第44話 美紀言葉を失う
「それにしてもこう何もいないとなるとこれはまたモンスターを探さないとだな」
「そうね。かと言って変に他のプレイヤ―とも会いたくないわね。二人だと私はともかく紅が狙われたらフォローが間に合わないかもだし……」
何かいい方法がないかと考える美紀。
すると何かを見つける。
「ねぇ、あの川に沿ってちょっと歩いてみよ。そしたらモンスターと遭遇するかもだし」
蓮見が頷き、二人は草原にある川沿いに沿って歩き始める。
二人が川の水に目を向けると、綺麗な水が太陽の陽を反射してキラキラとしている。
よく見れば水が綺麗で川底にある小石や砂利が透けて見えた。
「それにしても綺麗な水」
「そうだね~」
そのまま二人が歩き続ける。
すると川の水が不自然な流れをしているポイントを見つける。まるで水の一部が何処かに零れているかのように水量が減っているポイントだ。
「んっ?」
疑問に思った蓮見が試しに川の中に手を入れて見ると、まさかの事態に陥る。
そのまま水に手を吸い込まれて川の中へダイブする。
「いてて……」
目を開けると、そこは洞窟の中だった。
試しに上を見ると、心配して川の中を覗き込む美紀の顔が見えた。
「くれない~? 大丈夫なの?」
「うん。なんか川の中洞窟になってる。これどうしたらいい?」
ゲームに詳しくない蓮見が美紀に判断を任せる。
「ならちょっと待ってて。私もそっちに行くから」
そう言って川に飛び込み、そのまま洞窟まで落下してくる美紀。
「ならこのまま二人で洞窟を捜索してみましょ。さっきみたいにモンスターいるかもしれないし」
「そうだな」
二人はそのまま洞窟の中でモンスターを探す事にする。
「……ったく、あまいわね」
美紀の槍が火の妖精の身体を貫く。
洞窟の中は広く、二人が並んで歩いて武器を振り回すのには不自由しない広さだった。またどうやら川の上から見たら何も見えないが下から見ればハッキリと空が見えると何とも不思議な感覚だった。その為か太陽の陽がそのまま洞窟の中にも入って来て視界はとてもよく明るかった。
「ウォォォォォォ」
洞窟の奥の方から聞こえてくる雄たけび。
蓮見と美紀はいつ何処からモンスターが襲って来てもいいように警戒しながら奥にの方へと進んでいく。
「それにしても迷子になりそうなぐらい道が枝分かれしているわね」
美紀が言うように大きな一本道を中心としてそこから枝分かれするように見える小道の数々。下手に全部を調べようとすれば迷子になりそうなぐらい沢山あった。
「だな。でも脇道は暗くて怖いから、この川沿いオンリーだな」
当然怖いのが苦手な蓮見は安全面を最優先する。
幽霊現象だけは特にダメだ。
そのため、二人は蓮見の思うままに洞窟を捜索していた。
「別に私は暗くても大丈夫……うそだから、そんな顔しないで」
試しに美紀が冗談を言って見ると、蓮見の顔から笑みが消えかかりだしたのですぐに止める。
人間誰にしでも怖いものの一つや二つあるのだ。
当然、蓮見だけでなく、美紀にも。
「ウォォォォォォ!」
雄たけびがさっきよりもハッキリと聞こえる。
それだけじゃなかった。雄たけびによってモンスターが活動を始めたのか沢山ある脇道から火の精霊が姿を見せる。
二人が武器を構える。
それに合わせて火の精霊も戦闘態勢に入った。
「後ろの方が数が圧倒的に多い……逃げ道を塞ぎに来たのね……なら悪いけど紅は後ろをお願い、私は前方の敵と両サイドの敵を倒す」
「任せろ!」
――いざ戦闘開始。
「スキル『イーグル』『連続射撃3』『レクイエム』!」
最初から気を引き締めて全力でいく。多勢に無勢。
もし囲まれたりでもしたら美紀ならともかく近接戦闘が不得意な蓮見ではどうにもならない。出来れば逃げ道だけでも確保したい。
矢が発火し火の精霊を襲う。ただし発火の能力はあくまで【火】属性に分類されるため殆ど効果がなかった。だが、それでもレクイエムが一気に五か所同時に火の精霊を襲う。
