第43話 美紀の心臓は正直者


 今まで一撃でモンスターを倒そうとして、何処か攻撃が単調だった蓮見の矢が将軍の身体を護る鎧の耐久値をどんどん削っていたのだ。将軍ではなく鎧に対するクリティカルヒットの連発。


 更には将軍の攻撃を落ち着いて躱していた。蓮見のHPは山火事の熱さによる影響で徐々にHPが減っている。それに比例して動きが速くなる。異常状態耐性がない事を蓮見は逆に利用してスキルによる自身の強化をしていたのだ。その為、攻撃のギアを上げて迫りくる攻撃の数々を躱し反撃していた。


「スキル『連続射撃3』!」

 とうとう周りのプレイヤーが思いつきもしない方法で自らのステータスを意図的に上げる蓮見に美紀は苦笑いしか出来なかった。本来は追い込まれる事で効果を発揮するスキルを意図的に操作する蓮見はPS《プレイヤースキル》不足はまだまだあるものの発想力だけで言えばトッププレイヤー相手でも通じるレベルまでにこの短期間で成長していた。


「スキル『加速』……からの『雷撃』『連撃』!」

 蓮見の回避行動が遅れ、将軍の意識が完全に蓮見に向いたタイミングで背後から急速接近した美紀が奇襲を仕掛ける。背中に触れた雷撃からの七連続の鋭い突きに将軍が攻撃の手を止めて苦痛の声をあげ膝から崩れ落ちる。そして蓮見のMPを三割消費した『レクイエム』が直撃する。


「よっしゃー! どうだぁ! この連続攻撃からの『レクイエム」!」

 将軍の鎧の一部が光の粒子となって消え、口から血を吐き出す。HPゲージを確認すれば四割減っていた。追撃を避ける為に放たれた刀の風圧で蓮見が吹き飛ばされるがすぐに美紀が後方に回って受け止める。


「助かった。ありがとう里美」

 蓮見の息は乱れていた。幾らステータスをスキルで補助しているとはいえ体力までは補助されない。その為、全神経を集中させた無呼吸運動にいつも以上に体力が大幅に消費される。


「大丈夫? 苦しそうだけど」

 気付けばHPが二割を切った蓮見に念の為に『回復魔法(ヒール)Ⅱ』を掛けながら美紀が問う。

 コクりと頷く蓮見。


「あぁ、まだまだ余裕だ!」

 蓮見が立ち上がって弓を構える。


「なら付いてきなさい。HP二割まで減らせば私が最後引き受けるわ。スキル『加速』!」

 突撃する美紀に合わせて、蓮見が援護射撃をする。

 一射、一射神経を集中させて美紀に当たらないように気を付けながら放っていく。

 将軍の渾身のパンチが美紀のお腹に入り、その場でうずくまる美紀。


 慌てて蓮見が助けに行こうとしたとき美紀が不敵に笑う。


「ばぁーか。そんな隙だらけの攻撃をしたら反撃を喰らうわよ! スキル『連撃』!」

 迫真の演技に蓮見だけでなく将軍までもが騙された。

 そして槍が白いエフェクトを放ち鋭い突きを繰り出す。

 ダメージを受けてひるむ将軍。

 気付けば鎧もボロボロになっていた。


「まだまだぁ!」

 蓮見のクリティカルヒットを狙った援護射撃でどう脛当すねあて、手甲、籠手こて、兜、佩楯はいだて……が次々と光の粒子となって消えていく。最早鎧を部位ごとに破壊され、防御力が低下した将軍は正面から放たれる美紀の攻撃全てを受けきる事は出来なかった。ついに将軍のHPが三割まで減少する。


「スキル『レクイエム』!」

 矢が赤いエフェクトを放ちながら一直線に飛んでいく。威力を落としているとは言え今の将軍には無視できる一撃ではないらしく、持っていた刀で『レクイエム』を強引に切り落として来た。


「ねぇ? よそ見してて大丈夫なの? 行くわよ! 私の全力! スキル『パワーアタック』『破滅のボルグ』!!!」

 美紀が大きくジャンプをして槍が黒味のかかった暗くも白いエフェクトを放ち始める。

 そして投擲の構えを取り、全力で投げる。

 将軍が再び美紀に視線を戻した時には既に遅く、槍は周囲の空気を切り裂きながら轟音と共に将軍の心臓に向かって勢いよく飛んでいく。


 蓮見の最大火力の『レクイエム』以上の破壊力を持った一撃は槍を斬り落とそうとした将軍の刀を破壊しそのまま心臓を貫く。

 そして槍と一緒に地面に将軍が背から落ちると同時に光の粒子となって爆発して消えた。


「おつかれー」


「紅もね。 それよりこの山火事どうするの? 今もちょくちょくポイントが増えてる原因って多分山火事にモンスターが巻き込まれているからだと思うけど……」


 真剣な瞳で美紀を見つめる蓮見。

「里美」


 見つめられて頬を赤く染める美紀。

「なっ、なによ?」


「こうなった以上やる事は一つ……」

「うっ、うん」


「……実は俺……山火事フィールドだと耐性がないことからHPが減って辛いのと……何より汗かく程にココ熱いからとりあえず逃げるぞ……」


 そのまま大きく息を吸い込む。

 そして美紀の手をしっかりと掴んで。


「全力で全速ダッシュ!!!!!」

 と叫んで走り始める。


 そのまま二人は安全地帯まで走って逃げた。

 途中美紀の顔が赤かったのは山火事の炎による影響なのか、それとも手を握られた事によって心臓の鼓動が高まったからなのかは本人にしかわからなかった。



 山火事となった森を出て今度は草原を歩いていた。

 二人は無言でまだ手を繋いでいた。

 蓮見の後ろを手を握られたまま付いて行く美紀の顔は気付けば真っ赤になっていた。

「ねぇ、紅?」

「うん?」


 前だけを見て歩く蓮見の背中を見ながら美紀が言う。

「そ、その……誰かに見られ……たら、はしゅかしいから手を離して……?」 


 途中恥ずかしさのあまり噛んでしまったが、モンスターを探す蓮見はどうやらそのことには気付いていないらしく手だけをソッと離してくれた。


 美紀は蓮見にバレないように胸に手を当てて、深呼吸をする。


「あぁ……別の意味で死ぬかと思った。心臓に悪いわよ、ばかぁ」

 小さい声でボソッと呟いた。

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