第261話 一斉攻撃


 空から降り注いでくる雷の連続攻撃とキリン自身による攻撃パターンを早くも把握し始めた美紀と瑠香はお互いの邪魔にならないように配慮しながらも最大の手数を決めていく。


「ルナ! 三秒離れる。注意を惹きつけて!」


「わかりました。スキル『加速』『水龍』『睡蓮の花』!」


 美紀がバックステップと三回転のバク転で距離を取ったタイミングで瑠香のレイピアがキリンを貫く。だがキリンもその危険察知能力の高さから気付き、レイピアの一撃を自慢の角で防ぐ。二つの力がぶつかり均衡する。その隙に瑠香へと襲い掛かる雷の連続攻撃を水龍が身を盾にし護りながらも魔法陣の一つをかみ砕く。さらにもう一つと合計二つの魔法陣を破壊すると同時に限界が来たらしく消滅。それと同時に力負けした瑠香が吹き飛ばされる。そこに襲い掛かる四つの雷。


「スキル『連続射撃3』『虚像の発火』!」


 エリカと一緒に行動しアイテムを設置していた蓮見の矢が瑠香を護る。

 そんな蓮見の方に目を向けると、蓮見がほほ笑んでくれたので瑠香は聞こえないとわかっていながら「ありがとうございます」とお礼を言った。

 すると、「おう! 最高にカッコ良かったぜ!」と蓮見の口の動きからなんて言ったかがわかった。


「スキル『パワーアタック』『デスボルグ』!」


 美紀の鋭い視線が瑠香に集中し背中が無防備になったキリンへと向けられる。

 大きく後方に二段ジャンプをして投擲の構えを取ると、目の前に赤黒い魔法陣が出現する。


「スキル『爆焔:炎帝の業火』」


 同じく別の場所では七瀬を中心とした大きな魔法陣が地面に出現していた。

 システムアシストによってスイレンの素早い動きが捕捉され七瀬の視界に敵座標が表示される。


 茶色い髪が赤色に染まり、ゆらゆらと燃え始めたかと思いきや魔法陣が消え、今度は杖が赤い色に染まり強い光を放ち始める。


 空中で態勢を整え何とか着地と同時に踏みとどまった瑠香。

 だけどまだバランスが崩れたままの瑠香を追撃しようとしていたキリンが危機察知能力で後方で何かが起ころうとしている事を察知し振り向く。


 美紀の攻撃は狙いは必中と躱す事はできない。

 だけど七瀬の攻撃は必中ではない(自動追尾)為、躱す事が出来る。


 そう、七瀬が思った時、異変が起きる。


「悪いがここからは俺様も参戦だ。エリカさん!」


「任せて!」


 蓮見の矢がキリンに攻撃を開始する。

 それと同時に円状に設置された罠がエリカの遠隔操作により起動しキリンの動きが抑制される。

 さらに一緒に設置された五十を超える、『水の矢』がアイテムから射出されキリンに襲い掛かる。この矢は沈静の効果を持ち、一定以上のダメージを与えた場合敵の動きを三十秒遅くする効果を持っている。一定ダメージは相手の個体や個体値によって前後するが一定時間内に三十当てると間違いなく効果が発揮すると言われている。


「今なら! 全ての命を刈り取れ『デスボルグ』!」


 美紀の手を離れ、全力で投げられた槍は赤黒い魔法陣を通り抜けると同時に力を受け美紀のMPゲージを全て攻撃力へと変換し放たれた。回避は不可能。防ぐには『デスボルグ』が持つ攻撃力以上の障壁で身を護るか攻撃が当たる前に撃ち落とすしかない。


「流石! エリカさん、紅! ナイスタイミング。行け!『爆焔:炎帝の業火』」


 燃え盛る炎がキリン目掛け放たれる。

 美紀のように必中ではない。

 だけど七瀬の魔法は自動追尾性能を持っており、魔法を放つ時に標的とした相手を追尾し襲う。

 故に動きが封じられた、もしくは抑えられたキリンなら必中と言っても過言ではない。こうなると美紀の攻撃と同じく『爆焔:炎帝の業火』が持つ攻撃力以上の障壁で身を護るか攻撃が当たる前に撃ち落とすしかない。


「スキル『罰と救済』『水振の陣』『虚像の発火』!」


 そこに別方向から強力な援護射撃――水爆。


「悪いがまだまだ! スキル『猛毒の捌き』!」


 蓮見の後方に出現した紫色の魔法陣から放たれる毒の矢はキリンの一つしかないKillヒットポイントである頭に向けられる。流石は幻獣、テクニカルヒットポイントの設定がされていない為、水爆の狙いも頭にした蓮見に抜け目はなかった。

 猛毒の捌きもまた自動追尾性能を持つ、簡単に全てを避ける事は不可能だからだ。


 瑠香の一撃を合図に全員の必殺となる一撃が向けられたキリンは叫ぶ。


「ウォォォォォーンン!!!!!!!」


 戦場にその叫び声ならぬ雄たけびが響くが四人の同時攻撃は止まらない。


 キリンの白く輝く角が眩しい光を放ち始める。

 そして空中にある青白い魔法陣から角に向かって四つの雷が放たれる。

 違う。

 この場合力を受け取ったと記載した方が正しいのかもしれない。

 黒い身体全体にバチバチと音を立てて放電する青白い雷が出現した。

 それからキリンが両前足を一度上にあげ、勢いおく頭を下に向け地面を踏みつけたと同時に身体に纏わりついた雷がバチバチと音を鳴らし放電を始めた。


 ――直後。


 四人の攻撃が一斉にキリンへと襲い掛かった。


 ドン!! という音と共に衝撃が地面を揺らした。

 五人の視界の先ではキリンがいた周辺を中心にオレンジ色の光が眩しくメラメラと巨大な炎となり燃え広がっていた。




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