通路の奥から物音。
杖を構えて姿を現す火の精霊が五匹。
レクイエムから仲間の精霊が護っていた所を見る限り、部隊の中心メンバーなのだろう。
『複製Ⅰ(別名 模倣Ⅰ)』スキルを使い今度は水の短剣を形状変化させた矢で攻撃をする。やはり相性がいいのか火の精霊が一歩後退し防御姿勢に入る。
蓮見の一撃は通常攻撃でありKillヒットの連発で最早一撃必殺の矢と化していた。
魔法使いが五人がかりで大技を使ってくる。
洞窟の中に突如出現した龍は炎で出来ており、その眼光は思わず息を飲み込んでしまうものだった。
「スキル『投影Ⅰ』!」
一日三回限りの大技で、すかさず蓮見も反撃に出る。
自分達の大技があっさりとコピーされた魔法使いの表情が険しい物に変わる。
今も蓮見を狙ってくる火の精霊からの攻撃は炎の龍が全て燃やし尽くす形で護っていた。
そして二体の炎の龍が激しく激突する。
その隙を狙い、火の精霊を次々と水の短剣を複製し形状変化させた矢でKillヒットしMPを回復していく蓮見。
どうやら魔法使いの火の精霊は今の大技でガス欠らしく、炎の龍に命令するだけで何もしてこなかった。
「スキル『連続射撃3』『レクイエム』!」
二体の龍がお互いに消滅するが、蓮見にとっては全てが想定内であり動揺する事はなかった。だが火の精霊達にとっては予想外だったらしく大きく動揺する。その隙に今度は水属性を付加したレクイエムが魔法使いの火の精霊五匹を同時にKillヒットし大爆発する。
「スキル『雷撃』! これで終わりよ、スキル『連撃』!」
蓮見が後方の敵を蹴散らし美紀の援護をと思い振り返ると丁度美紀も戦闘が終わったらしい。蓮見とは違って余力を残し勝利した美紀は息一つ乱れてなかった。
「お疲れ、里美!」
「うん。紅もね! それより一つ聞いてもいい?」
美紀は逃げ出した火の精霊に一瞬視線を向けてから質問をする。
「さっきのなに?」
「んっ?」
「いや……だから……さっきの龍よ龍! あんなの使えたの?」
ここでようやく蓮見が美紀の質問の意図を理解する。
「あれはスキル『投影Ⅰ』だよ。一日三回限りだけど相手の魔法をコピーできるんだ。ただし相手の魔法効果領域の五メートル以内にいないといけないと言う弱点付き、後はコピーしても三分以内に使わないと消えてしまうんだ」
「あっ、そうなのね……」
どうやら驚きのあまり美紀は言葉を失っているようだ。
「それより、早く奥にいるボス倒しに行こうぜ! なっ!」
初めて使ったスキルが思ったより強くてカッコイイ事に気付いた蓮見のテンションは上がっていた。そのまま美紀の手を引っ張って洞窟の奥から聞こえる雄たけびの方向に向かって歩き始めた。
「一応言っておくけど、そのスキル変な使い方して私を巻き込まないでよ?」
今までの前科の多さから美紀が調子に乗り始めた蓮見に釘をさす。
「任せろ! 俺にそんなヘマはないからな!」
「……うん、信じてます」
二人はそのまま洞窟の奥の方へと駆け足で向かっていった。
「おっ! ボス部屋? と思われる扉見つけた!」
そのまま美紀の手を離して両手で正面にある高さ七メートル程の銀色の扉を上げる蓮見。
中に入ると玉座が一つ。
そしてその上に足を組んで座る火の精霊王がいた。
天井までの高さは十五メートルで横幅と奥行きは三十メートル近くで、玉座以外には何もない空間だった。精霊王と表示されたHPゲージの横を見ればイフリートを書かれていた。大きさは身長七メートル前後ぐらいでイフリートは両手両足と髪は炎で燃えていた。
「よっしゃー! かかってこい! イフリート!!!」
「紅、油断はしないでね!」
美紀が蓮見の前に出て槍を構える。
イフリートまでの距離はおよそ十五メートル。
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