に美紀に向けられた長剣がスキルを発動する前にレイピアによる素早い十連撃で不発にし返り討ち。


「ありがとう」


「はい!」


 片手剣に盾を持った男は突如前方に出現した、


「スキル『障壁』!」


 によって進路をふさがれ顔面を強打し強制的に止められる。

 七瀬のアシストに心の中で感謝した美紀は残り一人を視界に収める。


「私を舐めるな! スキル『連撃の舞』!」


 普段は槍で使っているスキルだが美紀は今回は白雪の小刀でスキルを使った。

 槍専用スキルではないことから美紀はこのスキルを密かに重宝していた。

 MP消費率の割には汎用性があって便利がよく使いやすい為である。


 美紀が脳内で思い描いた軌跡をたどるようにして、スキルが発動する。


 敵のスキル五月雨は躱すのではなく、敢えて受ける事で相手の懐に強引に入り込む。

 後はお互いパワープレイで削れるだけ相手のHPゲージを削っていく。


「そもそものステータスが違う事を後悔しなさい!」


 そう言って美紀が勝利宣言をする頃にはスキル『五月雨』を使ったプレイヤーは光の粒子となっていた。相手は運が悪かった。美紀クラスになると彼女もまたある程度条件が揃えば狙ってテクニカルヒットを起こせるのだから。そのダメージ量は多く、正面から真面に十回も受ければどんなにHPに自信があるプレイヤーでも何も補助スキルやアイテムなしで生き残るのは難しい。


「流石、里美さんですね」


「そうかな? ありがとう」


「でもこれだけ頑張ってまだ六人しか倒れていないって流石【ラグナロク】ですよね」


「そうね。一気にダメージを与えないとすぐに後衛部隊に回復されちゃうからね」


 美紀と瑠香が見つめる先には大柄な男がいて、余裕の表情をしていた。

 お互いに小手調べがようやく終わった。

 そんな状況に美紀は微笑みを零した。


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