第十四章 動き出した者達

第142話 変幻自在


 イベント開始から四時間が経過した頃。


 【深紅の美】ギルドの中で瑠香が目を覚ます。



「……ヤバイ、寝てた」


 瑠香は重たい瞼を擦り、窓の外にいるエリカと七瀬に目を向ける。

 二人共何か楽しそうにお話ししていることから、特に危険な状態ではないと判断する。


「それにしてもちょっと休むはずが気付けば寝てしまうとは……」


 瑠香がイベント専用MAPを確認すると、蓮見と美紀がこちらに戻って来ている途中だった。


 外に出て、大きく伸びをしてから二人の元に行き、謝ろうとすると。


「あっ、起きた? ルナ頑張ったもんね。どうするもう大丈夫なの?」


「まだ疲れているならもう少し休んでていいよ」


 とエリカと七瀬が気を利かせて笑顔で言ってくれた。


 瑠香もそうだが七瀬も久しぶりの本気に身体がまだ本調子ではなく、思っていたより後から疲れが襲ってきたのだ。その為、三人でこまめにローテションで休憩をしていたのだが、見た感じ七瀬はもう大丈夫そうだ。


「ところで敵は?」


「誰も来てないわよ」


「良かったぁ~」


「そうね。まぁここから先はトッププレイヤー達も動き出すと思うし、迂闊に動くプレイヤー達も減ると思うわ」


 エリカの言う通り、ここからは前半戦では体力を温存していたトッププレイヤー達が動き始めると思われる。瑠香やスイレンのようにトッププレイヤー同士が対立しない限りお互いに負ける事は殆どないだろう。つまり、ここからは体力の温存がどれだけできていたか等も重要になってくる。


 そんな事を一人思い、考えていると石段を登る二人のプレイヤーが姿を見せる。


 そしてそんな二人がこちらに来るのを静かに待つ三人。


「ただいまー。とりあえず北はなんとかなったし楽しかった!」


「MAPを見る限りなんとか……じゃなくて完全に制圧したの間違いでは?」


 七瀬は苦笑いをしながら蓮見に向かって呟いた。

 なんとかなったと言うのは、ギリギリの状況だった時に使う言葉なのだが、今目の前にいる【人型人造破壊殲滅兵器】はピンピンしている。と言うか、イベント開始前よりテンションがとても高いように見えなくもない。


「それにしてもあのスイレンって人と闘ったって聞いたけど、二人共元気そうでなによりだ。特にルナは頑張ったってエリカさんが里美に報告くれて俺も聞いたぞ。ヨシヨシ」


 そう言って蓮見が瑠香を褒める。

 褒められた本人である瑠香はニコニコして喜んでいるのだが、七瀬とエリカはそれはちょっと違う気がするなと思わずにはいられなかった。なぜなら二人はスイレン相手に精一杯だったのだ。蓮見を基準とした元気はもうないのだ。


 蓮見はそのまましばらく拠点に残る事にした。


 スキルの使用制限が減ったのもあるが、これだけ派手に暴れたので敵ギルドが集団で襲って来ても可笑しくなかったからだ。


「とりあえずしばらくは私達も休憩するわ。防衛任せていいかしら?」


「いいわよ」


「それでしばらくしたら、また紅を中心に攻めてくるわ。っても今度は私じゃなくてもいいけど?」


「了解。ちょっと考えさせて」


「私もです。とりあえず少し考えさせて下さい」


 美紀の質問にエリカは視線を逸らし、七瀬と瑠香は少し考える猶予を貰った。

 普通に考えたら防衛より攻撃の方が楽しいのだが、蓮見と一緒にとなるとそのハイペースが故にどうしても先の体力が心配になってしまうのだ。

 それに防衛でもスイレン程のプレイヤーと戦えるとなると二人としては文句はないわけで。とても悩ましい状況での判断に二人は考える。このままここに残るか、美紀と変わり攻めに転じるのかを。


 だけど結局の所、蓮見の相手を美紀一人に任せていては美紀の体力がと言う観点から今度は二人が付き人として攻める事となった。


 三十分後、蓮見は前衛と後衛の支援を手に入れ再び戦場へと舞い戻る。

 それはもう邪魔する者を蹴散らす【人型人造破壊殲滅兵器】としてでもあり【天災】としてでもあり、なにより【神眼の天災】として。


 変幻自在の最強のアシストを手に入れた蓮見を止めるのは大規模ギルドでさえ容易な事ではなかった。


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