第五章 成長した蓮見と美紀の実力

第41話 第二回イベント開始


 ――――

 ――――イベント当日。


 蓮見と美紀は第二層の中心部にある噴水広場の前にいた。

 今日は今から第二回イベントということもあり、沢山の人がいた。当然イベントに合わせて蓮見と美紀も出来る限りの準備をしてきている。

「ふぇ~すげぇ人の集まり……」

「皆気合入っているわね」


 すると、噴水の水の中から一人の少年が勢いよく登場する。NPCだ。

 そして空中で静止。


 皆の視線が集まるのを待ってから、片手にマイクを持ちアナウンスを開始する。

「今回のイベントは専用マップに出現するモンスターを倒しポイントを手に入れます。そして獲得したポイントによって武器や防具またはスキルとイベント終了から三日間交換でき、イベント後にポイントを期限付きゴールドだと思ってNPCショップに行って頂ければと思います」


 NPCの少年が左手を使い空中に持っていた物を投げる。

 すると小さい花火の様に青白い光が空中で弾けて、スクリーンの役割を果たしモンスターとその下に数字が表示される。


「今回のモンスター撃破時の獲得ポイント表です。先に言っておきますがプレイヤーKillはありです。プレイヤーを倒した場合、そのプレイヤーが所持しているポイントの三割が倒したプレイヤーに配分されます。また複数人で倒した場合はその三割を分割する仕組みとなっていますので安心してください!!!」


 そして凄い勢いでモンスター一覧表に画像とポイントが追加されていく。それは各プレイヤーのステータスや所持アイテムを確認するパネルにもイベント情報がインストールされていく。


「死亡しても装備や防具は消失したり落としたりしないので安心してください。イベント期間中は現在プレイヤーが装備している武器、防具、装備品の耐久値がゼロにならないようになります。ちなみに死亡した場合はフィールドに予め設置された七つの復活ポイントの何処からかのスタートになります!」


 とりあえずは安心した。

 これで仮に負けてもイベント脱落にはならないようだ。

 それに強制退場がないのであればモンスターを倒すのも気楽に出来る。


「今回のイベント時間は三時間です。先に言っておきますが皆さんパーティーを組んだ方が有利ですよ。今回は大型モンスターや人型モンスターになるほど強く、そして大量ポイントとなっています。短時間で効率よくと考えれば当然ですね! ちなみにある場所に行くと特別任務が出現し超大量ポイントをゲットできるNPCもいます。その場所は全部で十二か所! 一発逆転を狙い探すも良し! コツコツポイントを集めるのも良し! 全ては貴方次第です!」


 まさか運営がパーティーを組むことを推奨してくるとは正直思わなかった。

 だけどこれは第三回イベントに向けてギルドつまりチーム戦でのデータ収集――サンプル集めを含めての発言だろう。


「今回までギルドを使わないってのは何もソロでって意味じゃなかったんだな」

「みたいね。それにしても前回イベント上位者は隙を見せたら狙われそうね」

「なんで?」

「上位者はほとんどがトッププレイヤー。つまり大型モンスターを倒すPS(プレイヤースキル)や攻撃スキルを持っている。そこで上位者がモンスターを倒し弱った所を狙う奴が少なくとも……あそこに一人いるわ」


 蓮見が指さされた先を見るとそこにはエリカがいた。

 なぜ生産職のエリカがと思ったが、一層ボス攻略時に見たエリカの後では何となく想像がついた。何故か一人立派な剣を装備して防具まで身に付けてガッツポーズをして微笑んでいる時点で見えてはいけないオーラが一瞬見えた気がしたので蓮見はこのイベント期間中は他人のフリをすることにした。美紀もそれには同感してくれた。


