第293話 目を付けた者達


 その頃、ゲーム内では午前の部(前半戦)を無事戦い抜いたプレイヤー達はそれぞれイベント専用休憩ポイントでゆっくりとしていた。

 だがそこら辺から聞こえる声は信じられない光景を見聞きしたように騒がしく、【神眼の神災】に向けられる沢山の視線があった。

 今も運営が午前の部(前半戦)のリプレイPVを上空に用意した専用ディスプレイに映している。

 ここで美紀達もようやく蓮見が午前の部(前半戦)で何をしたのかを理解できた。

 だけど味方も敵もなんて言っていいかわからなかった。

 なぜプレイヤー側である蓮見が綾香率いる【雷撃の閃光】と葉子率いる【ラグナロク】と戦っているのかが。

 その結果か綾香と葉子だけでなく二人に同行していた者達のポイント。

 本来であれば圧倒的なポイントを稼ぎ上位独占だってできていたはずなのになぜか今公開されている順位表(上位百位)には殆どその名がなかったのだ。


「おいおい……こんな事があるのか……」


「【ラグナロク】と【雷撃の閃光】が序盤からめっちゃこけてるじゃん……」


「余裕で百人以上の妨害をしたあげく九位を勝ち取った【神眼の神災】は最早異常……」


「「「いつものことだろ……。ただ今回は序盤でこれだからな……」」」


 そう忘れてはいけない。

 まだ蓮見はフルスロットルではないのだ。

 午後の部(後半戦)の為に蓮見は美紀の怒りを買わない程度にしかまだ力を発揮していないのだ。余力はまだまだあり、本番はこの後。故に美紀達が心配して蓮見の残りスキル回数を全部確認すると、火力がまだまだありとどこをどうしたらあれだけ暴れて爆薬庫(スキル残数)がこれだけ残るのだろうとは思わずにはいられないぐらいしっかりと残っていた。

 その為、怒るに怒れない美紀。

 なぜなら蓮見は美紀の言いつけを守りながらもその本領を発揮し楽しそうに笑みをこぼし暴れていただけなのだから。


「流石里美達だな……。里美が一位にミズナさんが四位でルナが七位か」


 顔を上にあげて、仲間の順位を確認する蓮見。

 ここまで暴れて置いてあれだが、それでも美紀達のポイントを抜く事はできなかったのだ。


 一位 里美


 二位 ルフラン


 三位 ソフィ


 四位 ミズナ


 五位 ラクス


 六位 リューク


 七位 ルナ


 八位 綾香


 九位 紅


 十位 葉子


 と上位十人は上記のようになっている。

 今回は午後の部が本番と他のトッププレイヤー達も思っているため、午前の部では全力を出しきっていはおらず全員余力を残している。

 そのため、この順位はあくまで目安程度にしか使われない。

 だけど――。


「ねえ、紅?」


「どうした?」


「なんでゴッドフェニックス倒すんじゃなくて手助けしたの?」


「なんでって……そりゃご褒美の為に決まってるだろ?」


「ご褒美?」


「そう。ご褒美」


「……ってなに?」


「エリカさんが頑張ったらくれるって言ったから具体的にはまだわからん。そう言えばエリカさんは?」


「エリカならあっちでミズナ達と座って話しているけど?」


「なら俺達もあっちに行かない? ご褒美欲しいし、俺」


「別にいいよ。そもそもご褒美ってなによ……私何も聞いてないんだけど」


 唇を尖らせた美紀を見て可愛いなーと思った蓮見。

 そのまま二人は少し離れた場所で休憩する七瀬達の元へと歩いて行く。

 途中美紀に色々と聞かれた蓮見は午前の部でなにがあったのかを簡潔に説明した。

 道中美紀が頭に手をあて「やれやれ」と言ったが蓮見にはその意味がよくわからなかった。

 だけど「まぁ、よく頑張ったね。お疲れ様」と最後は笑みを向けてくれたのでこれはこれで良しとすることにした。

 なんだかんだ蓮見の一番の理解者はやっぱり美紀なのかもしれない。

 そう思った蓮見はクスッと鼻で笑った。



 別の場所では。


「ソフィ?」


「どうした?」


「紅倒しに行っていい?」



 さらに別の場所では。


「ルフラン様」


「どうした?」


「後半戦開始と同時に【神眼の神災】を倒しに行かせてください」



 と、午前の部(前半戦)で蓮見に良いように邪魔されただけでなくいまいち結果が出なかった者たちが闘志を燃やし始めていた。


 それを遠目に偶然見た腰まで伸びた綺麗なピンク色の髪をした女は一人呟く。


「まずはお手並み拝見といこうか。それにしても面白い奴だ。もしこの状況を乗り越えれるようであれば私もお前の首を取りに行くとしようか」


 ニヤリと微笑んだ女は一人次の闘いの準備を始めた。



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