第159話 完璧なコンビネーション
「スキル『アクセル』、死ぬなよ神眼、スキル『連撃』!」
ソフィが小さい声でボソッと呟いて、蓮見を狙い一直線に突撃する。
「スキル『導きの盾』!」
「甘い!」
ソフィが『導きの盾』を躱し、そのまま突撃する。
ソフィも綾香と同じく双剣プレイヤーでありながら、その実力は綾香に劣るも勝らない。
綾香からの情報、そして偵察隊からの数多くの情報を元にソフィはソフィで蓮見対策をっしっかりと頭の中で考えていた。
そして蓮見の強さは美紀や七瀬と言った強力なプレイヤーの援護が合って初めて効果を発揮するのではないかと考えていた。
その為、油断や隙はない。
「スキル『アクセル』!」
最前線にいた美紀がすぐにカバーに入り、ソフィの突撃を正面から受け止める。
二人の武器が衝突し凄まじい衝撃波が起きる。
だがそんなソフィの背後にいつの間にかいた綾香が今度は突撃する。
当然美紀はソフィの足止めだけで手一杯の為、何もすることができない。
「今だ!」
「スキル『虚像の矢』!」
虚像の矢は蓮見の使う虚像の発火の亜種の一つで、相手の視覚認識を虚像の矢へと向け、本体はその虚像の影に隠れて飛んでいくスキルである。また周囲のスキルにも同様の効果を与える。
「「スキル『ダブルライトニング』!」」
敵の弓使いと魔法使いの攻撃が綾香を援護するようにして飛んでいく。
狙いは全て蓮見である。
そして偵察隊の報告から蓮見は『迷いの霧』『猛毒の捌き』『罰と救済』を既に何回も使っていて残弾がそんなに残っていない事を知っている。そして一番の脅威である『投影』は既に使い切っている事を。
綾香の警告通りソフィは【深紅の美】ギルドの拠点を偵察隊が見つけてからずっと蓮見達には気付かれないように尾行を続けさせていた。その為、蓮見の切り札が何なのかも当然知っている。
故にソフィは確信している。
弱り手の内が全てバレた【神眼の天災】など脅威ではないことを。
つまり【雷撃の閃光】ギルドは本気で蓮見の首を取りに来ているのだ。
これ以上暴れる事は許さない、そう言わんばかりに。
「スキル『連続射撃3』『虚像の発火』!」
しかし五本の矢が全て空を切った。
「ルナ!」
「はい!」
突然の出来事に驚く蓮見を護るようにしてエリカが蓮見に向かってダイブし一緒に真横に飛ぶ。そしてエリカが躱し切れなかった魔法の盾になる。
「きゃぁぁぁぁ」
そして蓮見を狙おうとする綾香の渾身の一撃を瑠香が身体で受け止める。
グハッ!?
瑠香に綾香の追撃が入る。
「スキル『恵みの光』!」
すぐに七瀬がエリカと瑠香の体力を回復させながら杖を大きく振りかぶり背後から攻撃するが、大きくジャンプされ躱されてしまう。
蓮見とエリカはともかく、瑠香もトッププレイヤーの一人である。ダメージを受けてもある程度ならすぐに反撃に移ることも、急所を外す事も出来る。
「大丈夫ですか?」
「あぁ」
「良かった……はぁ、はぁ、はぁ……」
「エリカさん?」
「大丈夫。それよりあのスキルは厄介そうね。まさか紅君の視覚を騙してくるなんてね」
蓮見はその言葉をすぐに理解した。
確かに黄色い丸や赤い丸は見えていた。だけど今までの感覚から魔法に向かって放つと何故か虚像を射抜いてしまうのだ。恐らくシステムアシストの影響を受けて頭で認識した視覚情報とは別に身体に染みついた攻撃の感覚に誤差が生じているのかもしれない。
瑠香と七瀬が合流し、態勢を立て直そうとした矢先に綾香は回り込むようにして蓮見とエリカに向かって走り始める。
「ソフィ!」
綾香が叫ぶ。
その言葉に反応し、ソフィが美紀との攻防の一瞬を突いて蓮見を挟撃するようにして突撃してくる。
「「スキル『アクセル』!」」
二人の移動速度が上昇する。
美紀も慌てて追いかけるが、美紀とソフィのAGIは殆ど同じで離される事もなければ追いつく事もない。
瑠香と七瀬は目で二人の動きは追えても、『アクセル』を使った二人に今から追いつく事は出来ない。
唯一蓮見を護れる立場にいるエリカでは二人の斬撃を受け止めることはできない。
これはレベル差以前にプレイヤーとしての技量の問題である。
「これで終わりだ神眼、残念だったな」
「ゴメンね、もう少しやれると思ったんだけど紅には死んでもらうよ」
ソフィと綾香からの死の宣告。
つまり二人の目にはエリカの存在は映っていない。
故に二人の攻撃の矛先は蓮見ただ一人。
二人の必殺となるスキルの一つが発動する。
「「スキル『幻影の舞』!」」
二人合わせて残像を含む四十四連撃が蓮見の身体を容赦なく切り刻む。そして最後の一撃を受けた蓮見の身体から赤いエフェクトと一緒にHPゲージが凄い勢いで減少し始めた。
勝利を確信した二人は微笑みながらエリカの虚しくも最後の反撃を簡単に躱して仲間部隊に合流した。蓮見のHPゲージが九割、八割、七割、六割、……二割、一割を切りゼロになる瞬間HPゲージが一だけ残り止まった。
自動発動スキル『不屈者』の効果である。
多連撃攻撃とは言え、それは一つのスキル、そしてそれが同時に使われた事でシステムが一度の攻撃と認識した結果である。二人の練習によって寸分違わない完璧なコンビネーションが仇となった瞬間であった。
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