第十一章 やっぱり不安な美紀

第99話 心の声


 その日の夜。

 蓮見と美紀は夜ご飯の時間まで二人でゆっくりと過ごす事となった。

 ログアウトしてから美紀が蓮見に上目遣いで一緒にいたいと言ったからだ。

 そんな美紀がいつも以上に可愛く見えてしまった蓮見は頷く事しかできなかった。

 それも昨日あんな事があった後ではそうにしか見えないのだ。


「俺の気のせいかもしれないんだけど、最近の美紀って愛想がいいと言うか何処か甘えん坊と言うか……なんか昔と比べて変わった気がするんだけど何かあったの?」


「べつにぃ~。何もないよ?」


「そっかぁ」


「うん。私もたまには誰かに甘えたいだけだよ」

 美紀は笑顔でそう言って、身体を動かしてベッドに寝転ぶ。

 そして頬杖をついて顔を固定して足をバタバタさせている。

 蓮見も美紀が寝転ぶベッドに腰を掛ける。


 これではどちらが部屋の主か分からないような光景、そして男の部屋に膝上までのスカートに下着のラインが薄っすらと見える生地の薄い服一枚で来る美紀に警戒心はないのかと二重の意味で蓮見は少し心配になった。


 勿論、今も童貞を命を懸けて守り続けている蓮見にそんな下心はなく、そんな一夜限りの関係になりたいと言ったやましい気持ちはないわけだが、大切な存在だからこそ心配せずにはいられなかった。


――訂正しよう。


 かなり強がってはいるが、正直に言えば蓮見の心が色気のある美紀を見ると心臓がドキドキしてしまうのとやっぱり可愛い女の子として頭と身体が認識してしまうので色々と健全な男子としては目の毒なのだ。


「なぁ美紀。美紀が昨日言ってた好きな人って同じ学校の人?」


「気になるの?」


「少しな。今まで男に興味すら見せなかった美紀がゲーム以外に興味を示すってのはやっぱり珍しいと言うか」


「あぁ~、う~んとね、蓮見が良く知ってる人だよ。誰かは恥ずかしいから絶対に言わないけど蓮見がなんだかんだよく知っている人」

 そう言われて蓮見が美紀と共通の知人を考えて見るが、そうなると同じ学校の人と言うのが想像がついた。そして、その中で蓮見が知る男子生徒ともなれば大分絞り込めたが、この人と言う明確な答えは出なかった。


「ヒントは?」


「恥ずかしいから、いや! でもヒント出したら蓮見が何かしてくれるならいいよ?」

 美紀は恥ずかしいと言う割には少し顔を赤く染めながらも何かを期待しているのかキラキラとした眼差しを向けてくる。

 それでもやはり気になるので、本心に素直になる事にした。


「わかった」


「なら、前払いで言う事聞いて?」

 前払い――前払い?

 まさかそう来るかと内心驚いてしまった。まぁ今は二人きりなので多少のお願い程度ならと思いコクりと頷く。

 見たところ小悪魔にはまだなってないので大丈夫……と思う。


「ならこっちに来て足伸ばして座って」

 蓮見はベッドの上に上がり、壁に背中を付けてそのまま足を伸ばして座る。

 えへへと言いながら嬉しそうに美紀が蓮見の足を枕にして寝転んだ状態になる。


「ありがとう。私の好きな人は同じ学校で同じクラスの人だよ」

 甘えながらさり気なき美紀が好きな人のヒントを口にする。


「それで、蓮見は?」


「ん?」


「蓮見の好きな人は誰なの?」

 こちらに視線を向けて言ってくる美紀に蓮見が戸惑う。


「…………」

 蓮見は困った。

 正直に答えていいのかと。

 多分この想いを美紀に伝えれば美紀が困ってしまい今の関係が壊れてしまうのではないかと言う不安になった。迷惑を掛けたくない気持ちから諦めようと弱った心を最近はエリカに刺激されて心が揺らいでいる事もまた事実なのだ。


 勿論どちらも高嶺の花だと言う事は百も承知である。

 だからこそ、中々この気持ちに正直になれないでいた。


「むぅ~、私恥ずかしかったけど蓮見の為に答えたのにぃ~」

 頬っぺたを膨らませて唇を尖らせてくる美紀。


「やっぱり拗ねた時の美紀ってめっちゃ可愛いよな……あっ、いや、…………」

 心の声が漏れている事に気付いた蓮見は慌てて誤魔化すが、美紀の耳にはしっかりと聞こえていたらしく反応してきた。


「はすみ?」

 膝の上で首を傾げる美紀。


「いや……ホントゴメン。違うんだ……つい、気付いたら」


「――私の事可愛いって思ってるの?」


「……うん」

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