第161話 綾香の必殺スキル
慌てて蓮見を探していると、上から音が聞こえた。
それは蓮見の放った虚像の発火による矢。
赤く燃えながら勢いよく飛んでくる矢でもあった。
「スキル『加速』!」
再びスキルを使い、綾香が横に全力でダイブしギリギリのタイミングでこれを躱す。そのまま横に飛んだエネルギーを足に伝えて地面に着地しようとしている蓮見目掛けて走り始める。
チラッと横目で後方支援を期待してみるがエリカ、そしていつの間にか合流している瑠香によって支援が断たれていた。あの二人を相手にしながらこちらの支援は無理だと判断する。瑠香相手に幾ら精鋭の三人でも近接戦闘に持ち込まれれば厳しい事は言うまでもないからだ。
「スキル『焔:炎帝の怒り』!」
すると今度は別方向から赤い魔法陣から出現した勢いよく燃え盛る炎が飛んでくる。
「きゃぁぁぁぁ!?」
綾香は衝撃で身体を吹き飛ばされながらも空中で態勢をすぐに立て直す。
「私を舐めないで! そう、私が求めていたのはこの緊張感よ! 最高!」
そう言って綾香は再度蓮見に突撃する。
綾香は先程の七瀬の攻撃でHPゲージが残り三割となった。
「紅! 今度こそこれで終わり! スキル『幻の桃源郷』!」
綾香の必殺スキル。自身を中心に半径三メートルの魔法陣を出現させる。魔法陣の中にいる相手は脱出ができず、そのプレイヤーの三秒先までの可能性のある未来を見通す事が出来る。更にそこから攻撃力が上昇した十連撃。
故に回避は不可能。
小声で。
「……スキル『猛毒の捌き』」
「へぇ~、躱そうとしないんだ!」
全く回避行動を見せない蓮見に綾香が勝利を確信した。
ここで先ほど蓮見の口が僅かに動いていた理由に気付く。
いつの間にか蓮見の後方に出現していた紫色の魔法陣。一瞬七瀬の魔法陣かと思った綾香だったがそれが間違いだと状況から察した。
三十本の毒の矢が蓮見の後方に出現した紫色の魔法陣から勢いよく連射される。
この瞬間綾香のHPゲージが満タンまで回復した。
このままではどの道自分達では瑠香とエリカのタッグに勝てないと判断した後方支援部隊が最後の力を振り絞り、ソフィと綾香に全てを託し倒れていったのだ。
そして綾香の双剣が蓮見の身体を切り裂くより、一秒にも満たない僅かな時間差で矢が先に到着する。圧倒的な手数のハンデに綾香の顔色が一気に青ざめる。毒の矢は綾香の身体を次々と貫通していく。
気づけば蓮見が発動した『猛毒の捌き』で綾香のHPゲージはゼロになった。
「グハッ……」
いや……。
なるはずだった。
だけどHPゲージが一だけ残ったのだ。あいにく蓮見のスキル攻撃を真面に受けた綾香の必殺のスキルは強制的に解除されすぐに大きくジャンプをして一度蓮見から距離を取る綾香。
――スキル『不屈者』
これを持つのは蓮見だけではない。
そう――。
――綾香も持っていたのだ。
「はぁ、はぁ、はぁ……。まさか完全毒耐性なかったら本当に負けていた。ってか相変わらず瞬間火力が高いスキル持ちすぎでしょ……ワクワクしちゃうじゃない」
綾香は口で息をしながらもこの状況にゾクゾクしていた。
「今のは死ぬかと思った。だけどね、一度見ればもう行ける。ちなみにまだ奥の手あるの?」
「あると思いますか?」
「いいねぇ~。そう言うって事はあるって事だね。私待っていたんだよ。こうやって勝つか負けるかわからないギリギリの勝負ができる相手の事をね! それも紅みたいに先が見えない相手を!」
「それはありがとうございます」
蓮見が視線を逸らして何かを確認する。
その視線の動きを追うようにして綾香も見る。
するとソフィが美紀、七瀬、瑠香、エリカの四人掛りに苦戦を強いられていた。
つまりはお互いのギルド長をどちらが早く倒せるかと言うこと。
少なくとも【深紅の美】ギルドは蓮見なら大丈夫だと信頼し一気に勝負に出ている。トッププレイヤーを含む四人相手ではソフィが負けるのも時間の問題。
ならばやることはただ一つ。
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