第137話 三人のトッププレイヤー
蓮見と美紀が動き出したのは、イベント開始から二時間と四十分が経過してからだった。
蓮見と美紀の疲れがしっかりと抜けてるまで休憩していたからである。
その間にエリカは残りの罠を設置。
七瀬と瑠香は諸事情により痛む自身の胸を擦りながら見張りをしてくれた。
流石に蓮見には喧嘩を売りたくないギルドもいるらしく七瀬と瑠香を見るとすぐに逃げ出すパーティーもいた。
その時に、あるパーティーがボソボソと引き返す途中に言っていた。
「あそこは手を出すだけ無駄だ。なんでも【神眼の天災】が【雷撃の閃光】ギルドの偵察隊それも精鋭の偵察隊を血祭りにしたみたいだぜ」
「マジかよ。そんなの俺達じゃ勝てるわけがねぇよ」
「あぁ。だから今のは見なかった事にしようぜ。下手に殺されてモチベ下げられても嫌だしな」
「賛成」
「私も~」
何処のギルドかはわからないがたまたま罠の配置の為に茂みに身を隠していたエリカがある男女のパーティーの会話を聞いたのだ。
それをエリカが蓮見達に言うと。
「やっぱりあの時あそこに一人いたのか……」
何かを思い返すようにして言う美紀。
「本当に紅の噂って出回るの早いわよね? 私達も【灰燼の焔】と闘ったのに!」
何処か不服そうに言う七瀬。
「そうですよ! 私も頑張ったのに!」
すんなりと納得がいかない瑠香。
そして。
「流石俺様だぜ! 良し! この調子でめっちゃ目立つぞ~!」
一人テンションが違う蓮見。
となったのだ。
正に噂すら武器に変えてしまう【深紅の美】ギルドはこの瞬間から攻撃される頻度が一気に減った。
その為七瀬と瑠香の負担が一気に軽くなり、攻め込んだ者は逆に私達も負けてられないと闘志を抑えきれない七瀬と瑠香にボコボコにされる。それが更なる噂となり始めた。
エリカはその間暇なのでひたすら拠点の中で新しいアイテムを調合し作っていた。アイテムでは個数制限があっても素材のままだったら持ち込み可能なアイテムは沢山あったのだ。
「にしても紅君にポーション一杯あげたけどまだいるかな?」
エリカは仲間の為と言うよりかは蓮見の為に一生懸命頑張っている。
美紀と七瀬と瑠香からはちゃっかり少しとは言えお金—-ゴールドを貰ったが蓮見に対しては全て無料で配布していたところを見る限りあながち間違いではないだろう。それは蓮見が三人と比べて超絶貧乏だからなのか、恋心がそうさせていたのかはエリカだけの秘密だった。
「お! やっと敵来たね。瑠香行ける?」
「当然!」
二人は遠目から確認して、エリカに罠の使用を求めなかった。
必要な時は声を掛けると言ったのだ。罠も有限であり無限ではない。
何よりこのやる気を無駄にはしたくなかった。
「見つけた。やっぱり一人で来て正解って感じね」
「アイツ……確か第一回イベント六位の奴だよね?」
瑠香が何かを確認するようにして隣にいる七瀬に質問する。
「うん」
七瀬はサラッと答える。
スイレンは一人でここまで来た。
つまり向こうも余程勝つ自信があるのだろう。
トッププレイヤーの場合、味方が実力不足で足手まといとなるようならばソロで戦った方が圧倒的に強い。
「へぇ~私の事知ってるんだ。ところで提案が一つあるんだけどいいかしら?」
「なに?」
「私達の所にこのイベント終わりで構わないわ。是非姉妹揃って来てくれないかしら? ギルド長は貴女達二人を欲している。もし二人が望むなら幹部として迎え入れるわ」
「悪いけど遠慮するわ」
「私もです」
「やっぱりそう簡単にはいかないわよね」
スイレンは何処か諦めたように呟く。
七瀬と瑠香は過去に【灰燼の焔】からギルドに入って欲しいと何度か誘いを受けていたがどうもパッとしなかったので二人は誘いを全部断っていた。
この二人を欲しがるギルドは【深紅の美】ギルドだけでなく数えればキリがない。
故にこうしてギルドに所属しても【灰燼の焔】を含み他のギルドから定期的に誘いは来るのだ。
「だったら悪いけど私の短刀の錆になってもらうわ」
そう言って短刀を抜き、構えるのは【クノイチ】の異名を持つ、スイレンだ。
七瀬は第二回イベントの時スイレンと闘っているが、その時はお互いに時間の無駄だと判断し途中で判断し戦いを中断した。しかしあのまま続けていれば七瀬が負けていたと言う確信が彼女の中にはあった。
だけど今回は瑠香もいる。
絶対に負けるわけにはいかない。
「スキル『霧隠れ』!」
スイレンの声に合わせて、霧が出現しスイレンの姿が見えなくなる。
更には視界が悪くなり二、三メートル先を視認がするのがやっとな状況となる。
敵の目を欺き、小柄な機動力を活かした戦い方が【クノイチ】のスタイルである。
「スキル『投擲分身』!」
スイレンが投げた一本のクナイが二人に向かって分身しながら飛んでくる。
「来る!? スキル『導きの盾』!」
気配だけで何かくると踏んだ七瀬は全方向からの攻撃に耐えられるようにして『導きの盾』を使う。石段で足場が悪い。隠れる場所と言えば石段の横にある足場がかなり悪く傾斜がかなりキツイ山道。
スイレンはそこに生えた沢山の木の枝を足場にして動いている。
耳を澄まし僅かに聞こえてくる木の枝が不自然に揺れ動く音を捉えた七瀬。
そして瑠香に耳打ちをする。
瑠香はコクりと頷く。
今も連続して飛んでくるクナイに『導きの盾』の耐久値がなくなり消滅する。
それと同時に二人が動く。
「スキル『ペインムーブ』!」
「スキル『水手裏剣』!」
スイレンの投擲から動きを見切った瑠香が攻撃する。
そして逃げ道を塞ぐようにして水手裏剣がスイレンを襲う。
だがそれはスイレンの持つスキルによって防がれてしまった。
「スキル『精霊の盾』! ふふっ、相変わらず隙がないわね」
「ふっ……スキルを使わずとも簡単に躱しそうなやつがうちには一人いるわよ!」
「そうです!」
七瀬と同じく上位の盾スキルの一つである『精霊の盾』は役目を終えると消滅。
そしてそれと同時に瑠香が連続で攻撃を仕掛ける。
しかし攻撃は全てスキルなしで躱され、最後は後方に大きく飛び距離を取られてしまった。
三人共がトッププレイヤーであるためにお互いの手の内は知っている。
その為中々決め手となるような事もなければ、一方的な戦いになることもなかった。
ただ第二回イベント終わりから成長したのはお互い様。
故に相手の動きを完全に見切った方に勝機が訪れる事を三人は理解している。
瑠香もまたスイレンとは第二回イベントではプレイヤーKill対象として一度は命を狙われ対峙していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます