第173話 最後の賭け




「スキル『精神防御』!」

 ここからは防御を捨て、攻撃に集中する。

 一時的にINT値が上がった。


 蓮見の目の前に金色の魔法陣が出現する。

 それは神々しく光輝き、魔法陣の淵には魔術語で書かれた文字が浮かんでいる。


「ここは賭けに出るしかねぇ、スキル『罰と救済』! エリカさんが繋いで里美が繋いでくれたこの命、絶対に無駄にはしねぇ!!!」


 今回はこれだけでは終わらない。


「スキル『虚像の発火』!!!」


 蓮見のMPゲージが全てなくなる。


「あ、あれは……魔法!?」


 驚き戸惑いの顔を浮かべる綾香。

 だがそんな綾香を無視して。


 放たれた矢は金色の魔法陣を通り、赤いエフェクトすら燃やしてしまいそうな勢いで荒々しく燃え始める。


「スキル『幻の桃源郷』!」


 すぐに反撃に移る綾香。


「甘い! その矢を撃ち落とせば私の双剣が届く!」


 綾香の双剣の一本が矢に触れた瞬間、それが強制テクニカルヒット判定され綾香の身体にかなり強い衝撃を与える事に成功した。幾ら実力者とは言え小柄な身体でそれを受け止める事は出来なかった。


 そして蓮見の最強の一撃をもってして綾香の最強の一撃を防ぐ事に成功した。


「……きゃ!?」


 地面を転がりながらもすぐに起き上がる綾香。


「まだ……こんな力が残っていたなんて」


 時間的にもこれが蓮見の最後の一撃となるだろう。

 MPポーションを飲んだ蓮見が力強く叫ぶ。

 もう綾香に通用する手はこれしかない。

 詠唱を使い今すぐに使える最大火力かつ数での勝負。


 ――残り時間、約三分。


「今こそ目覚めろ! 最恐にして最強の力! 法陣は更なる進化の過程に過ぎず! 矢を正義とするならば、悪を貫く理由となるだろう! 目覚めろ『猛毒の捌き』!!!」


 詠唱により強化された三十本の毒の矢が蓮見の後方に出現した紫色の魔法陣から勢いよく連射される。これで蓮見の『猛毒の捌き』の残りスキル回数はゼロ。


 蓮見の狙いに気付いた七瀬が叫ぶ。


「紅受け取って! スキル『爆焔:chaos fire rain』!!!」 


 七瀬の味方に対する補助魔法の一つ。

 それは蓮見の毒の矢を全て呑み込む。


 上空に出現した巨大な魔法陣を出口にしてその数を十倍にして放つ。デメリットとして自分の魔法は対象に出来ない欠点があるが今はそんな事は関係ない。

 七瀬の味方攻撃に対する最強支援魔法で最後の切り札である。


 蓮見の放った猛毒の矢、三十本が十倍、つまり三百本、と言う本数に化けて綾香と綾香に集中した蓮見を不意打ちで倒そうとしていたプレイヤー達に向かって降り注ぐ。絶対貫通を持った蓮見が使ったスキルが故に慌てて展開された障壁の数々を容赦なく貫きプレイヤー達を襲うその光景は正にと呼べるだろう。地面に刺さった矢が次々と地面を毒のフィールドに変えていき、完全毒耐性がない者のHPゲージをじわじわとむしばんでいく。仮に解毒をしても降り注ぐ矢と毒の沼と化した地面が再びプレイヤーを毒状態にする。正に悪夢。その悪夢は七瀬の存在を忘れ去れさせる程に敵からしたら恐ろしかった。


「うわぁ~あの矢よく見たら紅が操作してるし……。てか……標的か地面に突き刺さるまで操れたんだ……恐ろしいな。そんでもってKillとテクニカル連発って……本当に味方で良かった……」


 七瀬は気付いてしまった。


 敵プレイヤーが次々と倒れていき、蓮見に近いプレイヤー程毒の矢がよく飛んでいきテクニカルヒットもしくはKillヒットを連発していることに。そして絶対貫通が発動した矢はKillヒットをしても止まらない、消滅しないという事実にも。


 ついに人の領域を超えたと思わせる者は戦場で立っているだけでものの数秒で数十人のプレイヤーを倒し、綾香、ソフィ、スイレンには容赦なく降り注ぐ矢を操りKillヒットをただひたすら狙っていた。その為一撃死のある攻撃を撃ち落とす事に三人の手が一杯になる。一撃でも喰らえばその時点でゲームオーバーなのだから。


 誰かが冗談で言った言葉。


 ――ラスボス。


 それはある意味間違っていなかったと証明される。


【雷撃】の言葉が意味するように攻撃重視のソフィ、綾香が完全に後手に回り、スイレンはようやく知った。リュークが何故七瀬をこれほどまでに欲していたのかを。さっきの魔法を仮に朱雀に使えば必殺のコンボとなるだろう。そして何故周りがここまで【神眼の天災】を警戒するのかを。【神眼の天災】は仲間の力を得ることで異次元の強さを手にしている。


 数え切れない殺傷はほぼ一方的に行われ、沢山の光の粒子が舞う戦場。


 蓮見を狙い最後の抵抗として放たれた魔法は二十三の毒の矢が全て撃ち落とし、悪あがきとして突撃してきたプレイヤーには四方八方から飛んでくる毒の矢が頭部や心臓に向かって飛んできて無駄に終わりと……。


 希望が絶望に変わり、約束された勝利がなくなる。


 火と毒は人を襲い、最後まで常識では測れず。


 人々の悪い予感は当たり、惨劇は繰り返される。


 第一回イベントから始まった伝説は更に進化し、第三回イベントでも名を刻む事となった者。


 その名は【神眼の天災】。




 ――。


 ――――。



 …………だけど勝負はまだ終わっていない。

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