第244話 瑠香と七瀬の新たな戦術


「スキル『烈風』!『導きの盾』!」


 毒の霧を自信を中心とした竜巻を作る事で無力化する七瀬。

 これは綾香が蓮見対策として使った手だ。

 それから『導きの盾』を地面に対して平面いなるように使い足場にしていく。

 それを動きながら複製、MPポーションを飲み回復。

 一連の動作に無駄はない。


「えぇぇぇぇぇ!!!! 障壁ってそんな使い方出来るの!?」


 驚く蓮見の声。


「ちょーかっけぇええええええ! そして二人だけ空行くとかズルい! ズル過ぎる

!」


 七瀬は心の中で『こんな使い方【神眼の神災】見てないと思い付くか! そもそもズルいって蓮見にだけは言われたくない!』と叫びながらもアルティメットに集中する。


 両翼の破壊とは簡単に言ったが、実際はかなり難しい。

『導きの盾』はあくまで一枚で有効範囲が限られているため、的確にアルティメットの行動を常に予測し展開しなければならない。そこから更に両翼をピンポイントで狙うとなるとかなり大変なのだ。それでも七瀬は瑠香とならできると信じ、今二人で空中にいるアルティメットに近づいている。


 全てのステータスが倍になった二人はアルティメットを翻弄しながらもダメージを与えて行く。スキルではなく純粋なPS(プレイヤースキル)を重視した連撃にアルティメットの両翼が少しづつボロボロになっていく。七瀬はMPの殆どを『導きの盾』の複製に回し足場の維持と生成に費やしている。


「おりゃぁぁぁあぁあああああ!!!」


 七瀬の鈍器と化した杖が攻撃しダメージを与え、その反対側からは、


「スキル『ペインムーブ』!」


 瑠香の一撃が決まる。


 だがアルティメットも負けていない。

 三つ首を使い七瀬と瑠香を攻撃する。

 口を開き毒の息を吐く。

 近づいただけでも毒のダメージなのに、さらなる毒のダメージを与えてくる。

 そこから三つ首による頭突き攻撃や巨体を利用した体当たり、しまいには紫色に光る尻尾による『ポイズンテール』と何をしても毒を中心とした攻撃だった。それに『ポイズンテール』は瑠香のHPでも一撃で三割を持っていくとかなり強力なスキルだった。


 それでも瑠香は突撃する。

 なにもせずとも減っていくHPゲージを気にしつつも攻撃の手を休めない。

 七瀬は七瀬でそんな瑠香の援護を的確にし、瑠香のHPゲージが半分を割らないようにアシストしていく。


「スキル『恵みの光』!」


 緑色の光が出現し瑠香のHPゲージを回復する。


「って今度はこっちか! スキル『導きの盾』!」


 足場用でなく、今度は七瀬に飛んできた『ポイズンテール』から身を護る為にダメージ軽減用として展開する。


「スキル『乱れ突き』!」


 七瀬に気を取られたアルティメットの左翼にレイピアの十連撃が決まる。

 悲鳴をあげ、苦しむアルティメット。

 だけど瑠香の攻撃の手は止まらない。


「スキル『ペインムーブ』!」


 追撃としてさらに六連突きが決まる。

 アルティメットが抵抗としてそのまま瑠香から逃げるようにして七瀬に突撃してくる。


「きゃぁ!」


 吹き飛ばされ地面に激突する七瀬。


「お姉ちゃん!」


「大丈夫! 今から足場適当に幾つか作るからそれで五秒時間を稼いで!」


「わかった!」


 瑠香が力強く頷いたのを確認してから七瀬がMPポーションを飲み、最後の力を振り絞る。


「スキル『爆焔:炎帝の業火』(ばくえん:えんていのごうか) 瑠香アイツの視線を上に向けて」


「任せて!」


「スキル『睡蓮の花』!」


 瑠香が下から上に向かってシステムアシストの力を使い一気に駆け上がる。

 そして遂に左翼の部位破壊に成功する。

 だがシステムアシストの効果が切れた瑠香は三つ首に囲まれ、その身を食べられようとしていた。


「ひっ!?」


 思わず出てしまった悲鳴。

 覚醒が切れ、その反動がもろにきてしまった瑠香の動きが鈍くなった瞬間の出来事。


「やだよ……今度はこんな奴に私の身体食べられるなんて」


 あの日、鬼武者と闘った日の事を思い出した瑠香。

 そこに、高エネルギーとなった炎が飛んできた。

 視線を下に向ければ、七瀬の魔法だとすぐに気付いた。

『覚醒』で今まで以上に強くなった『爆焔:炎帝の業火』がアルティメットの右翼を貫く。

 それでも三つ首が瑠香の身体を食べようとするが、アルティメットは両翼を部位破壊され落下を始める。

 小柄で身軽な瑠香の身体と巨体であるアルティメット。

 どちらがより強く重力を受け、落下するかは一目瞭然である。

 そのまま三つ首の口が本来加えるはずの物を加えられず地面に落ちて行く。

 七瀬はどうやら限界らしく、片膝をついて一人と一体の落下をやり切った顔で見守っていた。


 そのまま地面に衝突すると思った瞬間、瑠香が目を瞑る。

 すると何かに抱えられる感覚に身体が襲われた。


 ゆっくり目をあけると、王子様にお姫様抱っこされていた。


「流石! それにしても落下は痛いから気を付けろよな!」


 笑顔で高層マンション三十階から先日紐なしスカイダイビングをした蓮見が言う。

 そんな説得力しかない蓮見に言われると頷くしかできない瑠香。

 それから急なラッキー展開に瑠香の顔が熱を帯び始めた。


「は、はい。ありがとうございます」


 頬の筋肉が急に戻らなくなった瑠香。

 そのまま蓮見から地面に下ろして貰う。


「後は俺達に任せな!」


 そう言って、地面に激突したアルティメットに向かって歩いて行く蓮見。

 そして別方向からは美紀とエリカだ。


「後は任せたよ、里美」


「えぇ。翼を失った毒龍なんて余裕よ!」


 バトンタッチをした七瀬と美紀。


「エリカさん大変でしょうが、後はお願いします」


「任せて! 空飛ばないならアイテム補助ぐらいは出来るはずだから!」


 エリカは七瀬の心を受け継いだ。


 それから瑠香は疲れて後を任せる七瀬の元にやって来ては三人を見守ることにした。

 両翼は破壊した。

 だけどその分、無理な攻撃を連続でしたために身体が以上に疲れてまともに動けない。

『覚醒』の反動にまだ身体が慣れていない部分もある二人は口を揃えてこう言った。


「「空中戦が出来るようになっててよかった……」」


 と。そして思う。

 やっぱり【神眼の神災】の異名は恐ろしいと。

 なにより今まで誰も出来なかった空中戦をすると言うきっかけを与えてくれた者こそやっぱり自分達がついて行くに相応しい人物だと思った。


 だけど後に二人は知る。

 この程度ではまだ神災を名乗るには早すぎるのだと……。






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