第98話 新しい仲間との挨拶
「グハッ!? ……まさかここまで私を追い込むとは……ウゥゥゥ……タスケテ……」
アリステインの瞳の色が黒から青に変わる。
蓮見は起き上がりながら、意識を取り戻した少女の言葉に耳を傾ける。
「……ワタシ……ヲ殺シテ。……ワタシハ……死者コノ世二存在……シテナイ者……」
蓮見と七瀬は黙って少女の願いを聞く。
瑠香は自分の小さくて可愛いお尻の心配で忙しいようだ。
「義母二……貰ッタ……ソノ【力】……ナラ……デキ……ル……」
少女の息づかいが荒い。
きっとアリステインに取りつかれていて辛いのだろう。
少女を助ける為にも蓮見は一言一句聞き漏らさないように真剣に話しを聞く。
「……キセキヲ……オコス……ソノ魔法ナラバ……信……ジテル」
少女が力尽きたのか目の瞳が青色から黒色に戻る。
「まさか亡霊になってまでまだ意識があるとはね……はぁ、はぁ、はぁ」
アリステインは生きる為に少女に憑依し、生きる事に疲れ死を望んでいる。
そして少女は少女で死を望んでいる。
ならば。
蓮見はボス部屋に来る前に女神から授かったスキルを試す事にする。
正直効果が多く、まだ理解しきれてないが……少女の最後の願いを叶える為に。
その時あちらこちらからマグマがまるで意思を持ったようにアリステインの元に集まっていく。そしてアリステインを完全に呑みこみ巨大な龍へと姿を変える。どうやら向こうも勝負を付ける為に本気になったらしい。
「スキル『罰と救済』!!!」
蓮見が射撃体勢に入ると、金色の魔法陣が前方に出現する。
それは神々しく光輝き、魔法陣の淵には魔術語で書かれた文字が浮かんでいる。
だがこれ単体ではスキルの性能を引き出す事は出来ない。
即ち。
このスキル単体では未完成。
「スキル『虚像の劣化』!」
蓮見の構える矢の先端が炎を灯す。
矢は赤いエフェクトを纏う。
「悪いが今回は外さねぇ。これで終わりだ!」
蓮見が龍の心臓部つまりKillヒットポイントに向かって矢を放つ。
矢は金色の魔法陣を通り、赤いエフェクトすら燃やしてしまいそうな勢いで荒々しく燃え始める。
龍となったアリステインが大きく息を吸い、口の中でMPと一緒に圧縮し吐き出す。
が魔法攻撃の核となる部分が見えている蓮見には関係なかった。
そのまま矢は魔法攻撃を正面から引き裂きながら突き進む。
――『絶対貫通』を持つ蓮見が使うからこそ矢は最強となる
そして魔法攻撃を貫通した矢は龍の心臓を貫き、アリステインを倒す事に成功する。
そのまま元の姿に戻った者は蓮見を見て口パクで「ありがとう」と言い光の粒子となり消えていった。それがアリステインだったのか少女が言ったのかは蓮見だけの秘密である。
「……終わったな」
蓮見は七瀬と瑠香の元に行き、二人と合流する。
三人がアリステインと闘い終わる頃、美紀とエリカは修業が終わり今は二人で闘技場の控室で休憩をしていた。
その時、七瀬から美紀にメッセージが送られてくる。
「エリカ?」
「どうしたの?」
「今から七瀬達戻って来るって。私達も帰りましょうか?」
「そうね。そうしましょう」
美紀とエリカは闘技場の控室を出て、ギルドホームに一旦戻る事にする。
七瀬からのメッセージには続きがあり、妹も一緒に連れて来ると言う事だった。
紅には許可を取ったのでギルドメンバー登録をして欲しいと言う内容も書いてあった。美紀は瑠香の事を二年前にゲームを通して知っているので久しぶりに会えると思うと楽しみだった。
「それにしてもエリカがここまでこの短時間で強くなるとは思わなかったわ。意外に剣の才能あるんじゃないの?」
「そう。まぁたまにソロで素材集めの時は使ってたし、何より紅君のおかげかな」
「紅?」
「そう。恋する乙女は好きな人の為なら強くなれるのよ」
「エリカホント飽きれるぐらい紅の事大好きね」
「えぇ。あんなに素直で可愛い子中々いないもの。それにいざって時はカッコイイし。でも里美も実際そんな紅にゾッコンでしょ?」
「だっだれがあんな奴に……そもそもそんなに好きじゃないもん!」
美紀の顔が急に真っ赤になる。
そのまま、エリカから視線を外しソワソワしだす。
「あらあら。なら紅君は私がもらって……」
恥ずかしがる美紀を見てエリカが冗談半分でからかってみる。
「ダメに決まってるでしょ! 紅は渡さないわよ!」
美紀はエリカの言葉が言い終わる前に即座に顔を真っ赤にして答える。
エリカはそれを笑いながら見る。
ギルドホームに集まった五人は軽い挨拶を交わす。
それから瑠香を【深紅の美】ギルドに新たに迎え入れる事に満場一致したので、美紀が正式にギルドメンバー登録を行った。
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