第133話 救世主


 蓮見はその頃拠点を離れてある場所に急いでいた。

 エリカに拠点を任せてただ一直線に。

 そして七瀬と瑠香も今は蓮見の指示を受けて動き始めていた。



 美紀の目は大柄な男だけをしっかりと捉えている。


「クロック? どうする。雰囲気が変わったぞ?」


「うろたえるな。この状況明らかに俺達が有利だ」


 指示役の大柄な男――クロックは部下にそう言って落ち着かせる。


 次の瞬間、美紀が一直線に突撃する。

 美紀とクロックを護る部隊が衝突する。

 後方支援がお互いにないのでHPがなくなり回復が出来なくなった時点で負けが確定する。


「連携は流石ね。だったらスキル『加速』!」


 美紀の移動速度があがる。

 敵の攻撃が空を切り始める。


「ねぇ、連携は確かに凄いけどKillヒットには気を付けないといけないわよね?」


 次の瞬間、美紀が槍を投げる。

 敵は自ら持っていた武器を投げた美紀の行動に一瞬戸惑いを見せる。


「戦場ではその迷いが命取りよ。死になさい」


 飛んできた槍を剣で叩き落とした者の顔が青ざめた。


 槍に集中している間に美紀が懐まで来て、白雪の小刀を懐から抜き心臓に一突きする。

 少し場所がズレたらしく、Killヒットにはならなったがテクニカルヒット判定された一撃は一瞬で大ダメージを与える。そして敵の一人が仲間を助けようと美紀を攻撃しようとしたタイミングで今度は白雪の小刀から手を離しギリギリまで引き付けて攻撃を躱す。その先にいるのは仲間。


「バカね。自分の仲間に止めを刺して」


 美紀は動揺するプレイヤー達を見て、すぐに槍と白雪の小刀を回収する。


「スキル『破滅のボルグ』!」


 すぐに槍を全力でクロックに向かって投げる美紀。


 それだけでなく、自身もまた近くにいる敵プレイヤーへと攻撃していく。


 美紀の敵意や殺意に対する勘は鋭く、仲間を自分達の手で殺したと言う動揺を上手く隠せていないプレイヤーからまずは倒す。


 ここから美紀は敵の攻撃を誘導して連携を崩しに入る。

 だけどこれはあくまで囮。


 ――グハッ


 クロックは槍の一撃を受け止め、片足を地面に付ける。

 仲間の死だけでなく指示役のクロックの負傷に更に動揺する敵部隊。

 動揺が大きくなればそれだけクロックを狙いやすくなるのだ。


 美紀はスキル『巨大化』を使いすぐに槍を回収する。


「うろたえるな! 俺は大丈夫だ! お前達はお前達のやるべきことをすればいい! そうすれば勝てる!」


 クロックの声が戦場に響く。


 そのまま追撃をしようとした美紀の行くてを阻むようにして部隊が動く。


「……ったく、早すぎるでしょ」


 一時的にとは言え、動揺した味方部隊をたった一言で正気に戻したクロックに美紀は敵ながら感心していた。

 そして美紀が当初計算していた体力はもう殆ど全部使いきっていた。


 クロックを敵部隊の隙間から見ればHPポーションを飲み体力を回復している。


 今回は分が悪い。

 ここまでかと美紀が諦める。


 動きを止めた美紀に正面、左手、右手から三人の連携による剣のスキルが発動される。


「ったく、今回は私の負けよ」


 美紀は最後にそう呟いて目を閉じる。

 久しぶりに勝てなかったな、そう思うと悔しかった。

 だけど次は必ず勝つと誓って。


 だがいつまで経っても死なない。というか攻撃を受けない。

 なんで? と疑問に思いながら目を開けるとさっきまで攻撃をしようとしていたプレイヤーが光の粒子となって死んでいる途中だった。


 それに誰も美紀を攻撃しようとしない。

 というか美紀を見ていなかった。


「悪いな。ここからは俺も参加するぜ!」


 そこには深い紅と紫色と黒のラインが入った装備で身を固めた少年がいた。


「……おい、まじか最強夫婦が揃ったぞ。てか三人を全て一撃ってヤバくねぇか……」


 その言葉に美紀が慌てて後ろを振り返ると、この状況でKillヒットを決めた人物が近くまで来ていた。


 救世主、蓮見である。


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