第147話 投影者


 瑠香のレイピアを受け止め、七瀬の魔法を受け止めと器用に戦っていたスイレンの雰囲気が変わる。それと同時に瑠香と七瀬は一旦攻撃の手を止めて、様子を見る。

 そして蓮見はその間に一人考える。

『迷いの霧』はもうそんなに使えない。かと言って他の使用制限があるスキルは殆どがその場限りの物ばかりだ。ここで全部を使うわけにはいかない。だけど使わなければ恐らくリュークと名乗る男には勝てないだろう。


「どうするかな……」


 すると次々と飛んでくる炎剣。

 蓮見は全神経を集中させて躱し、躱せない剣については撃ち落としていく。


 視界を少しずらせば、瑠香と七瀬相手にスイレンが自爆に似た猛攻を仕掛けていた。

 これには流石の二人もかなり苦戦しているらしく、蓮見の助けをすることは無理である。


「ほら、踊れ、踊れ!」


 リュークはそのまま手を上に向けたまま微笑んでいる。

 反撃をしたくても次々と生成される炎剣の数々。

 そもそもMPゲージが足りないのではと蓮見が違和感を覚えるがそれはすぐに解消された。


 後方でリュークとスレインを見守っていた部隊の数人がリュークの近くに来てMPポーションを水を被せるようにして沢山使っていた。

 だけどそれとは別に出現した赤い炎陣に蓮見は危機感を覚えた。


「いくぞ【神眼の天災】。スキル『朱雀の陣』!」


 蓮見の視界の先には神々しく燃える炎で出来たかなり大きな鳥――不死鳥がいる。

 羽を動かすたびに熱風が周囲を襲う。それにKillヒットポイント、テクニカルヒットポイントの数が極端に少ない。Killヒットポイントは不死鳥の心臓部でテクニカルヒットポイントは頭と両羽の三つだけ。


 耐熱に関してはダメージを受けないが、問題はそこではない。

 見ただけでわかる、この一撃は本格的にマズイと。


「やべぇ……かっこよすぎる……俺もこのスキル欲しいな……」


 そしてこの瞬間、蓮見の興奮が緊張を凌駕し始めた。




 その頃、リュークは外部から大量のMPポーションをかけてもらい、強引に朱雀を維持していた。本来であればすぐに突撃させたかったのだが、なにせ相手は【神眼の天災】。一撃で破壊でもされたらたまったものではない。そこで朱雀の周りに炎剣を大量に作り一斉攻撃をする準備をしていた。

 一日の使用制限がある炎剣だけでなく朱雀の使用とリュークはリュークで蓮見を最大限に警戒していた。正真正銘の一日一回限りの切り札をこちらは使っているのだ。これで倒さなければ非常にマズイのだ。朱雀は一日一回限りではあるが、それは絶対追尾効果を持つ数少ない超強力なスキルである。かつてこれを受け止めた者は七瀬とルフランの二人しかいない。だけどその七瀬はスイレンによって足止めされルフランもこの場にはいない。つまり落ち着いて戦えば絶対に勝てるはずなのである。


「さて、フィナーレとしようか」


「この勝負私達の勝ちですね」


 今からでは対処が間に合わないと判断したスイレンが攻撃の手を止めてリュークに合流し仲間部隊からHPを回復してもらう。

 瑠香と七瀬は自分達のHPも赤色でありながら慌てて蓮見の元へ駆け寄ろうとした。


 だけどこの時、リュークは失敗している事に気付かなかった。


 蓮見の興奮、モチベーションを上げると言う事がどれだけ危険であるかを。


「スキル『投影Ⅲ』!」


 瑠香、七瀬、リューク、スイレンの四人がその言葉につい唾を飲み込む。

 そのまま蓮見を護るようにして後方に出来た赤い炎陣からもう一体の不死鳥が出現した。


「「……はっ!?」」


 驚くリュークとスレイン。


「「……えっ?」」


 戸惑う瑠香と七瀬。


 蓮見は本日三回目の投影を使った。

 そう今の蓮見には相手の切り札であろうが、なんであろうが完全再現する事が可能なのである。


「悪いな、実は俺も使えるんだ! ってことで今度はこちらの番だな」


 そう言ってニヤリと微笑む蓮見に全員が警戒をする。



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