第141話 北の勢力図



「すげーーー!!! だったら俺も見せてやる! 里美頼みがある」


「なに?」


「あの男達だけでいい。何とかできるか?」


「わかった! なら後は何をするか知らないけど私を巻き込まないようにお願い。信じてるから絶対に私をま・き・こ・ま・な・いって!」


「は、はい。善処します」


「ん、紅? 私の敵は紅だっけ?」


「いえ、違います。絶対に巻き込まないと約束します」


「良し!」


 美紀が頷いて接近中の男達に向かって走り始める。

 今の蓮見は一時的にとは言え枷が外れている。

 だったら目の前の敵を全て倒せばいいだけなのだ。

 簡単に誰でも出来る事ではないが、今の蓮見になら可能である。


 とは言っても、後半の事を考えれば全ての力をここで使うわけにもいかない。

 だから毒の雨と毒の草原で人数を減らす必要があった。


 この状況でもニヤリと笑う蓮見。

 そう忘れてはいけない。

 蓮見のテンションを上げると言う事は……天災が起きる予兆でしかない事を。


「スキル『罰と救済』!」

 蓮見が射撃体勢に入ると、金色の魔法陣が前方に出現する。

 それは神々しく光輝き、魔法陣の淵には魔術語で書かれた文字が浮かんでいる。

 だがこれ単体ではスキルの性能を引き出す事は出来ない。

 それでも全員の警戒心を引き上げるのには十分過ぎた。


「なにあれ……。爆発系統のスキルじゃないわよね……」

 敵の反応は当然ながら美紀も初めて見る光景に念には念を入れて警戒をしておく。


 そして警戒心が高まった敵は下手に動く事を止める。


「スキル『虚像の発火』!」

 蓮見の構える矢の先端が炎を灯す。

 矢は赤いエフェクトを纏う。


「悪いが龍だろうが恐竜だろうが俺は倒す!」


「氷結龍! あの人間を倒して!」


「炎龍! 行きなさい!」


 主の命を受け、氷結龍クリスタルドラゴンが大きく息を吸いこむ。

 そして体内で高密度エネルギーと変換して口から吐き出す。

 それは大地の震わせ、周囲の空気を切り裂く音を鳴らしながら蓮見へと向かっていく。


 反対側からは炎龍が突撃してくる状況にただの弓使いである蓮見が勝てるわけがない。

 全員がそう思った。


 だけどその男は笑顔のままだった。


 蓮見が氷結龍の吐き出した高密度エネルギー化された魔法に向かって矢を放つ。

 矢は金色の魔法陣を通り、赤いエフェクトすら燃やしてしまいそうな勢いで荒々しく燃え始める。

 どんなに強力な一撃でも正面からそれも変化なくして飛んでくる魔法攻撃ならば核となる部分が見えている蓮見には関係ない。

 そのまま矢は魔法攻撃を正面から引き裂きながら突き進む。


 ――『絶対貫通』を持つ蓮見が使うからこそ矢は最強となる


 そして魔法攻撃を貫通した矢は龍の心臓を貫き、一瞬で氷結龍を倒す事に成功する。念には念をとスキルを使用したが、どうやら必要なかったらしい。


「甘いな! スキル『猛毒の捌き』!」

 蓮見の後ろに出現した紫色の魔法陣。

 直径は三メートル程とまぁまぁの大きさである。

 魔法陣が光輝くと同時に、紫色の矢が30本連続で放たれる。


 それだけでなく。

 魔法陣から放たれた矢は空を飛び、飛んできた矢を躱したはずの炎龍のテクニカルヒットポイントとその術者となっている魔法使いを追尾し襲う。


「「「「「「「きゃああぁぁぁぁぁああああぁぁぁぁ!!!!」」」」」」」


 炎龍も氷結龍と同じくダメージを受け過ぎた為に、後数センチで蓮見を噛みちぎろうとした所で消滅する。

 初めて対人戦闘で二つのスキルを使った蓮見は感覚を確かめる事に成功した。

 攻撃が単調が故にその性能をしっかりと確認できなかったが、これで心の中にあった不安が一つ取り除かれた。


 最早自分達の必殺を簡単に破られたギルド同盟は精神的な支柱を失い戦意を喪失していた。その後蓮見と美紀によって全員倒された。

 戦場にギルド長が運よくいた事で【深紅の美】ギルドは十九の拠点を一気に獲得した。そのほとんどが小規模拠点ではあったが【神眼の天災】の準備運動としてはかなりの戦果と言えた。


 流石の蓮見も疲れが見え始めた事から一旦二人はエリカ達が待つ拠点へと帰る事にした。

 二人から拠点を奪い返すなら今が絶好のチャンスなのだがもうそんな事が出来る勢力は北には存在していなかった。

 北にあるギルドは既に異変を感じていたが、風にのって舞う煤煙に嫌な予感がしており、下手に動く事を止めていた。

 こんな無茶苦茶な事をするのは一人しかいないからだ。

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