第97話 お調子者への天罰
「あの尻尾……硬すぎだろ……」
瑠香の連続攻撃更には七瀬の遠距離攻撃を相手にしながら『虚像の発火』を防いでしまう相手に詠唱をして半ば攻撃力をあげても意味がないように思えた。
蓮見の圧倒的な制圧力と素早さは決まれば強過ぎる刃となるが、条件が揃わないと発揮できないデメリットがある。それに条件を揃えれば揃えるほど自らを死へと追い込むことになる。
正に諸刃の剣でもあったのだ。
あまりにもメリットが目立ち過ぎて、デメリットが中々目に入らなかったがこれは事実で蓮見の強さの一部は今では有限の強力なスキルあっての物となり始めていた。『投影』や『迷いの霧』や『猛毒の捌き』が正にそうだった。スキルを使えば使う程弱体化と言っても過言ではなかった。
強力なスキルを使い果たせば、敵の魔法に対抗が出来ない。
今の蓮見ではまだ相手の魔法を撃ち落とす技量がしっかりとない。
美紀のようにしっかりと自分を理解しフォローをしてくれるパートナーがいて初めて出来る技でもある。
かと言ってアステロンの時のように【俺の全力シリーズ】を使う事も社会的事情によりモラルに反する為使えない。いや実際はその気になれば使えるのだがその後がかなり問題なのだ。そんな事はわかりきっていた。
「スキル『連続射撃3』!」
こうなってはと原点に帰り、Killヒットとテクニカルヒットを狙ってみる。もうこれしか頼りに出来る物がなかった。
『虚像の発火』は属性が効果が効かないと言う観点からMPの無駄だと判断する。動き周りながらの通常攻撃でもしっかりとKillヒットとテクニカルヒットを狙っていく。
「よし、効いているな!」
蓮見は集中して一射一射、今もアリステインを足止めしてくれている瑠香に当たらないように慎重に放っていく。
『虚像の発火』ですら殆どダメージが通らなかった尻尾以外は防御力がそんなに高くない事がわかった蓮見はここで勝負にでる事にする。
「今こそ目覚めろ。最恐にして最強の力。法陣は更なる進化の過程に過ぎず。矢を正義とするならば、悪を貫く理由となるだろう。目覚めろ『猛毒の捌き』!!!」
狙うはアリステインの身体にあるKillヒットとテクニカルポイントである。
今も通常攻撃ですら警戒するのであればそれ以上の威力を持つ攻撃なら相手の注意を逸らすことは事実上可能である。
詠唱により強化された三十本の毒の矢が蓮見の後方に出現した紫色の魔法陣から勢いよく連射される。
蓮見の狙いに気付いた七瀬が叫ぶ。
「ルナ後退! 紅がまだ何かしようとしてる!」
慌てて攻撃の手を止めて、七瀬がいる場所まで後退する瑠香。
アリステインは矢を躱しながら蓮見に向かって突撃する。
矢がすぐにアリステインを追尾するがどうやら間に合いそうにない。
「スキル『迷いの霧』!」
蓮見を中心として出現した毒煙が、相手を襲う為ではなく、蓮見の姿を隠す為に効果が発揮される、
「まだまだ、スキル『迷いの霧』! 更に『猛毒の捌き』!!!」
毒の霧はその効果範囲を広げながら、蓮見と新たに出現した魔法陣を隠す。
そして総数六十にも及ぶ毒の矢が攻撃対象を見失い逃げ回るアリステインを容赦なく追尾する。
逃げ回りながら器用に尻尾を使う事で毒の矢を迎撃するアリステインを見た蓮見が笑みを見せる。
「ミズナさん最大火力の魔法を!」
「OK! 任せて、スキル『焔:炎帝の怒り』!」
赤い魔法陣が赤く光始めると、一直線に目標目掛けて勢いよく燃え盛る炎が周囲の空気と一緒に圧縮されアリステインの斜め後ろから飛んでいく。
「見せてやる! これが俺の弓使いとしての力だぁーーーーーーーー!!!!!」
その魔法に向かって蓮見が野球のピッチャーのような姿勢を取り構える。
右手にはエリカの発明品の一つである危険と書かれた手榴弾のピンが抜かれた状態である。そのまま投球フォームをとり全力で七瀬の魔法に向かって投げる。
次の瞬間。
――お調子者への天罰が下る。
アリステイルの近くで『焔:炎帝の怒り』が前から飛んできた手榴弾を迎撃した瞬間ボス部屋の中心部付近で大爆発が起きた。そしてアリステイルは大爆発に巻き込まれ態勢を崩し爆発と毒の矢によって大ダメージを受ける。そして蓮見と七瀬と瑠香も爆風の影響で吹き飛ばされてボス部屋の壁に激突する。
蓮見が投げた手榴弾は蓮見の案をエリカが再現したもので、今までのただ火薬が多い手榴弾ではなかった。起爆する前に外部からのMPを使った攻撃を受けるとそのMPの一部を吸収し更なる大爆発を引き起こす構造となっており世間的に見れば人の手では扱えない失敗作のアイテムだった。
だがこの男とエリカはそれを成功作と呼び、隠し持っていた。他の誰かに言えば怒られると言う事で当然これは二人だけの秘密だった。
「いてて。まさか本当に味方の攻撃で死にかける日が来るとは……ルナ大丈夫?」
誰があんな危険な物を発明したかすぐに気が付いた七瀬は【深紅の美】ギルドは蓮見以外にも頭のネジが外れた人間がいる事にようやく気付いた。そしてそれはきっと美紀もまだ皆に隠しているだけで同じだと確信する。なぜなら類は友を呼ぶからだ。そうなると七瀬と瑠香は一体……。
「うん。ちょっとお尻が痛いけどなんとか……。頭はお姉ちゃんの貧相な胸がクッションになったから大丈夫」
二人の姉妹はお互いの身を案じながら、ゆっくりと起き上がる。
「……にしても紅さん、まだ男性経験がない姉妹相手に激しすぎですよ。でも嫌いじゃないです」
姉譲りの部分がチラッと見えた瑠香。
普段ならイラっとする発言もあったが七瀬の頭の中は今はそれどころではなかった。
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