第140話 龍を操る者


 蓮見の気の向くままどんどん北へと侵攻する。


「それにしても誰も襲ってこない。ったく人がせっかくやる気だした時に限ってこれだもんなぁ。俺ついてねぇ」


 美紀、七瀬、瑠香、エリカが今までやってきたのはあくまで敵の拠点破壊と敵ギルド長を倒すだけだった。


 しかし蓮見の近くにいるだけで熱耐性がないプレイヤーはHPを奪われる事になる。


 そこに美紀もいる。かなりの自信がない限り襲ってくるマヌケはいなかった。


 そう、既に七つのギルド拠点を焼け野原にしていもだ。


「ありえない……。まだ燃やすつもりか……」


 蓮見は『虚像の発火』で更に森の木々を燃やしていく。


 これでは奇襲をしたくても火の海の中に敵が身を隠さないといけなくなることからある意味合理的ではあるが、何かが可笑しいのだ。


 すると火の海から逃げるようにして、慌てて数人のプレイヤーが飛び出したかと思いきや逃げ帰っていった。


「なんだ? 俺を案内してくれるのか?」


 真剣に考え始める蓮見に背後から近づき頭にチョップを入れる美紀。


「バカな事言ってないでササっと追いかけるわよ」


「お、おう!」


 そう言って美紀は距離感を意識しながら敵プレイヤーを追いかける。

 蓮見は美紀の後ろを走って追いかける。


 しばらくすると先程逃げていったプレイヤーが拠点の中へと走って入っていった。


 するとギルド周辺にある森の中から囲むようにして沢山のプレイヤーが姿を見せる。


「囲まれた……罠?」


 美紀が慌てて周りを見ればもう二人の逃げ道はなく、ぐるりと沢山のプレイヤーに囲まれていた。


「え? マジ?」


 一瞬にして形成が逆転した蓮見達の元へ先程逃げたプレイヤーが装備を変更して出てくる。


「火事には焦ったがもうお前達の負けだよ」


「どうゆう意味かしら?」


「どうゆう意味もここに居るのは総勢三百七人。お前達の進軍先にいる全ギルドによる連合ギルドだ。ギルド長十七人による最強連合だ! どうだ、びびったか!?」


 流石にこれだけ暴れれば蓮見対策として連合ギルドが出来ても不思議ではない。

 それにこの数は流石に本気で戦っても負けるかもしれない。

 美紀の直感がそう感じ取る。

 敵のギルド長がここにいるのかすらわからない状況では全員を相手にするしかない。

 仮に逃げるとしてもこの数を相手に逃げて自分達の拠点まで引き連れて行くのは危険すぎる。


「このままじゃ幾ら紅とは言え負けちゃう……? ん? 何してるの?」


 だが普通の人間とは少し違う蓮見の目はキラキラしていた。

 それはもうお菓子の山を見つけた子供のように。


「いいぜ! まとめてかかってこい! 俺も少々本気で行くぜ!」


 アイコンタクトで美紀に許可を取る蓮見。

 チラッ、チラッ、チラッ。

 すると美紀がため息を吐いた。


「はぁ~。いいわよ。てか勝てるの?」


「無理!」


 勝算がありそうな雰囲気だった蓮見がハッキリと答える。

 それには美紀だけでなく周りのプレイヤー達も反応に困ってしまった。


「んっ?」


「だからとりあえず楽しむ。ってことでスキル『投影Ⅲ』!」


 蓮見を中心とした上空に四つの巨大なボールが出現する。

 巨大なボールは出現すると、すぐに風船が割れるようにしてパンッと音を鳴らして割れると中に入っていた毒の液体を地上にばら撒くようにして降り注ぐ。これは蓮見が面白そうと思いギルドの一つを潰している時に敵が使ったスキルをコピーしておいたのだ。名前は忘れてしまったが中々便利が良いスキルである。地面に降り注いだ雨は何もプレイヤーを襲うだけでなく地面に生えた草を浸食し毒の草原へと変えていく。

 完全毒耐性がある蓮見にはただの雨だが、蓮見以外には正に死の雨と言っても過言ではない。毒耐性【大】を持つ美紀ですら徐々に減っていくHPゲージ。これは魔法使いのみが本来は使える使用制限があるかなり強力な魔法なだけあって厄介なのだ。運悪く中途半端な耐性しか持っていないものやそもそも毒耐性を持っていない者から次々と毒は命を喰らっていく。


 蓮見が悲鳴とは別に声のする方に顔を向けると、魔法使いが集団で魔法攻撃の準備に入っていた。


「あれはマズいわよ。あの時精霊が使っていた物とは威力が桁違い過ぎる」


 慌てる美紀。

 十四人の力を合わせた魔法使い専用の高火力魔法の一つに対抗出来るのは【深紅の美】ギルドでは七瀬しかいない。だがその七瀬は今拠点にいてここにはいない。


「「「「「スキル『炎龍』!!!!」」」」」


 龍は炎で出来ており、その眼光は思わず息を飲み込んでしまうものだった。

 そして蓮見と美紀を鋭い眼光で睨みつける。

 龍は降り注ぐ毒の雨を自身の身体を覆う高熱の炎で蒸発させる事で毒のダメージを無効化していた。


「「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉ」」」」


 そして別方向からはこのままではどの道負けると思い、動揺が吹っ切れたのか剣や斧を持った男達が襲い掛かってくる。


「私達も負けてられないわ! 行くよ、皆!」


「「「「「「スキル『氷結龍クリスタルドラゴン』」」」」」


 魔法使い十五人のMPゲージを全てを使い召喚された白き龍に蓮見はワクワクが止まらなくなっていた。


「ウォォォォォォォーーーーー!」


 誰がどう見ても見ただけで強いとわかる白き龍の咆哮が戦場の雰囲気を一気に変える。

 連携スキルや魔法はかなりの人数が必要になる事が多いが決まればかなり強力でそれだけで戦局を変えることだってある。

 だがどんなに万能な生物でもいずれは滅びる運命から逃れる事は出来ないのもまた事実ではある。

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