第300話 【深紅の美】VS【ラグナロク】 3


 それからチラッと蓮見と七瀬とエリカを見るといつの間にか囲まれており、こちらが仲間の援護する余裕を全て奪われていた。


 ただ数が多いだけでなく、人数を適所に配置し分断。

 敵ながら見事だとは思わずにはいられない。

 それに仮に攻撃を受けても前衛部隊がすぐに負けないように後衛部隊が常に待機している。回復に集中する者達と前衛部隊を掩護する者達と後衛部隊と一言で言っても役割分担をしていたりと敵に回すと実力者同士がここまで親密に手を組み襲い掛かってくるとなると流石に骨が折れる。


「やれやれ、これはギア上げないとダメね」


 肩を回し、槍を回収する美紀。

 残念ながらレイピアを持った女は倒す事は出来なかったが、相手の一撃を相殺できただけ良しとすることにした。

 白雪の小刀を腰にしまい、その場で軽くジャンプして気持ちを入れ替える。


「ねぇ、ルナ?」


「はい」


「どっちが多く倒せるか勝負しない?」


「いいですね~」


「「ふふっ、久しぶりに血が疼くわね(きます)、いざ勝負!」


 目の前にいる歯ごたえがある敵を前にして臆するどころか喜びを得た二人は足の裏を爆発させ一気にそれぞれが間合いを詰めていく。


「来なさい! 【ラグナロク】だろうが、ルフランだろうが私の邪魔をするなら倒すだけよ!」


「面白い。第一部隊は里美、第二部隊はルナを包囲して袋叩きにしろ!」


「絶対に負けません! 私もここからエンジン入れていきます!」


 普段【神眼の神災】を強くするために修行をつけている二人の女の子――美紀と瑠香が集中する。

 現状から援護してもらうのは難しいと考えた二人は三つある前衛部隊のうち二つをここで潰す事にする。


「スキル『アクセル』!」


 集中した美紀は敵の攻撃を最小限の動きだけで躱し攻撃の合間にできた隙を狙っていく。それも敵の頭部や心臓といつも蓮見が狙っているプレイヤーのKillヒットポイント狙い。普段から狙ってやっているわけではないので、当たる確率は蓮見に比べると低いがそれでも今までの感覚や経験だけで意図的に起こせる美紀はやはり強い。


「スキル『破滅のボルグ』!」


 Killできなかった攻撃は全てMP回復だと思い、全てを有効活用していく。

 敵の攻撃を躱し身体を回転させながら大きくジャンプして全力で投擲し黒味のかかった暗くも白いエフェクトを放ちながら飛んでいく槍は偵察隊を率いる大柄な男。

 素早く白雪の小刀を腰から抜き、その行方を気にしながらも攻撃の手を休めない美紀。


「甘い! お前達!」


「「「「「YES MY SAB REDER! スキル『障壁』!」」」」」


 五枚の障壁が美紀の一撃を受け止める。

 五重結界となった障壁はそこら辺の強度とは比べ物にならない程硬く四枚と少しを貫いた所で弾き返させてしまった。


「……チッ」


 つい舌打ちをしてしまう。


「あれは厄介だけど……全力のデスボルグでも障壁を増やされたら」


 すぐにスキル『巨大化』を使い、槍を手元に戻す。


「なら今度はこっちの番だ。まずは里美に三番だ、やれお前達」


「……ん? 三番?」


 後衛部隊が一斉に動き始めた。

 だけどその言葉の意味がいまいちわからない。


「「「「「YES MY SAB REDER! スキル『落雷』!」」」」」


 上空にできた雨雲がゴロゴロと鳴き、地上にいる美紀達目掛けて雷を落としてくる。

 それも一人ではなく数人が協力して発動している事からすぐにこれが終わらない事は簡単に想像がついた。


 地上からの攻撃とは別に空からの攻撃。


 一旦攻撃の手を止めて、華麗なステップとバク転と側転だけで躱して相手の攻撃パターンを見極めていく美紀。


 トッププレイヤーとトッププレイヤーに近い者達の戦闘は正に均衡状態。


 いつどちらに流れが大きく傾いても可笑しくはない状況になっている。

 その為先に手の内を全て出し尽くした方が負ける事は明確とも言える。


「空からって……マジで厄介ね……」


 美紀は落雷を避けながら呟いた。

 空に対する攻撃手段がないわけではないが、雨雲を撃ち落とす方法は持っていない。

 ここはスキルの効果が待つまで防戦一方になるかと歯を食いしばって耐える事にする。すぐ近くでは美紀と同じく瑠香も攻撃の手を休め、回避行動に集中していた。

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