第80話 暇すぎて見つけたボス部屋



「おぉ~大きい」

 その時、【鏡面の短剣】で作ったボールが形を崩して消える。

 蓮見の目は今キラキラと希望を見つけたように大きな扉だけを見ている。

 それはまるで子供が沢山の新しいオモチャを見つけたように。

 そして今までの経験からこれはボス部屋だと判断する。

 つまり、この中に敵がいるわけだ。


「あっ、でもエリカさんどうしよ……。でもまぁミズナさんもいるし大丈夫かな」

 と思い、扉に手をかざした時、メッセージが来る。

 

「あれ? タイミングが悪いな……」

 蓮見が差出人を確認すると、二通のメッセージが届いていた。

 二人の内容は殆ど一緒で反応がない蓮見の為に別々でメッセージを送ってきた感じだった。内容は『大丈夫?』と二人共蓮見の事を心配してくれた内容だった。


「うん。大きい扉見つけたのでちょっと暇つぶしに遊んできます」

 蓮見はすぐに同じ内容でメッセージを二人に送信する。



 二人はこの時、ある事に気付いたのだ。

 蓮見を一人にしてしまった事に。

 口では敵対心を何処か見せていた七瀬でもそれだけはわかっていたのだ。

 目を離すと何かが起こる。

 それもあの美紀ですら止められないレベルで。

 何かが起きてしまうのだ。


 それは必ずしもいい事は限らない。

 もっと言えば、運営すら予期せぬレベルで起こるのだ。



「さて、行きますか!」

 気を取り直して、蓮見が大きな扉に手をあて開く。

 そして中に入ると、燕尾服を来たやや細めの執事が空から舞い降りてくる。

 執事と言っても、背中に大きい黒い羽根が生えており人間ではなさそうだった。

 それにお尻の辺りから下に伸びる黒い尻尾。

 そして静かに地面に着地すると、話し始める。


「これはこれはお嬢様の敵ではありませんか」

 その言葉を聞いて、蓮見が弓を構える。

 執事は蓮見を見て、微笑むと会釈をする。


「申し訳ございませんが、今宵は晩餐。あまり時間がありませんので力づくで排除させて頂きます。ん? 添菜として貴方の魂をお嬢様に差し出すのも悪くはありませんかね」

 そう言うと執事の姿をした悪魔は舌を出し、ご馳走を見つけたかのように頬を緩める。

 戦う以外の道はどうやらなさそうだ。

 執事の姿をした悪魔の瞳が蓮見に集中する。


 蓮見はこの時、ある事を考えていた。

 添菜と天才を聞き間違えていた為に、執事が何を言いたかったのかがよくわからなかったのだ。どちらも発音としては「てんさい」だが、意味は全然違う。


「てんさい……てんさい……天才? あっ、俺の事か!」

 どうゆう解釈をしたのかはさて置き、蓮見がほほ笑む。

 この場に美紀がいれば正しく意味を理解していたのだろうが、天災はその言葉の意味をはき違えるだけでなく、執事に褒めてもらったと勘違いして調子に乗り始めながら戦闘に入る。

 日本語はやはり難しく、相手の語彙力に合わせてあげないと誤解を招きやすい言語なのかもしれない。


 執事と蓮見はお互いの動きをよく見ながら、少しずつ距離を詰めていく。

 そして、蓮見の瞬きに合わせて執事が突撃してくる。

 蓮見はそのまま矢を放つが躱され、蹴り飛ばされてしまう。


 グハッ


 蓮見のHPゲージが一割と半分失われる。

 苦しむ蓮見に追い打ちをかけるように執事は攻撃してきた。

 そしてパンチと蹴りの合わせ技の八連撃が終わり、ようやく距離を取る事が出来た。


 HPは早くも半分失った状態。


「……はぁ、はぁ、はぁ」

 執事は余裕の笑みでこちらを見ている。

 このままでは負ける。

 そう思った時、あるシーンを思い出す。


 小百合は美紀の攻撃をじっくり見てから躱してたな。

 それから反撃……。

 あと俺様は天才!


「うーん。この広い空間に木はないが、神殿の天井を支える柱ならあるか……」

 今蓮見と執事がいる広間はとても広く五十以上の支柱がある。

 逆を言えばそれ以外には後は祭壇とその後ろに玉座が一つしかない。

 その玉座は紫色の結界で護られており、破壊する事も座る事も出来ない。


「スキル『迷いの霧』!」

 毒の霧を周囲に展開し、相手の視界を奪い、毒のダメージを与えるが効果範囲が狭く一回では神殿全体に霧が広がらなかった。


 だが蓮見の場所をかく乱させる程度には効果がありそうだった。

 対して蓮見は相手の姿は見えなくても『ホークアイ』のおかげでKillヒットの場所が赤色の丸、テクニカルヒットの場所が黄色の丸で見えているので相手が何処にいるかはすぐにわかる。『イーグル』と『イーグルアイ』の上位スキルと言うだけあってかなり便利が良かった。それに今までは小さい点だったのに対し今は直径二センチ程度の丸と今までと比べるとかなり実用性があった。


「さて、ここからは弓使い天才蓮見様による忍者タイムだ!」

 構えていた弓を直し、一度ジャンプする。

 そして、走りだす。


 同時に執事も蓮見を狙い動き始める。


 攻撃する事を一旦止めた蓮見は執事の攻撃を避けながら、神殿の柱を利用して逃げまわる。ただし、ただ逃げるのではなく『迷いの霧』を連発使用しながら逃げていく。

 途中何度か執事の攻撃を喰らうがHPが三割を切る一歩手前でようやく、毒の霧が二人がいる神殿全体に広がった。


「後四回か……」

 蓮見は使った回数から残りの使用回数を確認する。

 どうやら相手は視覚からの情報を頼りに動くらしく、蓮見が突っ立てるだけなのにも関わらず執事は警戒しているのか後ろに振り返ったり、身体を一回転させたりと忙しい感じになり始めていた。毒耐性がある蓮見も密閉された空間での毒の濃度によってはダメージを喰らうらしく徐々にHPゲージが減っていく。


 が。


 それは蓮見より毒耐性がないボスの方がより致命的なのはすぐにわかった。


「しばらくここにいるか」

 純粋な力ではやはり勝てない蓮見は近くにあった柱に腰をかけ、相手のHPゲージがなくなる事を気長に待つことにした。それと同時に念の為にHPポーションを飲みHPを回復しておく。


「……はぁ。結局俺一人だとこの辺の相手になると勝てないんだよな」

 蓮見はため息を吐きながら、現実と向き合い始める。


「……というかこれは戦いと呼べるのか?」

 強敵を前に戦闘とは違う事を考え始める蓮見。

 今も執事の方に視線を向ければ、赤と黄色の丸がクルクルと回転し止まりを繰り返していた。


 それから三十分。

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