第134話 こぼれた笑み
蓮見は弓を片手に持ち、堂々と立っている。
美紀はすぐに蓮見の元まで行き合流する。
「なんで紅がここに?」
その言葉は美紀だけでなく敵からしても気になる事であった。
ギルド長の死はチームの負けが確定する。そのためかなりの実力者でもない限り前線に出てくるわけがないのだ。
それなのにも関わらず、この男は平然とした態度で立っているのだ。
「なんでって里美が大変そうだったから……?」
その言葉に全員が言葉を失う。
この男頭のネジがとうとう緩んでしまったのか……。
「なら今拠点は無人なの?」
「いや。エリカさんとミズナさん後はルナが今はいるよ。エリカさんの作戦は概ね終わったらしい。だから完璧じゃないけど作戦は次の段階に移行。だけどエリカさんが里美が負ける前に行け! って言うからとりあえず助けに来た」
そう言って不敵に微笑む蓮見。
「ならここからは俺が相手してやるよ。かかってこい!」
弓を構える蓮見。
そして深呼吸。
美紀はそんな蓮見を見守るようにして後ろで待機していた。
「スキル『連続射撃3』。我が命ずる。秩序を乱す者達に裁きを与えよ。弓は心、弦は心を矢に伝えるバイパス。矢は裁き。裁きの象徴として悪を貫く今こそその真価を発揮しろ『虚像の発火』!」
蓮見のMPゲージが七割減少する。
狙うはクロックただ一人。
「面白い。お前達下がれ!」
クロックは正面から蓮見の矢を受け止める自信があるのか仲間を離して剣を構える。
「なぁ、里美?」
「なに?」
「巻き込んだらゴメン」
「ちょ、待って。う、うそ、よね!?」
美紀は慌ててHPポーションを飲みHPゲージを満タンにする。
そんな美紀を待たずして蓮見は矢の先端を少し前の地面に向ける。
そして詠唱をして威力が倍となった『虚像の発火』が敵前方に五か所同時に放たれる。
それは攻撃と言うよりかは敵も味方も巻き起こる砂嵐、そして爆風により足を止められるMPを無駄に消費した不発となった。ただ破壊力が高い為に矢が刺さった地面には小さなクレーターができ、砂嵐は広範囲に広がった。
そして蓮見はスキル『精神防御』を使い、MNDを補正し【鏡面の短剣】を複製と同時に【鏡面の短剣】の効果である形状変化を使い一本の剣を生成する。
視界が悪く、下手に動けない。攻撃すれば味方に当たるかもしれない、そう言った状況下での蓮見は限りなく強い。
『ホークアイ』の効果で赤と黄色の丸で敵がそこにいる事がわかる蓮見にとっては関係ない。
「スキル『迷いの霧』!」
だけどこれだけではない。蓮見は敵部隊の中心で叫ぶ。
時間が経ち、砂嵐が収まり始めたと思ったタイミングで今度は毒の霧がプレイヤー達の視界を奪う。
毒耐性がないのか攻撃を受けなくても徐々にHPが減っていくプレイヤー達は軽いパニック状態に入り始めた。
パニックとなりなんて言っているのかがわからない沢山の声と足音が混じりる中、蓮見はクロックの首を取りに行く。
周囲の音を利用して近づき、心臓に向かって一本の剣となった鏡面の短剣を突きさす。
がそれは見事に剣で弾かれてしまった。
「マジか!?」
「甘いな。弓ではなく剣での勝負。発想はいいが所詮は猿芝居。俺クラスになれば僅かな音や殺気からお前の次の一手を掴む事ができる。視界がダメなら聴覚を使えばいい。ただそれだけだ」
「だったら、これでどうだ!」
蓮見は鏡面の短剣を捨て、毒の矢でクロックを攻撃する。
だが本当に攻撃が読まれているのか全て躱される。
この際何人かの犠牲が出てもいいのか、クロックは仲間の方には気をまわしておらず、何本かの矢は敵プレイヤーに当たる。
毒の霧が晴れだした頃、蓮見は軽く息を切らして弓を構えていた。
敵の視界が元に戻り始め安心したのか仲間がダメージを受けたもののパニック状態が収まり始める。
蓮見は使用回数がある『迷いの霧』をここは温存しておくことにした。
視界が回復したのは相手だけでなく美紀も同じで、ようやく視界が戻ってきた時には蓮見が美紀と敵の間にいる形となっていた。これでは分断されてしまい蓮見が狙われてしまう。
「しまった!」
そう思い足に力を入れて走り出した瞬間だった。
「いてっ……ってててて」
美紀が何か丸い物を踏んで転んでしまった。
視界が晴れ慌てていた為に足元に注意が足りていなかった。
「ん? なにこれ?」
美紀は踏んだ物を手に掴み確認する。
そして慌てて投げ捨てる。
「バカが。自ら里美と離れるとは。第三部隊は里美の足止め。第一、第二部隊で【神眼の天災】を殺すぞ!」
「バーカぁ! 里美と言いお前達と言いまずは足元を見ろ、このまぬけ!」
そしてようやく全員が気付く。
何故蓮見が走り回るようにして色々と動いていたのかを。
「里美に手を出した罰だ!」
次の瞬間、地面に無造作に散りばめられ表面に赤字で『危険』と書かれた手榴弾の一つに蓮見の矢が当たり爆発した。そこから連鎖的に起こる爆発に当然蓮見と美紀も巻き込まれる。
特に爆発の中心にいた者達はダメージを諸に受けて、生半可な装備だった者や回避行動が遅れた者は気付けばHPを全損し、辛うじて生き残った者達はすぐに態勢を立て直しダメージを受けた紅に襲い掛かる。しかしダメージを受けて自動発動スキル『風を超えて』の効果で水色のオーラを纏った蓮見は早くスキルによる攻撃も当たらなかった。この時蓮見は他の自動発動スキルも併用して使っており、本領を発揮していた。そして蓮見の高速移動についていけないプレイヤーは運よく蓮見の懐に入れても攻撃が当たらず、逆に蓮見の矢の的になってしまった。
「ソフィー様、綾香様……申し訳ございません……」
「ソフィーと綾香? って事はこいつら【雷撃の閃光】だったのね。道理で強かったんだ……」
一人呟く美紀。
美紀は光の粒子となったクロックが動かした口の動きからなんて言ったのかを理解した。
そして美紀はかなりペース配分を考えていたとは言え六人程倒した。
一方蓮見は一人で残り全員を難なく倒していた。
そして思う。
「あの動き……あの時と同じ。前より機械少女に似ている。紅がまた成長した」
最後の一人を倒した蓮見はHPゲージこそ少なかったがとても余裕があった。
これがエリカが作ってくれた新装備【俊足】シリーズの力だと実感していた。
HPがなくなり追い込まれる程、強くなる蓮見を前に、後方支援なしで戦える相手は限られている事が証明された。
爆発に巻き込まれ不機嫌な美紀を見て蓮見は頭を撫でながら、
「さて、一旦帰るか!」
そう言って美紀と一緒にエリカ達の元へと帰る。
その時、頭を撫でられた美紀の顔から笑みがこぼれた。
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