第207話 はみ君とはす君
それは蓮見が今日のデートの時に、オシャレとして付けていたペンダントに酷似していた。
それからエリカの頭がある答えを瞬時に導きだす。
これはペアペンダントなのだと。
こうなったら私もお揃いの物を渡す! と意気込むエリカ。
だがその前に美紀に確認しておくべきことがある。
「それ綺麗ね。誰に貰ったの?」
『これは私が自分で買ったの。でもこれペアだからもう片方は蓮見にプレゼントしたの』
「むぅ~、なによそれ……一人だけ繋がってるとかズルいわよ」
『あ~エリカがフグになった。可愛い~』
頬を膨らませたエリカを見た美紀がくすくす笑う。
そんな美紀が無邪気で可愛いなと思う事から本気で怒れないエリカ。
「べ、別にいいじゃない。美紀なんて振られてしまえばいいのに……」
『ほほぉ~つまり意訳すると、『美紀と蓮見はそんなに仲が良くて羨ましい』ってことであってる?』
「ち、ちょっと、なに人の本音を簡単に――はっ!?」
エリカは自分で墓穴を掘ったと思い慌てて、はみ君の頭で自分の顔を半分隠す。
『エリカってプライベートではチョロいよね?』
余裕の笑みを見せる美紀。
「……うん。蓮見君が近くにいないときは……結構気が抜けてるから……」
下手に言い訳した所でこうなった以上は美紀に勝てないと思い敗北を認める。
『顔真っ赤なエリカを今からスクショして蓮見に送ってあげようか?』
含みのある美紀の言葉にエリカの顔がさらに赤くなる。
下手に顔を半分隠すのをやめて、「ち、ちょっと恥ずかしいからやめてよ!」と叫ぶ。蓮見に心を満たされたエリカの心はいつも以上にガードが緩んでおり、蓮見と言う名前を聞く度に今日繋いだ手の温もりを思い出しては身体と心を満たされてしまう。その為、か弱い女の子になっていた。
こうなった以上、エリカもとっておきを使う事にした。
「意地悪ばっかりしてると後悔するわよ?」
『あら、嫉妬したエリカちゃんに負ける程私弱くないわよ?』
「え、エリカちゃんって……もう怒った。ちょっと待ってなさい。こうなったら見せてあげるわよ!」
そう言ってエリカがスマートフォンを操作して、今日保存したプライベートフォルダにある鍵をかけた画像を美紀にLINEで送る。
その画像を早速見た美紀の目がウルウルとし始める。
『ちょっと、私がいない間になんでこんなに仲良くなってるのよ!』
美紀が唇を噛みしめて、今にも泣き出しそうな声で言う。
『……ずるい。こんなんばっかりされたら蓮見の心がエリカに揺れちゃうし取られちゃう……。高校生相手に本気にならないでよ!』
「なにを言っているのよ。私達プライベートでは仲良しでも恋愛は敵同士でしょ。美紀ちゃん」
形勢逆転の二人。
美紀は今送られて来たエリカと蓮見のプリクラの画像を見て心の中でお似合いの二人だなと思った。蓮見の腕を自分の胸で挟み込むようにして身体を寄せるエリカ。これが大人の色気であり誘惑なのだろうと心の中で思った。蓮見は少し困っている顔をしているがやっぱり男の子なので、どこか嬉しそうな表情をしていた。
『それはそうだけど……』
「それに私知ってるのよ。ボス戦の日、蓮見君にマッサージをしてあげたでしょ。その時に今日は疲れたからこのまま寝るって言って蓮見君のベッドにそのまま入って二人一緒に寝て、次の日一緒に登校したんでしょ? それに夜甘えて『私、今ね幸せだよ。はすみぃと一緒にこうやって過ごせて』とか言って抱き着いて甘えたでしょ!」
と今まで黙っていた内なる嫉妬心を表に出すエリカ。
すると美紀が「あわわわ~」と言って頬を赤く染めて慌て始める。
『んにゃんでエリカが知ってるのよぉ!?』
だってそれは蓮見と一緒にいたいから適当に理由を付けて夜を共にした日の光景である。
それにその事実は蓮見しか知らない――いやもう一人知っていた事を今思い出す。
「七瀬から聞いたからよ。なんでも次の日ゲームでずっと七瀬に幸せそうに話してたんだってね。途中七瀬が苦笑いしてるのにも関わらずずっとね。そうなるぐらいに幸せな時間を過ごしたのよね、美紀ちゃん?」
そう翌日。
幸せいっぱいの美紀は嬉しさのあまり誰かにこの事実を話したくて話したくて仕方がなかった。なので七瀬に蓮見にだけは絶対に秘密にしてと言って、先日起きた一件をそれはもう幸せオーラ全開で話したのだ。それも一方的に長々と約二時間。
『……うん』
「だったらお互い様でしょ」
『わかったわよ……一人抜け駆けしたのは謝るわ。でも幼馴染なんだし別にちょっとぐらい甘えても罰は当たらないもん!』
「それ私からしたら死ぬほど羨ましいやつなんだけど……」
それから二人はお互いにソッポを向いた。
認めたくないけど、自分とは違う場所で恋のライバルは蓮見を攻略している。
そう認め合ったのだ。
そしてそれが両者の内心恥ずかしながら頑張って行動して稼いだ蓮見のポイントを相殺し合っていた。だから気が付けばお互いに必死になり、その頑張って手に入れた幸せを誰かに話す事で心を満たしたいのだと。なによりライバルに負けたくないし、ライバルよりリードしているのだと心に安心感が欲しいのだ。
『なら死んだら?』
「ちょ、意地悪言わないで!」
『ごめん……でもエリカ今日めっちゃ頬がニヤケてるから今日のお出掛けそんなに楽しくて幸せな気持ちになれたんだなって思うとつい羨ましくて……』
「うん、死ぬほど幸せだったし、ドキドキしたわ。でもね、美紀」
『なに?』
「美紀が必死なのは正直わかる。だって私もそれだけ必死だもん。だからどちらが勝っても恨みっこなしでいきましょ」
『わかった。私絶対にエリカには負けないから!』
「えぇ、私も美紀には絶対に負けないわ」
「『ならお休み』」
二人はテレビ電話を終了して、スマートフォンを枕元においた。
それから一人は部屋の電気を消してはみ君をぎゅーと抱きしめて目を閉じた。
もう一人は部屋の電気を消してこれまたエリカには内緒で蓮見からクレーンゲームで取って貰った虎のぬいぐるみ――はす君をぎゅーと抱きしめて目を閉じた。
その頃、蓮見はある問題にぶち当たっていた。
それは水爆は簡単に起こせないという事実である。
それはそうだろう。核融合反応を簡単に起こせるはずがないのだ。
なにより運営もそこまでゲームを大規模なものにはしていない。ただ水爆が難しいだけで不可能ではないと――次の方法を考え始めた蓮見のテンションはやっぱりエリカとのお出掛け後から異常に高かったことを誰も知らない。
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