第148話 後先考えて


 そしてあくまの囁きとも取れなくない言葉が戦場に響き渡る。


 不死鳥の影響で蓮見のMPゲージはどんどんなくなっている。それを気にする事なく詠唱を始めた。それは相手に取ってはある意味好都合。MPゲージがなくなればスキルの維持が出来なくなり消滅するのだから。


「今こそ目覚めろ。最恐にして最強の力。法陣は更なる進化の過程に過ぎず。矢を正義とするならば、悪を貫く理由となるだろう。目覚めろ『猛毒の捌き』!!!」

 狙うは敵ギルド長――リュークただ一人である。

 

 蓮見の後方に出現した紫色の魔法陣が出現する。

 それは詠唱により強化されている。


「これが俺の全力だぁーーーーーー!!!」


 蓮見が叫ぶと不死鳥が天高く舞い上がり、紫色の魔法陣からは毒の矢が勢いよく放たれる。


 スイレンはすぐにリュークの炎剣にスキル『投擲分身』を付与させて数を増やし援護する。


 ただ蓮見の毒の矢も炎剣もお互いに自動追尾性能を持っており躱すだけでは埒が明かない。


 上空では二体の不死鳥が激しくぶつかり合っている。


 リュークは自身でMPポーションを飲み、不死鳥を維持している。


「……はぁ?」


 そして蓮見に接近し、大剣を振りかざした。


「なんで今歌っている?」


 リュークの問いかけを無視する蓮見。

 そして返事の変わりに、ニヤリと笑う。


「紅さん! 伏せて!」


 蓮見がその言葉を聞いて姿勢を低くすると瑠香が後方から凄い勢いで突撃してきた。


「スキル『睡蓮の花』!」


 だがリュークはそんな瑠香の攻撃を見切ったのか一歩後退しながら持っていた大剣で攻撃を防いだ。


 そして今度は透き通るような声。

 だけど確かに殺気を帯びた声が聞こえてくる。


「スキル『幻影:幻の彼方に』!」


 突如背後に現れたスイレンに蓮見が驚く。

 スイレンはまだ一歩もあの場から動いていない。なのにも関わらずもう一人のスイレンが確かに殺気を纏い蓮見の真後ろに現れたのだ。


「……しまった」


 蓮見がスイレンの一撃を喰らう瞬間水色のオーラが消え、HPゲージが満タンになる。

 七瀬の『恵みの癒し』の効果だ。

 おかげで一撃死がなくなった蓮見はそのまま強引にダメージを受けつつもスイレンに反撃する。だけど攻撃は全て躱された……違う、身体をすり抜けていったのだ。なのに向こうの攻撃は喰らうと何とも不思議な状況に頭がパニック状態になり歌う事を止めてしまう。

 それと同時に不死鳥の維持の為にまた蓮見のMPゲージが減っていく。


「私達の紅に手を出すなぁ!」


 そう言って今度は七瀬がスイレンの分身体を持っていた杖と『水手裏剣』で攻撃する。

 そのままスイレンの気を惹きながら七瀬がMPポーションの瓶の蓋を開けて蓮見に中身をぶっかける。

 飛んでくる炎剣とスイレンからの攻撃に対して、七瀬は蓮見の正面に立つ。


「スキル『導きの盾』!」


 七瀬が広範囲に展開した『導きの盾』に蓮見が守られる。


 蓮見は今も大剣で撃ち落とされる毒の矢を見て、標的を不死鳥へと変更する。

 そして総合的な扱いの差で劣勢であった蓮見の不死鳥は間一髪の所で助かる。


「なっ!?」


 これには流石のリュークも驚いている様子。

 それもそのはず、背後から飛んできた毒の矢が不死鳥の両翼それもテクニカルヒットポイントとなる場所に綺麗に刺さっており更に今は蓮見の不死鳥が口から火を吐きその身体を容赦なく燃やしている。


「……って、アイツなんでもありか!」


 言葉を吐き捨てるリュークに対して。


 瑠香と七瀬が。


「「当たり前よ!!」」


 と叫ぶ。


「不死鳥そのまま敵ギルド長を焼き払え!」


 蓮見の命令にリュークの不死鳥を倒した不死鳥が今度はリューク本人を狙い攻撃する。

 敵の注意が上に向く。

 元々リュークの切り札ともいえる不死鳥の力は折り紙つきである。


 ギルドメンバーと共に不死鳥の一撃に対抗するリューク。


 その隙にスイレンが蓮見を倒そうとするが、それを瑠香が止める。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る