第八章 美紀とエリカの恋愛バトル

第79話 新装備GET



 ――数日後の金曜日。

 蓮見は学校が終わって、ゲームにログインしていた。


 今ギルドホームにはエリカと七瀬がいる。美紀は今日は家の用事でログイン出来ないと聞いているが、蓮見の親が仕事が忙しく帰りが遅くなると言う事なので今夜夜ご飯を作りに来てくれる予定となっている。


「ねぇ、紅、一つお願いがあるんだけどいいかな?」

 ギルドホームを出ようと、玄関に向かっていると七瀬が手招きしてきた。

 蓮見は返事をしながら二人がいる前に行く。


「はい」


「明日第三回イベントの告知が行われると思うんだけど、その前に私に紅の実力を見せてくれないかな? 悪いけど私は里美の実力は認めてるけど、紅の実力は認めてないの。正直私は勝ちたい。だから実力がない人の下には絶対につきたくないのよ」

 昨日の雰囲気とは違って、おふざけはなく真剣な目つきで蓮見を見てくる。

 恐らく美紀が言う通り、トッププレイヤー達から見た蓮見は強いと言うよりかは次の一手がただ読めないだけなのだろう。

 最近何となく自分でもそう感じ始めている蓮見は少し反応に困ってしまった。


「……はぁ」


「悪いけど提示板の内容を見る限り紅はたまたま奇跡を起こしているだけ。見る分、聞く分には興味をそそられるけど、実力としてはどうなの? ってのが私の本音なんだよね」


「なら私も今日はついて行こうかな。久しぶりに紅君と一緒にいたいし。それにミズナの驚く顔もみたいしね」


「どうゆう事ですか?」

 エリカの言葉に七瀬が首を傾げる。

 それは蓮見も同じだった。

 あの美紀が認めた七瀬からしてみれば、自分等初心者に毛が生えたようにしか見えないのはよくわかっている。

 なのに、エリカは何かを期待しているような顔でそう言ったのだ。


「まだわからないかな。里美が紅君を認めている理由。そしてあの綾香からも認められている理由が」


「「え?」」

 蓮見とミズナが戸惑う。


「ん~まぁ簡単に言うなら私も里美も多分紅君がギルドにいなかったらここにいないってことよ。まぁ紅君は多分気づかないだろうけど、ミズナは今日この後わかると思うわ。って事で今日は私が紅君の隣よ~!!!」

 そう言って勢いよく立ち上がり紅の腕を掴んで、ギルドホームを出ていくエリカ。


「えっ、エリカさん?」


「ほぉら、さっさと行くわよ!」

 強引に腕を引っ張って蓮見を連れて行くエリカとその後ろを慌てて付いてくる七瀬。

 エリカが蓮見の右腕に力を込めて、自分の身体に引き寄せて密着しているので、歩くたびにエリカの柔らかい胸の感触が蓮見の右腕にしっかりと伝わる。


「あら、顔を赤くして照れてる紅君ってやっぱり可愛いわね」

 そのまま心臓の鼓動が高くなりながらもエリカに連れて行かれるまま、流れに身を任せる蓮見。


 そんな蓮見を見たプレイヤー達はまた【神眼の天災】が何かやらかすぞと思わずにはいられなかった。里美に尻にひかれ、エリカにも尻にひかれる【天災】。だが、その枷が外れた時、【天災】は誰も予想すらしない事をするのだ。そんな共通認識の元、蓮見達の後ろをさり気なく付いてくるプレイヤーが多いことにこの時三人は気付かなかった。


 街を出てしばらく歩くと、三人は一つの廃墟となった大きな神殿に来ていた。


 七瀬は念入りに周囲の状況の確認を始める。

 蓮見も七瀬に見習って周辺の捜索を始めようとしたとき、エリカに手を引っ張られて近くにあった草陰に連れて行かれる。


「紅君、先にこれ渡しておくわ。もし困ったら使いなさい」

 蓮見の目の前にエリカからプレゼントが送られたメッセージが出現する。


「これは?」

 蓮見はエリカからのプレゼントを受け取った物を確認しながら質問する。


「私と里美からのプレゼントよ。それともこの前のお返しと言ったらいいかもしれないわね。さぁ、お礼とかはいらないから早くミズナの元に行きましょう。草陰で二人でエッチなことしてるって勘違いされても困るしね。紅君が!」

 そのまま今度は蓮見の手を取り、七瀬の元へ歩き始めるエリカ。

 美紀とは違い、蓮見にペースを握らせないエリカの冗談に蓮見は苦笑いしながらついていく。

 今の言い方だとエリカは勘違いされてもいいような気がするのは蓮見の気のせいだと思う事にした。


「二人共どこ行ってたんですか?」


「ちょっとね。それよりどう?」


「何もないですね。奥に進みましょうか?」


「そうね」

 そのまま三人は合流して、神殿の中に入っていく。

 特にモンスターも居ない事から早くも大きな欠伸をしながら神殿探索に蓮見は飽き始めていた。七瀬とエリカは蓮見から見れば一見何の価値もない石を拾ったりして不可解な行動をしていた。


「あんな石集めて何が楽しいのやら」

 いつもとは逆の光景に蓮見は神殿の作りを見ながら一人呟く。

 アイテムに関しての知識が乏しい蓮見からしたら一体何をしているのだろうか言う感覚だった。今まで美紀の時はこんなことがなかった事から、美紀がいつも蓮見に気を利かせてくれていたのだと改めて感謝する。


「すご~い。エリカさんの【錆びた鉄】大きい!」

「えぇ~これは思わぬ収穫ね!」

「あっ! ミズナのそれも凄いじゃない! えへへ~後で余った分あげますよ」

「ありがとう。ならお礼にミズナにも装備作ってあげるわ」

「本当ですか!? エリカさん大好きです!」


 聞こえてくる二人の楽しそうな会話を聞きながら、蓮見はただの護衛の為に特にエリカに使われたのだとようやく気づく。七瀬もエリカの事は認めているらしく、とても楽しそうだ。【錆びた鉄】はレアアイテムで武器の生産に必須アイテムである。


「結局、あの人は一体なんだんだ。実力は見せなくていいのか……?」

 一度大きくため息をついて、蓮見はしばらくここで採掘を楽しむと思われる二人を置いて神殿の奥の方を一人探索する事にした。モンスターも出ないので蓮見は暇で仕方がなかったのだ。

 それにしても神殿の中はとても静かで、元気のいい女の子二人の声以外何も聞こえなかった。

 蓮見は【鏡面の短剣】を複製して球体にする。

 先日美紀の帰りを待っている時に単純な形なら剣と矢以外も出来ると気づいたのだ。

 そのまま球体にした【鏡面の短剣】をサッカーボールのように蹴りながら奥へと進む。

 暇すぎて、スキルを使い遊びながら奥へと進んでいくと、大きい扉の前にたどり着いた。

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