第172話 美紀と瑠香、何を思い何を願う


 エリカの犠牲は美紀、七瀬、瑠香にとっても大きく、心の中で焦りになっていた。


「エリカ……うそでしょ……」


「嘘ではない! そもそもお前達が私達に喧嘩を売ったこと自体が間違いだ!」


「そんなわけない! 絶対に私達は負けない! エリカの思いを絶対に無駄にはしない!」


「ならばやってみろ!」


 美紀とソフィの力は拮抗しておりすぐに崩れる気配はない。

 このまま時間を掛けてもどちらに勝敗が決するかは正直わからない。それぐらいまでに両社の力は拮抗していた。


 美紀は疲れが溜まり自身の動きが鈍っている事に気付いていたが、泣いても笑っても後少しでイベントも無事に終わる。そう思って最後の力を振り絞って槍を手に持ち戦う。


「スキル『パワーアタック』『連撃』!」


 美紀の攻撃に対して。


「ふん。スキル『アクセル』!」


 ソフィは美紀の攻撃を躱す為バックステップをする。

 美紀は疲れが溜まり技のキレが落ちており、ソフィはその事実を見抜いていた。その為難なく回避行動を取り、そのまま美紀に反撃する。


「スキル『連撃』!」


 すぐに美紀が反応し回避行動に移ろうとするが、疲労が溜まっていたのは肉体だけでなく脳にも言えたらしく反応が一瞬遅れソフィの双剣が美紀の身体を切り刻む。


「キャァァァァ――」


 戦場で初めて膝を付いた美紀。


 それを横目で見ていた瑠香と七瀬にはかなり辛い光景となっていた。


「里美さん!」


「里美!」


 二人の心配する声に美紀は槍を支えにして立ち上がる。


「私は大丈夫だから! 二人はスイレンとそいつらをお願い!」


 息が乱れ誰が見ても疲労困憊の美紀。

 対して落ち着いた様子でまだまだ元気そうなソフィの表情は真剣で油断がなかった。


「スキル『爆焔:炎帝の業火』!」


 七瀬の魔法が集団で二人を襲うとして進もうとしているプレイヤー達を燃やし尽くす。

 赤い杖と赤い髪はまさに火の妖精をイメージさせる。

 七瀬の最大火力の魔法にスイレンが苦笑い。


 MPポーションを急いで飲む七瀬を数人のプレイヤーが背後から襲うが姉妹のコンビネーションに隙はない。

 プレイヤーの背後から更に一人の少女がレイピアを手に持ち暴漢たちを素早く処理する。


「私のお姉ちゃんに手を出すな!」


 七瀬のMPゲージが回復したタイミングで瑠香が動く。


「スキル『睡蓮の花』!」


 狙いはスイレンただ一人。

 スイレンの必殺のスキルが使われる前に瑠香の最強のスキルが繰り出される。


 このタイミング貰った。


 と思った瞬間。

 複数枚の障壁が展開されスイレンを護る。

 それでも瑠香は障壁を突き破りながらスイレンに一撃を決める。


 ――グハッ!


 障壁が緩和剤として効いたらしくスイレンのHPゲージを全て削る事はできなかった。

 しかしこれはこれで相手にとっては精神的ダメージは大きい。



 美紀の劣勢に戦場が傾き出したかと思ったが、瑠香の頑張りと判断に戦局は大きくは変わらず。

 だがこの時【深紅の美】ギルドは全員が限界を超えて動いているために、重要な事を一つ見落としていたのだ。


 そして。


 その事実に今気付いてしまったのだ。



「お姉ちゃん伏せて!!!」


 瑠香がスキル『加速』を使い全力で駆ける。

 その先には七瀬がいる。


「しまった! スキル『破滅のボルグ』!」


 美紀も瑠香が何に慌てているのか気付いたらしく行動に出る。

 スキル『破滅のボルグ』を囮にソフィの注意を惹き、スキル『アクセル』を使い戦場を駆ける。


「紅! こっちに来て!」


 美紀が駆けながら叫ぶ。

 その直後遠距離攻撃のスキルと魔法が入り混じった敵の攻撃が行われた。


 疲労により視野が狭まり気付くのが遅れた為に起きた悪夢。


 数に任せた超広範囲攻撃かつ属性もバラバラ、種類もバラバラと無秩序に似た攻撃が【深紅の美】ギルドの四人に襲いかかる。


 美紀は綾香が攻撃から避けるように後退したタイミングで蓮見の元に合流してそのまま思いっきり身体ごと飛びかかる。そして無秩序に飛んでくる攻撃の雨から身を挺して蓮見――ギルド長を護る。


「……後は任せたから。信じてる、紅なら絶対にを起こすって」


 そして美紀は蓮見、瑠香は七瀬を護り、最後の言葉をそれぞれ残して光の粒子となって消えていった。



 蓮見は光の粒子となった美紀を抱きしめて、両手に力を入れ拳を震わせる。

 そして弓を手に取り、仲間の思いを引き継いで立ち上がった。


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