第206話 エリカの闘争心と美紀の嫉妬
蓮見とエリカが二人でお出掛け(デート)をした夜――エリカ。
今は自室で珈琲を飲んで、大学から出された課題のレポートを作っていた。
蓮見とデートしてから機嫌がいいだけでなく、調子も良いのかいつも以上のスピードでレポートを書き上げていた。
力学的エネルギー保存の法則の導出についてと高校生によってはまだ学習しておらずわからない内容であり分野である。
力学的エネルギーとは、位置エネルギー、運動エネルギー、弾性力による位置エネルギーであり、外力がない場合に力学的エネルギーの和は一定になる。これを力学的エネルギー保存の法則と呼ぶ。まぁこの程度であれば、
mgh+1/2mv^2+1/2kx^2=const
が成立するのだが、これを指定されたレポート用紙に何故これがこうなりこうなるのかを事細かく書くとなると、簡単に説明しただけでは単位が貰えないので少々面倒なのだ。なぜ大学はこのような高校生でもわかる内容をさらに奥深く学び、それをレポートとして書き上げて提出しなければならないのかと内心思っていたし、おかげさまでかなり精神的に疲れた。
「もぉーめんどくさい! 今日はゲームする予定だったのに……」
ブツブツと文句を言いつつも、大きなイルカのぬいぐるみを抱きしめながら、手を動かしてノートパソコンを使いレポートを書き上げる。
ふかふかして肌触りがいいイルカのぬいぐるみと早くお布団の上でイチャイチャ……ではなく横になりたい一心で頑張るエリカ。
「でもまぁいいっか。蓮見君に沢山癒しはもらったし今日はギルドで会えなくても……」
作業をしながら、今頃蓮見は何をしているかなーと考えてみる。
するとなぜだろう。
今日テンション上げたせいでまた何かをしているのではないかと言う不安と期待が心の中にほぼ同時に生まれた。
「う~ん。でもまぁいいっか。今日の私には関係ないし」
まるで他人事のように、今も何かをしているであろう蓮見に関しては自分は悪くないという都合の良い解釈をするエリカ。
――ちょうど【神眼の神災】がさらなる力(二つ目の新しいスキル)を手に入れているとは知るよしもない
あとで自分達にどのようにそれが降りかかるか知らない方が良い事もある。
ちなみに蓮見は今日の出来事を思い出しニヤニヤしては、イルカ……海……水……水飛沫……水爆だぁ! となにかわけわからない事をつい先ほどまでギルドホームで一人考えていたらしい……。
――十五分後。
「やっと終わったー!」
エリカが椅子の背もたれに体重を掛けて大きく背伸びをする。
それから大きなイルカ――はみ君と共にベッドまで行き、横になる。
はみ君は、はすみのはとみを取ってエリカがレポート途中に命名したことが事の始まりだった。そんなはみ君を抱きしめて温もりを感じているとスマートフォンが音を鳴らす。エリカはポケットからスマートフォンを取り出して電話にでる。
「もしもーし?」
『あっ、エリカ? 今大丈夫?』
電話の相手は美紀だった。
美紀もエリカと同じく今は自室でゴロゴロしている。七瀬と瑠香が二人で新しいスキルを手に入れる為に行動しているので一足先にログアウトしたのだ。
とは言っても、それは後付けの理由で、本当は今日蓮見とのお出掛けがどうだったのかが気になっていたのだ。本当は蓮見に直接聞く予定だったのだが、タイミング悪く美紀がログアウトすると同時に蓮見がログインしてしまった。
「えぇーっても今日はログインしないわよ。大学のレポートで今日はクタクタだからね」
『その割にはテンション高そうだけど、今日の蓮見とのお出掛けはどうだったの?』
蓮見とエリカが今日一緒に映画に行くことは【深紅の美】ギルドメンバーの全員が知っていた。美紀は最初止めようとしたが、別に美紀は蓮見と恋人ではなくただの幼馴染であり、片想いの相手ってだけなのでモヤモヤする気持ちを我慢して何も言わなかった。なにより七瀬と瑠香もたまにはいいんじゃないとどこか大人の余裕を見せる二人に自分だけが焦っても仕方がないと思い手を引いたのだった。
「やっぱりわかるんだ。とても楽しかったわよ」
『映画見ただけ?』
「ううん、その後二人でゲームセンターに行ったわ」
『それで?』
「そこではみ君取って貰ったの。めっちゃ可愛いのよ、はみ君」
嬉しそうに報告を続けるエリカの言葉に美紀が戸惑う。
『ごめん。はみ君ってなに?』
「えっ、知らないの? はみ君!?」
美紀が頭の中でそんなマスコットキャラクターいたかなと考えて見るが、やっぱり心当たりがなかった。
それもそのはず。
ぬいぐるみをプレゼントした蓮見ですら知らないのだから。
それからエリカはスマートフォンの通話をテレビ電話に切り替え自分の顔と一緒に美紀に見せる。
「これよ、これ~。イルカのはみ君!」
それを見た、美紀が羨ましそうに感想を言う。
『わー可愛い! いいなぁ~』
「でしょ~。蓮見君がクレーンゲームで取ってくれたの」
自慢するかのようにはみ君をドアップにして見せつけるエリカ。
その時。
美紀の無防備な胸元に光る物がチラッと見えた。
「ねぇ美紀?」
『なに?』
「今ペンダントかなにか付けてる?」
『うん。これだよ』
それを見た瞬間、エリカの闘争心に火がついた。
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