第233話 【神眼の神災】のピンチ


 廃墟の中は太陽の光がほとんど差し込まず薄暗い。

 だけど外から差し込んでくる太陽の陽が中を照らしてくれているので動くのには困らないぐらいの明るさはある。


「なるほど、ここは30F建ての高層マンションで非常階段は三か所あるのか。それと支柱となっている柱は九本……」


 蓮見は逃げ込んだ先の一階にあった全体のフロアMAPを確認していた。


「それにしてもエレベーターが使えないんじゃ逃げるにしても……あっ」


 物音が聞こえてきたので、視線をそちらに向けると【ラグナロク】のギルドメンバーが入ってくるのが見えた。


「逃げるか……全力で全速ダッシュ!」


 戦う事を諦め生き残る事に全精力を注ぎ非常階段へと走り始めた蓮見。


「逃がすな! ここは三方向から逃げる事が可能だ。第一部隊は右、第二部隊は俺と一緒に中央、第三部隊は左から攻めろ!」


 【ラグナロク】のギルドメンバーは事前の情報収集によりこの建物の構造を熟知している。そして徐々に蓮見を追い詰める為、迅速に対応していく。ここに来てイベント関連に関する情報収集の差が致命傷となり始めていた。

 逃げる蓮見。

 追いかける【ラグナロク】のギルドメンバー。

 どちらも必死。


 だけどこれだけはわかっていた。

 不利なのは蓮見であると。


 相手は建物の構造を熟知している為、万に一つ逃げ道はない。あるとすればただひたすら上へと逃げるしかない。時間が経てば経つほど蓮見の逃げられる行動範囲は限られてくると言うわけだ。


「はぁ、はぁ、はぁ。マジか……」


 チラッと後ろを振り返り確認するが中々振り切れない相手に蓮見は息苦しさを我慢し逃げ続ける事を継続する。


「やべぇ……このままじゃ……逃げ道がなくなっちまうよな……」


 心の中で不安の種が芽生え始めた蓮見。

 今はまだ十階と逃げ道に余裕があるが、このままではマズいと脳が理解してしまう。そして追い詰められた脳がこの状況の打開策を考え始める。

 その時、蓮見の脳内に今までの光景が走馬灯のように駆け巡った。

 そして思いつく。

 今後を考えれば使いたくない手ではあるが、だけどなんとかなると信じて。


「いける? いや、やるしかねぇ!」


 蓮見は一直線に階段を駆け上がる事を止めて途中色々なフロアを経由し三か所の非常階段を全て使い上へと駆け上がっていく。


「通すか!」


「覚悟しろ」


「あめぇ! これでも喰らいやがれ!」


 閃光弾を投げ敵の動きを制限し、その間に敵に攻撃しある準備を手際よく終わらせていく。そしてある程度準備ができ、後ろを追いかけてきた敵が追いついて来たところで多少のダメージは気にせず受けながらもまた上へと駆けあがっていく。


「にしてもアイツら連携がめっちゃ上手いなぁ……」


 HPポーションを飲み定期的にHP回復をしながら逃げる蓮見。

 だが敵は全員蓮見の攻撃を躱すか致命傷を避けてくる。

 またそれだけでなく、味方が不利になるとすぐに別の仲間が援護にくると正直一人を倒す事すらまだできずにいた。

 これが実力差だと言われればそうなのかもしれない。

 そして今回ばかりは流石の蓮見も自信がなかった。

 これから自分で引き起こす現象に耐えられるのかという自信が。


「だけどそうでもしないと絶対アイツら生き残るよな……はぁー」


 ため息を吐いてまだまだ元気が良い【ラグナロク】のギルドメンバーをチラッと見た。

 それから曲がり角にある消火栓の箱の扉を開けては閉めてを繰り返し、敵の目を盗み廊下の片隅に置き土産を残しては走りと準備を終わらせていく。それから時折交戦と大忙しの蓮見だった。


 ――三十分後。


「ありゃー、もしかして追い詰められた……」


 とある高層マンションのヘリポートの上でとうとう逃げ道をなくした蓮見。

 唯一の出入口である場所は敵によって塞がれ、後方に広がるは落ちれば一発で死亡確定と思われる高所のみ。当然隠れる場所もなければ身を護る場所もない。

 ここまでしても【ラグナロク】のギルドメンバーは油断なく慎重に蓮見に近づいていき本当の意味で徐々に蓮見を死へと追いやっていく。


「気を付けろ。それと下手にスキルは使うな」


「わかっております」


 蓮見の怖さをギルド長から直接聞いた三十人は【神眼の神災】に初めての黒星を付けられると気が緩みそうになるがしっかりと地に足を付けて油断なく攻寄る。


 蓮見が諦めのため息をつく。


「仕方ないか……。これすると俺自身後から里美辺りから何か言われると思ってたんだけどしょうがないよな……。うん、しょうがない」


 蓮見が最後の確認を自分自身にし、色々と正当化する。

 そしてアイテムツリーから出して頭にかけていた暗視ゴーグルを目に被せる。

 各フロア平均して七個以上になるように設置した置き土産に後は全てを任せて鼓膜が破れないように耳栓をしっかりとして叫ぶ。


「スキル『猛毒の捌き』!」


「来るぞー! 総員突撃ー!」


 指示役が剣を天高く上げ振り下ろす。

 それを合図に一斉に敵が動き出した。


「これが俺の名誉挽回の水爆実験だー! スキル『水振の陣』『虚像の発火』!」


「馬鹿め。どこを狙っている。スキル『葉桜』!」


「スキル『ソードアタック』!」


「スキル『かまいたち』!」


 全て明後日の方向へと飛んでいった矢を見て敵が嘲笑う。

 それから容赦なく蓮見を切り刻んでいく。


「ぐはぁーーーー」


 みるみるHPゲージが減っていく。

 七割――六割――五割――と死が近づいてく。

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