第234話 起きてしまった神災


 そんな中、水爆の矢は絶対貫通を発揮し三十枚の床を順に撃ち抜いていく。蓮見が立っていた真下こそ各フロアのKillポイントだったのだ。そして猛毒の捌きが予め蓮見が入手した高層マンションを支えている支柱を目掛け一直線に飛んでいった。それらは全てKillヒットとなり絶対貫通した矢はさらに別の柱へと向かって飛んでいく。


「良し、このままたたみかけろ!」


「「「「「おぉぉぉぉぉぉ!!!」」」」」


 建物が鈍い音を鳴らし始める。

 だけど止まらない攻撃の猛攻。


「くそっ……」


 HPゲージがさらに減っていく蓮見。

 三割を切り、自動発動スキルが目に見える形で発動する。

 だけど【ラグナロク】のギルドメンバーによる四方八方からの連続攻撃の前では逃げ道がなく上手く攻撃を躱す事ができずにいた。

 これがトッププレイヤー達ですら警戒するコンビネーション攻撃だと肌で実感する蓮見。


 三割――二割――ともう後がない。


 そして。


「スキル『ダイヤモンドブレード』!」


 グハッ!?


 遂に蓮見のHPゲージがゼロになってしまった。

 勝利の笑みを溢す三十人。


 そう誰もが決着がついたと思った。


 だけどその男はもう目には見えないHPゲージを頼りに立ち上がる。


「へへっ。今日は十パーセントちゃんと取れたな」


 そして遂に蓮見が待ち望んだ瞬間がやって来る。

 水爆が三十枚の床を全て撃ち抜き地面に触れて爆発した音が聞こえてきたのだ。

 それに続くようにして重要な支柱を失った建物が崩壊を始める。蓮見達のいるエアポートの床も崩れ全員が自由落下を始める。下から襲い掛かってくる水爆の爆発が一緒に落下する手榴弾、閃光弾、音響爆弾へと被弾し火力と被害を大きい物へと変えていく。


 自由落下で上手く防御が取れない全員に熱風が襲い掛かる。かと思いきや眩しい光が【ラグナロク】ギルドメンバーの視覚を全方向から潰しにかかる。これだけでも上手くダメージコントロールできる時点でやはり素晴らしいと言えるしトッププレイヤーに近い存在だと言えよう。


「だけどな……まだ俺の全力シリーズは終わらないぜ」


 コンマ一秒もしないうちに今度はあちらこちらから甲高い音が聞こえ鼓膜を破壊しにかかる。人間は視覚と聴覚で大体七から八割の情報を手に入れて脳で処理している。慌てて目を閉じ耳をふさいでも、強い光が瞼越しに襲い、あまりの煩さに手だけでは防げない音の波に鼓膜がやられる。ましてや自由落下途中。そんな状態で綺麗に全て対処などできるわけもないのだ。


「にしても手榴弾、閃光弾、音響爆弾、全部で二百個以上設置した甲斐があったな」


 そのまま手榴弾という外部からの爆発のダメージを加算した水爆のダメージすら『白鱗の絶対防御』――VIXを10%アップし、致死性のある攻撃を受けた場合10%の確率でHPを一にして耐える自動発動スキルを使うことで耐えた蓮見は自由落下途中に苦しむ三十人を見ながらHPポーションを飲んで来るべきダメージに備える。


「うわぁぁぁぁぁぁぁ目がぁぁぁぁぁぁぁ」


「耳が聞こえねぇーーーーー」


「な、なにが起きたんだ……誰か助けてくれー」


 目が見えず、耳が上手く聞こえず、いつ来るかわからない地面との衝突に恐怖する三十人。それに目と耳がやられた以上まともに態勢を維持することも難しい。何人かは蓮見とは違いパニックになり頭から地面にヘッドロックをしようとしている。これでは間違いなく死ぬなと蓮見は火の海となった底へと落ちて行きながら思う。


 閃光弾と音響爆弾が全て効果を失ったタイミングでエリカに頼んで借りた暗視ゴーグルと耳栓をアイテムツリーに直していく。


「にしても三十階分だと落ちるまでにちょっと時間かかるんだな」


 悲鳴が響き渡るなか蓮見が呟いた。


 そして。


 三十一人が火の海となった瓦礫の山へと落ちていった。

 頭からヘッドロックした者は全員光の粒子となり、運よく生き残った者も上から落ちてくる瓦礫に潰されリタイヤとなっていく。


「いてて……でも勝ったぜ!」


 それから。


「あはははは!!!! どうだ俺の天才的な奇策は!!!! アハハ!!!!!」


 と大いにまだ生き延び苦しむ敵の前で笑い始めた【神眼の神災】。


「ば、ばけもの……」


「目がやられてなにも見えねぇ……頼む殺してくれ……」


「熱いし真っ暗だし息苦しいし何も聞こえねぇ……頼むだれか助けてくれ……」


 そんな願いを全て無視する蓮見こと【神眼の神災】。

 それから全員の敵意がなくなった事を確認し終えると『不屈者』の効果でHP一で耐えた蓮見が瓦礫の山と化した燃え盛る火の海から歩いて出て行く。オレンジ色の炎は眩しく燃え広がり全てを焼き尽くしていく中、水色のオーラを纏いし最恐はニヤリと微笑んだ。


「まさかここで会うとは……ちょっとやべぇかもな……」


 一難去ってまた一難の蓮見が目にした相手とは……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る