第124話 美紀に警告


 敵の名はリンク――第一回イベント二十一位。

 美紀と同じく槍使いの実力者でもある。



 二人の鋭い眼差しが重なり合う。



 そして二人の頭の中では何度も攻撃と攻撃がぶつかり合い、終局までの流れをイメージする。相手の力量を正確に測る事が出来る者通しだからこそ出来る技である。



 そこに派手さはない、あるのは純粋なPS(プレイヤースキル)だけ。


 二人は同時に動き始め、相手を倒す大ぶりの一撃ではなく、相手の体勢を崩し追い詰めていく為に一撃の重みより攻撃回数を優先した。


 美紀の攻撃は男に弾かれ、男の攻撃は美紀が躱していく。


 男の方が美紀より力ある為、PS(プレイヤースキル)とは別に力を使った攻撃をしてきた。


「スキル『加速』『パワーアタック』!」

 先に仕掛けたのは男だった。

 単純な補助スキルではあるが、一流プレイヤーが使うそれはそこら辺のプレイヤーが使うスキルや魔法より強い。


「……ん?」

 美紀の懐に一瞬で入り込んだ男。

 だが美紀は落ち着いていた。限界まで集中した美紀の目はしっかりと男の姿を捉えており、動きを見てからでも対応できる自信があったからだ。


 その証拠にスキルを使わない男の連続攻撃を美紀は己の勘と技量だけで弾いていく。


「勘がいいな」


「それはどうも」


 男の言葉に返事をする美紀。


 同時に二人のトッププレイヤーはある事を確信する。


 ――まだ話す余裕が少なからずあると。


 そして男は攻撃を止め、急に飛び退いた。


「……ばれた?」

 美紀が反撃しようとした瞬間にそれは起きた。


「……あぶねぇ」


「なんでわかったの?」


「直感だ。女だからって甘く見ていたらあぶねぇって言う男の勘」


 男はそう呟くと舌打ちをした。


「ったく、めんどくせぇ」


 美紀はこの男が自分と同じく殺意や敵意に対して敏感なのだと感じる。

 男は美紀を見て槍を構える。


「悪いな、少々本気で行かせてもらうぜ! スキル『ダブルライトニング』!」

 美紀の持つスキル『ライトニング』の強化版を使う男。

 槍からバチバチと音を鳴らし出現した二本の雷が美紀を挟みこむようにして襲う。


 美紀はすぐに二段ジャンプで上空に逃げる。


「スキル『ライトニング』!」


 美紀はすぐにギリギリまで攻撃を引き付けてから下から襲い掛かってくる雷二本を雷一本で対抗する。


 爆発に巻き込まれ空中で態勢を崩すがすぐに立て直す。


「スキル『巨大化』!」


 そして男目掛けて槍を投げる。


「バカが。スキル『加速』!」


 男は飛んでくる美紀の槍を躱し、地面に着地し槍を持っていない美紀に襲い掛かる。


 そのまま男の槍が美紀の心臓を貫く、そう男が確信した瞬間。



 男の槍は槍の側面を弾くようにして空を切る。


「あっ、言い忘れてたけど。武器の二刀流は紅だけの専売特許じゃないわよ」

 美紀は態勢が崩れた男に間髪入れずに攻撃を入れていく。

 槍を投げて、敢えて隙を作り相手を誘い込む。

 それが罠だと相手が気が付いた時にはもう遅い。


 美紀の短剣――【白雪の小刀】が男の身体を引き裂いて、HPゲージを一気に半分削る。

 だが次の瞬間、美紀は急いで槍を回収しながら男から距離を取る。

 そのまま【白雪の小刀】を懐にしまう。


「手ごたえがないと思って攻撃していたら、まさかカウンターを狙っていたなんて」


「へぇ~、おめぇさんも勘が良いんだな。ってもこっちはほらこの通り」


 男がそう言うと、七瀬と瑠香が戦っている敵ギルドメンバーの後方支援を担当している部隊がリーダーの回復をしていた。


「これは……?」


「へぇ、なに驚いてやがる。これが数の差って奴だ」


 美紀が七瀬と瑠香を見て違和感を覚えたのは敵にまだ余裕がある事だ。

 あの二人の本気を相手にして常にリーダーのHPゲージにまで見る限り全員が意識する余裕があるように見える。これは何かある……と美紀の頭が判断する。


「やっぱり……エリカさんの発明最強ね」


「だね、お姉ちゃん」


 二人の姉妹が遠くで何かを言っている事に気付いた美紀。


 ――これはギルド戦であって、個人戦ではない。


 七瀬と瑠香は遠まわしにちゃんと美紀に警告をしていたのだが、それに美紀が気付く事はなかった。


 その為、この瞬間。


 敵は恐怖し焦り、美紀は焦りを覚える。


「アハハァァァァァァ!」


 森の中から聞こえる声に、周囲の警戒心がMax状態になる。

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