第195話 女湯へ行く蓮見
蓮見は一人で江戸の町を歩いて、どんな店があるのかを見ていた。
思ってたよりも広く、また建物に特徴的な目印がないことから、今どこを歩いているのかがよく分からなかった。唯一あるとすれば所々に見える大きなお城ぐらいである。それも大小様々な。
それ以外はどれも同じような建物に店構えな事から、早速迷子になり始めていた。
それから数分後。
本当に自分が何処を歩き、何処を目指しているのかがわからなくなった。
「やれやれ……迷子だな。俺が……」
とりあえずその場で両腕を組んでどうしたら元の場所まで戻れるかを考える。
…………。
…………――。
「良し! 自力で戻る事を諦めよう!」
蓮見の頭脳ではどうしたら元の場所に戻れるのかを正しく考える事が出来ない。
バカだから……。違うゲームに慣れていないから……と言う事にしておこう。
「となると、今から俺の取るべき行動は……う~ん、そうだなー」
冷静にこの状況を分析し始めた蓮見。
まだ第三層には限られたプレイヤーしかこれていないことから、周囲にはNPCしかいない。
これでは帰り道を聞くことすらできない。
こうなったらこの状況を解決する方法は一つしかない。
「まぁ、なんとかなるだろう!」
そう言って矢を一本生成し、地面に突き刺す。
それから手をソッと離すと矢が倒れる。
蓮見はその方向に向かって歩き始める。
何とも原始的な……いや運任せに近いことを分岐点が来るたびにしては訳も分からず突き進んでいった。
当然矢は気まぐれにしか道を教えてくれないので時には道なき道を示したり、女湯と書かれた建物の中へと案内させようとしたりとなんとも言えない結果が度々起こった。それでも女湯の時だけはもう一度と言って矢を生成するのではなく突き進んだ。
すると男は女湯に入っては駄目らしく江戸の警察に早速お世話になった。ちなみに女湯の中は蓮見が期待した裸のNPCはおらず全員白いタオルを巻いて湯舟に浸かり誰も身体は洗っていなかった。罰金5000ゴールドすら払えない蓮見は無一文にされ、釈放された。
「くそぉ~別にいいじゃねぇか。ゲームの中でぐらい」
理不尽な怒りを感じながら今度は適当に歩き続ける。
すると。
「おっ! まさかの城門」
だが城門前には武装した武士二人が槍を持ち立っている。
無一文となった蓮見は考える。
もう身ぐるみを剥がされる事もないしとりあえず中に入ってみようと。
そのまま城門をくぐり抜けようとするとNPCが槍の矛を向けて蓮見に話しかけてくる。
「そなたは敵か? それとも我が主が呼んだ救世主か?」
そして蓮見の前にパネルが出現する。
そこには『救世主ですか? YES/NO』と書かれていた。
「うん? これはもしやクエスト?」
そう思った時、蓮見の女湯での怒りがなくなった。
クエストと言えば成功報酬がゴールドやスキルとなる。
これはチャンスと思い、ニヤリと笑いながらパネルにタッチする。
当然YESである。
「これはとんだ失礼を致しました。ではこちらに」
武士の一人が蓮見を城門の中へと案内する。
「お気を付けください。いまから相手にしてもらうは何せ凶暴なだけでなく常識が通じない奴です。その為我々では手が出せません」
そのまま案内されるがまま連れて行かれた先は一つの大きな倉庫のような場所であった。
「ではご武運を」
そして倉庫の中へ入った蓮見。
すると倉庫の壁に一定間隔で掛かったロウソクに火が付き全体を薄暗く照らす。
「うわっ!? びっくりしたー。ん? あの影は一体……」
倉庫の奥からゆっくりとした動きで姿を見せたのは――。
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