第125話 変態姉妹


「お前ら第一部隊をここに残してすぐに【神眼の天災】を殺してこい! そうすればコイツ等は全員負けだ!」


 ギルド長の男が大声で叫ぶ。

 それもそのはず、ずっと探していた相手がノコノコと自分達の方に近づいてきたのだから。


「マズイ……」


 美紀は今すぐ蓮見に逃げるように指示を出そうとしたとき、言葉を失ってしまった。


「なんで……紅……拠点にいるのに……」


 一瞬システムのバグか何かを疑ってしまったが、そうじゃないとすぐに気づく。

 だってMAP上で見る限りだが、蓮見の隣にはエリカがいるのだ。

 流石にエリカが蓮見を一人にするとは考えにくい。となれば今の声とMAP表示された蓮見どっちが本物でどっちが偽物なのかがわからなかった。視覚情報で見る限りだが、視界の左上には蓮見のHPゲージとMPゲージが満タンで拠点にいる、聴覚情報で聞く限りは間違いなく今も聞こえている声は蓮見の笑い声。


 視覚と聴覚がどっちも本物の蓮見だと認識している。


 まさか……あの【神眼様】はとうとう人間を辞めて分裂出来るようになったのかと。


 思わずにはいられなかった。

 普段ではありえない。だけどそのありえない事を連発してきた蓮見ならもう何をしても不思議ではなかったのだ。


「あれ、里美が固まってる。どうしたんだろう?」


「だね。珍しいこともあるんだね」


「まぁ、回復系アイテムを使うのは勿体ないから、私達は私達でやるべきことをしましょう。後方支援がなくなったあのギルド長なら美紀だけで問題なく倒せそうだし」


 七瀬と瑠香は多くのギルド達から狙われている事を知って、これはいつか大物が掛かると思っていた。その為、本当に必要な時まで無駄な体力とアイテムを使わないようにしている。


「了解! ならお姉ちゃん援護お願い。今後の調整の為にスキル節約してちょっと本気で暴れてくるから」


「お! ルカが闘志を燃やすとは珍しいわね。オッケー、なら援護はお姉ちゃんにお任せ!」


 二人は先にギルド戦と言う言葉で美紀に内容を伝えたつもりでいた。

 ハッキリと言わなかったのはエリカと同じ生産職を抱えるギルドの場合、アイテムを使い盗聴されていたかもと思っていたからなのだが、それが間違いだと言う事には気づいていない。


「……分身、分裂系統のスキルとか聞いた事がないけど……ないけど……ないけど……あったのかなぁ……」


 美紀は自分の頭の中を急いで整理する。


 その時、地響きしたと思った瞬間、少し離れた所で爆発音が聞こえてきた。


「えぇーい! もういいわ!」


 美紀は地響きからの爆発音がエリカの自動音響装置が生み出しているものだとは知らない。だから蓮見に何かあったらと思うと、焦らずにはいられない。だけど蓮見ならすぐに負けないと信用している。だからまずは突撃して槍の連続攻撃で男を追い詰めていくことにする。


 今の男には先程までの余裕はなく、動きが鈍っていた。


 そう、あの【神眼の天災】を倒しに行くのはいい、だが迎え撃つのはとても危険だと知っていたからだ。


 【神眼の天災】は機械少女と同じくクリティカルヒットを連発して起こせる力を持っているのだ。そんな化け物の前で拠点を護る障壁など殆ど意味がないことを知っている。そして早くこの状況を打破しなければならないと言う焦りが心の中で増え、結果的に余裕を全て奪っていた。


「スキル『連撃』!」


 美紀の七連撃が男のHPゲージを奪う。


「スキル『ダブルライトニング』!」


「スキル『加速』『連撃の舞』!」


 二本の雷をスキル『加速』を使い回避し、十四連撃をお見舞いする美紀。

 目の前にいる美紀だけに集中していない時点で男に勝ち目はなかった。

 最後は美紀の十四連撃目の攻撃が男の心臓を精確に貫きKillヒットで倒した。


 ギルド長の敗北により【中年の集い】ギルドは壊滅、そして拠点をゲットした。

 これで【深紅の美】ギルド周辺のギルドは全て壊滅。よって無人の拠点が攻撃を受けたり制圧された場合はその方向から敵が近づいてきていると知る事が出来るようになった。


「流石ね」


「お疲れ様です」

 そこに戦闘を終わらせた七瀬と瑠香が来る。


「じゃないわよ。紅がすぐ近くにいる、早く合流しないと!」


 慌てる美紀を見て、七瀬と瑠香がお互いの顔を見て首を傾げる。


「もしかして……さっきの笑い声の奴?」


「え……そうだけど?」


「なんだ、気付いていなかったの? あれエリカさんの発明品で自動音響装置だからここに紅はいないわよ? ほらマッサージしてあげるから落ち着いて」


 そう言って美紀の背後に回り、胸を鷲掴みにして触ってくる七瀬。


 そんな七瀬を見て瑠香。


「いいなぁ、揉まれるぐらいに大きくて」


 と美紀の胸をマジマジと見ながら呟く。


 そして姉の手の隙間からツンツンとつつく。


「キャァ!? やめなさい、変態姉妹!」


「やっぱり里美の柔らかい。それに敏感……ッ!?」


 そんな二人に美紀が顔を赤くして頭にげんこつをする。


「次変な事をしたらあんた達の胸にこれを刺すから!」


 頭を押さえて痛がる二人に槍の矛を突き付ける美紀。


「「……すみませんでした」」


 二人は反省したのか、素直に美紀に謝る。

 そのまま三人は今後の事を考えて一旦ギルドに戻る事にした。



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