第123話 人気者の蓮見
敵拠点ギルドメンバーの配置や罠、そして敵ギルド長がいる場所の確認まで終わらせた美紀は首をポキポキと鳴らして絶好の攻撃タイミングを待っている。
人数はおおよそ七十人前後。
そのうち二十人前後が中隊を組み、偵察兼攻撃を行っている事に気付いた美紀は偵察兼攻撃で疲れて戻って来た部隊と次の部隊が偵察兼攻撃に出たタイミングを静かに待っていた。その時が敵の防御力が一番下がるかと考えていたからだ。
「偵察隊戻ってきたわね」
「えぇ、次の部隊が出てしばらくしたら私達も突撃するわよ」
「わかってる。それにしてもこうして三人で戦うのは二年振りね」
美紀は集中しながらそう呟いた。
そんな美紀を見て七瀬と瑠香が言う。
「そうね、二年振りかしらね」
「だね。私もワクワクしてるよ、お姉ちゃん」
美紀は持っていた槍を一回見る。
そして昔は今と違いよくこうして三人で戦っていたなと古き良き記憶を思い出していた。
「ねぇ、里美?」
「なに?」
「狙いは?」
「敵ギルド長の首よ。もしギルド長が逃げたら拠点かな。流石に三人じゃ五十人近くを相手にしながらこの拠点を破壊するのは大変そうだし」
「了解」
「了解しました」
集中した美紀は大きく深呼吸をして、敵ギルド長の首をどうやって取るかだけを考えていた。美紀達は蓮見には黙っているがある事を知っている。それは大規模ギルドやトッププレイヤー達から蓮見が狙われている事を。
少し前の美紀達だったらそれは絶望的だった。
だけど今は違う。
今まで無理だろうと思われていた事をゲームを楽しみながら乗り越えてきた蓮見とならきっと何とかなるに変わっていた。
そして。
こんな時こそ、ゲームを楽しまないでどうする!
にここにいる三人の思考は変わっていた。
もしもの話しでもしこの状況を乗り越えられたらと思うと、ワクワクが止まらない。
きっと蓮見はいつもこんな気持ちだったのだろうとは思わずにはいられなかった。
「なら行くわよ」
美紀の言葉に二人が頷き、同時に木の上から飛び降りる。
まずは相手のギルド長の油断を誘う為に奇襲ではなく正面からゆっくりと歩いて行く。
それも偶然見つけた感を装いながら。
「止まれ!」
敵の一人が美紀達に語りかけてくる。
「今すぐ退け。そうすれば見逃してやる」
三人は相談する振りをしながら周囲の状況をより正確に把握していく。
何処に何の武器を持っている人間がいて、ギルド長の護衛の数、実力があると思われる者の目星をつけて見極めていく。
「うそね。私達が背中を見せた瞬間に倒すつもりでしょ」
「バカではないらしいな。だが今回は本当だ。なんせ九時間もあるんだ。アイテムだけじゃない人員の疲労だって今回は問題になってくる。だからお前さん達が大人しく退いてくれるならこちらは手を出さないと約束する」
どうやら向こうは人員だけでなくアイテムの消費も極力抑えたいように見える。
さてどうにかしてギルド長をもっと手前に炙り出せないかを考える美紀。
一応美紀達の存在には気づいてはいるように見えるのだが。
「でももしかしたら私達が後で集団で襲い掛かる事になるかもしれないけど、それでもいいの?」
「あぁ、構わない。俺達の目標はイベント上位に残ることじゃない。今度を考えた実績作りだからな!」
「実績……」
その言葉に美紀の頭の中である答えが出てくる。
提示版では【神眼の天災】は里美だけでなく今は正式に綾香からも認められた。
そして里美と同じくVRMMOゲームで実力者姉妹のミズナとルナをも味方にした。
そう噂されている。話題性抜群の相手を倒せば間違いなく無名プレイヤー、無名ギルドでも注目をされるだろう。
「まさか【神眼の天災】!?」
「そうだ」
この時、美紀達は知ってしまった。
蓮見は美紀達が考えているよりも多くのギルドから狙われている事に。
と同時に有り得ないぐらいワクワクしてしまった。
その時、運がいいのか敵ギルド長が美紀達の方へと散らばっていたギルドメンバーを率いて歩いてくる。
「副ギルド長、もういい。そいつらの中から一人捕まえろ。そいつらは【深紅の美】ギルドの主力メンバーの里美、ミズナ、ルナだ」
威圧感のある中年の男の声に周囲の空気が一気に重たくなる。
「二人共悪いけど……」
美紀が最後まで言い切る前に何を言いたいかを察してくれる二人。
「任せて」
「任せてください」
「「これはギルド戦、個人戦じゃないから」」
そう言って微笑んでくれる二人を見て、美紀はニヤリと笑う。
「……チッ、ビビって逃げた所を尾行して拠点を見つける予定だったが仕方がねぇ」
そう小さく呟いた敵ギルド長の言葉を美紀達は聞き逃さなかった。
【深紅の美】副ギルド長と【中年の集い】ギルド長の戦闘が始まる。
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