第139話 【天災】から【神災】?


 七瀬と瑠香がスイレンを見事撃退した頃、蓮見は天災を起こし歩いていた。


「んーと、今度はこっち行ってみるか!」


 蓮見は【疾風】装備を活かして戦うのではなく歌いながら歩いている。

 周りから見たら隙だらけ。

 一発不意打ちを喰らわしてやりたいところではある。

 だけどそんな余裕は殆どの者がない。

 理由は誰が見てもすぐにわかる。


「スキル『虚像の発火』!」

 歌を歌い自己回復したMPゲージを使い容赦なく放たれる攻撃は山火事を起こし惨劇と化していた。


「そして燃えるぅ~バーニングソウル♪ バーニングソウル♪」

 その山火事は周囲にある拠点へと燃え広がりダメージを与える。

 それもそのはず熱耐性を拠点が持っているわけがないのだ。


「はぁ……頭が痛くなってきた……」


 美紀は楽しそうに歌う蓮見を見て、ヤレヤレと頭に手を当てる。

 今美紀の視界にはMP回復の為に歌う蓮見と、拠点が燃え慌てるプレイヤー達がいる。

 誰もが予測していなかった事態だからこそ慌てているのだ。

 仮に蓮見を倒しても自然災害に似たこの状況が止まることはない。

 水属性魔法を扱える者がいないギルドには正に運がないと言えよう。

 更に大規模ギルドならともかく小規模、中規模ギルドが蓮見対策で熱と毒耐性を両方手に入れるにはあの短期間では短すぎた。

 そのため自身のHPゲージも減らされてと混乱が混乱が招き、過去最大のパニックを目の前の男は引き起こしていたのだ。


 あろうことかそれでも蓮見を狙ってくる者を排除するのが美紀の役目なのだが、この場面だけを見ると蓮見の方が圧倒的に強いイメージしかわかない。というかもう人類の敵である魔王か何かではと思ってしまうぐらいである。


「スキル『ライトニング』」


 既に熱によるダメージと炎によるダメージを受けている者は美紀の一撃ですぐに倒れてしまう。


「あっ、拠点燃え尽きた」



「そうね……」


 燃え尽きた拠点は数秒で綺麗な状態で復元し【深紅の美】ギルドに制圧される。

 運よく他の拠点を持っていたギルドはすぐに撤退を開始する。

 それが次の蓮見の標的の場所を教えているとは知らずに。

 そう逃げ回る彼らの頭の中にはもう戦うと言う選択肢は残っていないのだ。

 

 何かが違う!


 そう思わせるだけの力が蓮見にはあった。

 現に蓮見が拠点制圧に動き出してからは北西にある拠点が次々と【深紅の美】ギルドに制圧され始めていた。徐々にフィールドの端へとプレイヤー達を追い込み逃げ道を無くしていく蓮見。


「よし! 次はあっちだな!」


「…………」


「あー早く本気で戦いてぇ~! イライラする~って事で燃やそぉ~! おぉ~」


 蓮見の魔法陣を使うスキルはまだ美紀に封印されている。

 それは綾香を含むトッププレイヤー達が襲ってきた時の為の切り札でもある。

 美紀がこの状況をエリカ達に報告するとすぐに三人から返信が来た。


『最早【天災】ではなく【神災】(しんさい)ね! 今度皆に自慢するわ!』

 頭可笑しいのか喜ぶエリカ。

 そしてさり気なく新しい呼び名を命名する。


『なにその半永久機関的なMPは……? てかさっきからこっちにも煤煙(ばいえん)が飛んでくると思ったら犯人は紅か! 誰が【人型人造破壊殲滅兵器】を暴走させて来いって言った!』

 驚いているのか怒っているのか感情の変化が忙しそうな七瀬。

 てか【人型人造破壊殲滅兵器】とは……一体なんのことだ。

 もしかしてエヴァンゲ……じゃなくて暴走状態の〇号機ならぬ蓮見の事を言っているのだろうか……。



『誰ですか? 紅さんはまだ弱いって言ったの? これじゃあもう第三回イベントのラスボスじゃないですか……。 しっかり手綱握っておかないとですよ?』

 美紀が悪いかのように言ってくる瑠香。

 確かに多くのプレイヤーから狙われると言った意味では間違っていないのかもしれない。


 美紀は一度大きく息を吸いこんで腹の底から叫ぶ。


「誰一人私の味方いないじゃない! 普通に考えてまずは私の気持ちに嘘でもいいから少しは同情しなさいよ、ったく……もぉ。この人でなし三人組!!」



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