第194話 欲望
第三層は和をイメージした江戸の町。
NPCキャラが男性は武士、商人、中には落ち武者になっていたり、女性は着物姿とこれはまた今を生きる若者にとっては新鮮な場所だった。
周囲に視線を向ければ昔ながらの木で出来た長屋の数々。
田んぼの上を牛が歩いていたりと普段ではお目に見られない光景の数々。
これもゲームの醍醐味の一つと言うものであろう。
それに見る限りだが、着物屋には値段のプレートと一緒に着物が置かれていることからファンションも出来るらしい。
それを知った五人一同の心が躍った。
「良し! なら各自ここからは自由行動ね!」
「「「は~い!」」」
エリカ、七瀬、瑠香が美紀の言葉に元気よく返事する。
が一つ声が足りない。
そう思い四人の女の子が残りの一人がさっきまでいた場所に視線を向けると、そこには誰にもいなかった。
「あれ?」
「どこ行った?」
「さぁ?」
「あっ! 紅さんいました!」
瑠香が見つけて指をさす。
すると一人スキップをしながら自由行動を勝手に始めていた張本人――蓮見がいた。
「まぁいいんじゃない」
「そうね、紅君が今回一番頑張ったものね」
美紀とエリカはお互いの顔を見渡して暖かい視線を送る。
それを見た七瀬もまた微笑み納得する。
何を隠そう今回は蓮見の機転でボスを攻略できたのだ。
ただまぁ、皆巻き沿いになったがクリアはクリアである。
だから七瀬もまた今日ぐらいは何も言わないでおこうと思ったのだ。
「紅さん楽しそうですね」
「だね。ならルナはお姉ちゃんと一緒に江戸の町を見てみない?」
「うん! ならお姉ちゃん、私着物着たい!」
「おっ! いいね~。ルナの着物姿絶対似合うと思う」
「本当?」
「うん。本当本当。ってことで里美、エリカさん私達は私達で今日は好きにさせて」
――モミモミ
そう言って七瀬は美紀の胸をさり気なく揉んでから瑠香と歩き始めた。
突然の事に美紀の顔が赤くなり、七瀬の手が胸から離れて数秒後にようやく何をされたのかがわかった。
そしてその光景を運が悪いことに遠目で蓮見が見ていた事に気が付く。
よく見れば鼻の下を伸ばして「いいなぁ~」と言っている。声が聞こえなくても美紀の目はしっかりと蓮見の口がなんて言っているのかを捉えた。羞恥心を怒りに変えて大きくジャンプし七瀬の頭にげんこつを本気の本気でした。
「だから胸揉むな~!!!」
ドゴッ!!
「いたぁ~~~~~ぃ」
突然の事に両手で頭を抑える七瀬。
「何度言えばいいのよ。人前で特に紅の前では恥ずかしいからダメって言ってるでしょ!!」
「ごめんなさい」
「もう私怒ったから! ミズナの奢りで私も着物買う!」
「なんで私が里美の分を……」
怒った美紀の冷たい視線に七瀬が負ける。
「いえ。しっかりと奢らさせて頂きます」
「本当? ミズナ大好きよ」
つい寒気を覚えてしまう言葉に七瀬がゾッとした。
それは瑠香にも感染したらしく、口をポカーンと開けて静かに何も言わずにその場を見守っているだけだった。
「ならエリカ! 私達は四人で色々と見ましょ!」
「えぇ、そうね」
エリカは美紀の目を盗んで蓮見にメッセージで『いいもの見れて良かったわね。ただあんまりそうゆうのばかり見てたらお姉さん嫉妬して怒るわよ』と送った。
それを見た蓮見は逃げるようにして一人何処かへと行ってしまう。
「もぉ~素直なんだから。可愛い」
エリカはそんな蓮見を見て、やっぱり思春期の男子高校生なんだなと思った。
それでいて素直で可愛い。
かと思いきや、急に頼りになる姿を見せてくれたり、女の子を甘やかすのが上手だったりとかなりの好印象である。
「ほら、エリカ~早くしなさい。おいて行くわよ~」
ゲーム関係で待つと言う言葉を知らないのか、蓮見の背中を今も遠目に見ているエリカを美紀が急かす。
「は~い。今から行くわ」
「もぉ~遅いんだから」
「ゴメン。ゴメン。てか里美さっきまで怒ってたりにはもう普通ね」
「そんな事ないけど……。まぁミズナがお金を出してくれるなら水に流そうかなって」
「なるほど。なら私の分もお願いね、ミズナ」
「えぇ~ってエリカさん!」
「なに?」
「裏で荒稼ぎしてるの知ってますからね、私! つまりこの中で一番お金持ってますよね!?」
「さぁ、なんのことかしら?」
「笑顔で誤魔化さないでください!」
「うふふっ」
「二人共そんな事はどうでもいいから早く行くわよ!」
そう言ってもう待てないと身体で示す美紀に三人の女の子が付いて行く形となった。
女の人のファンションは男の人とは違いそれ相応のお金が現実でもゲーム内でもかかるのだ。
とは言っても七瀬もまたトッププレイヤーなので懐にはかなりの額を溜め込んでおり四人分のファンション代を仮に全額出しても微々たる物だった。がそれでも今後の事を考えるとあまり出したくなかったのだ。
だって美紀の衝動買いが一度始まると普段我慢している物欲が……。
一気に爆発してしまうのだ!
それが女の子のストレス解消方の一つなのだから仕方がないと言えば仕方がないのだろう。
「まぁ、いいっか。里美のおかげで私もこうして楽しいわけだし」
七瀬は誰にも聞こえない程度の声でポツリと呟いた。
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