第136話 最強夫婦


 あれから三十分後。


 北にある中規模ギルドは周辺のギルドと不可侵条約を結び防衛陣が暇を持て余していた。

 周辺ギルド以外からの侵入に備えての小規模精鋭防衛陣である。


「それにしても俺達は暇だな?」


「そうだな。不可侵条約を結んでから敵が誰一人来ねぇ。これじゃ暇すぎて楽しくねぇ」


「だよな。それにこれも所詮失っても大丈夫な予備拠点だしな」


「確かにな。どうせなら俺達も前線に出てトッププレイヤー達と一度戦ってみたかったなぁ」


「アハハ!」


 そんな優雅な二人の耳に敵襲の声が聞こえてくる。


「敵襲! 敵は二人! 既に第一防衛線が突破された!」


 たったの二人?

 そう思い第一防衛線は何をやっていると思い様子を見に来た者達全員の身体が緊張に支配される。


 絶対に招き入れてはいけない者がやって来たように。


 その者はゆっくりと歩き、確実に拠点へと近づく。

 そして今も突撃し勇敢に立ち向かったプレイヤーを一撃で倒す。


 たった一人の少年とそれを護るように少し前を歩く一人の少女。


 一人は【俊足】シリーズを装備し、一人は【白雪】シリーズを装備している。



 このイベントにおいて遠距離攻撃且つ拠点の障壁を一撃で破壊出来る者。



 その者は、数々のイベントで暴れ名を轟かせた。

 その者は、全てを火の海へと変え毒を操る。

 その者は、未だに誰にも止められず神出鬼没。


 そう、【神眼の天災】は死を恐れず自ら敵地にたった二人で乗り込んできたのだ。


 常識的に考えればギルド長である【神眼の天災】が拠点から離れるわけがないのだが、やはり彼の常識と世間の常識は違う。そして彼の常識に影響を受けた者たちもまた世間の常識からは逸脱し始めていた。


「落ち着け! 俺達が負ければ同盟ギルドまで危険に晒される! だが勝てば俺達の実力が証明される! 行くぞ!」


「「「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!」」」」」


 雄たけびが戦場に木霊する。


 だがその雄たけびは仲間だけでなく二人の闘争心にも火をつけてしまった。


「スキル『破滅のボルグ』!」


「スキル『虚像の発火』!」


 美紀は力の差を見せつけるように走ってくる一人に、蓮見は拠点の障壁に向かってスキルを使用した。


 蓮見を護りながら戦う美紀。


 その間に蓮見がたった一撃で数十発の魔法に耐えられる中規模拠点の障壁を破壊する。


 そんな蓮見を止めようとするプレイヤーは全て美紀に返り討ちにされる。


【神眼の天災】対策は誰かが火と毒だと言った。


 だけどそれだけじゃダメだった。


 本当に【神眼の天災】対策をするのであればそこに拠点防衛を入れるべきだった。


 噂に踊らされたギルドは大慌てとなった。


 敵は二人、更には二人の特徴から攻撃手段、防御手段と言った情報もある。


 だけど動く事の出来ない拠点を護れば美紀にやられ、プレイヤーを護れば蓮見に拠点が潰される。結局半分ずつ戦力を裂けば力不足で両方ともやられる。


 何をどうしても止められない。


 蓮見が矢を放つ度に拠点が危険になる。


 そして拠点を落とし、蓮見の狙いが敵プレイヤーへと変わった時、戦局は一方通行となる。

 最強夫婦と称される理由はここに合った。

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