「ちなみに先日エリカさんから正式に商品化検討してるからお試しで使ってくれていいよって事でこの前の危険な手榴弾幾つか貰ったけど里美も幾つかいる?」


 美紀が即答する。

「いらない」


「まぁ話しを戻して、とりあえず俺は一つでいいからスキルをゲット出来るだけのポイントがあればいいけど里美は?」

「私もポイントはそれくらいでいいわ。後は紅と楽しく出来ればそれでいいから」

「良し! なら楽しみながら一緒に頑張ろうぜ?」

「うん!」


 二人の話し合いが終わると、タイミングよくイベント開始の合図が聞こえてきた。

 そのままイベント参加者が光の渦に呑まれ、第二層の噴水広場から消えた。


「おっ、着いた!?」


「そうみたいね」

 二人の目に入って来たのは、異世界をイメージしたようなイベント専用マップだった。

 足場は土。空には第一層ボス戦攻略で倒したダークネスが視界に見えるだけでも複数体広大な空を優雅に飛び回っており、視線を少し下に向ければ高くそびえる山々。

 もう少し視線を下に向ければ森が見え、川が見え、草原が見える。

 大きく深呼吸をすれば新鮮な空気が肺に入ると同時に草の香りがした。


 周囲を見渡すが近くにプレイヤ―はいなかった。

 どうやら蓮見と美紀思っていた以上にフィールドは広く作られているらしい。


「すげぇ~、これ本当にゲームの世界なのか……」


「そうだよ。それより紅、そろそろ私達も動かない?」


「そうだな」

 二人は綺麗な景色を見ながら歩き始める。

 楽しくお話ししながら歩いていると複数の巨人を相手に戦っているパーティーがいた。


「すげぇな。俺なんて三体でも苦戦したのに……」


「あの子達……んっ?……前回イベントランキング7位のソフィがいるわね。そりゃ強いわよ」


「なるほどね~」

 蓮見と美紀は別に獲物を横取りする気もなかったので彼女達を遠くから見守りながら通り過ぎる事にする、


「とりあえず優秀なスキルだと一つで15000ポイントは必要だから……そろそろ敵倒さないとだよな~」


「まぁ時間はまだあるしゆっくりでいいじゃない」

 蓮見とは違って余裕を見せる美紀。

 これが経験者と初心者のメンタルの強さの違いなのだろう。

 そんな事を蓮見が思っていると、上空から三匹のガーゴイルが急降下して正面から二人を襲って来た。蓮見が矢を構えようとすると、美紀が左手でその行動を制止させる。


 蓮見の考えを見通したように美紀が言う。

「まぁまぁ、こんな所でKillヒット連発したら逆に目立ってしまうわ。紅の活躍はもっと後よ」


「なら、どうするんだ?」


「どうするって、そりゃこうするわ」

 ガーゴイルが美紀を襲うとした瞬間、三匹が光の粒子となって消滅する。

 目に見えない速さで繰り出された美紀の三撃が低レベルのガーゴイルに一斉に降りかかり倒したのだ。


「流石……。よっ! お見事、里美様!」


「えへへ~。さぁ、この調子で無理なく行くわよ」


「おう」


 それからも歩いてモンスターを探す為森の中に入ったのだが、中々モンスターが見つからなかった。

 どうやら弱いモンスターは既に倒されたのかもしれない。


「ん~困ったわね……。これは誰かの獲物を横取りするしかないかしらね……」

 美紀がため息を吐く。

 さっきから出てくるのは倒しても10ポイント未満のモンスターばかりで全然手ごたえがなかった。これじゃポイント以前に手ごたえがなくて楽しくない……。


「あ~イライラする~」

 美紀の心の声が漏れる。


「ってかこれ広すぎだろ。広すぎて手ごろなモンスターが見当たらない……」

 蓮見は歩き疲れていた。

 そして蓮見のイライラも募りに募って爆発する。


「良し! 決めた!」

 蓮見が弓を構える。


「何をするつもり?」


 蓮見はドヤ顔で即答する。

「何って決まってるだろ。『レクイエム』でこの森を燃やす!」


 慌てて止めに入る美紀。

「バカ! それはやめなさい!」


「なんで?」

「山火事つまり火傷で多くのプレイヤーと雑魚モンスターが死ぬからよ。そんな事したら逆に逆恨みで皆に狙われるわよ!」

「チェ、せっかく妙案だと思ったのに……」


 口を尖らせて渋々武器をしまう蓮見。

 その時、正面から沢山のプレイヤーが走ってきた。


「おい、全力で走れ!」

「追いつかれたら死ぬぞぉぉぉ」

「ちょっと待ってよ、私を置いて行かないでよ~」

 と必死に走るプレイヤーを見て、美紀の目が真剣な物になる。


「森燃やさなくて正解だったみたいよ」

「あぁそうだな」


 蓮見と美紀が戦闘態勢に入り、今も耳をすませば聞こえてくる足音に集中する。

 ガシャ、ガシャと音が聞こえてくる。

 

 敵が来るのを待つ二人の横を通り抜ける時に、一人の少年が耳打ちをしてきた。

「おい、お前達も逃げろ! あいつは化け物だ。もう二十人以上がやられたんだ……」

 そのまま少年は振り返る事もなく一直線に走って逃げる。


 二十人以上のパーティーでも勝てない相手。

 一体どんな敵が現れるのだろうか。

 そう思っていると足音が不特定多数に増える。


 その時、声が聞こえた。

「逃がすなー。敵は全員倒すのだぁ!!!」


 その声に反応するように雄たけびが聞こえてくる。

「「「「「ウォォォォォォォォォォォォォォ」」」」」 


 二人の直感が感じ取る。これはボスの言葉だと。

 それと共に、二人の元に近づいてくる足音。


 そして、遂に敵が姿を見せる。

 戦闘開始。

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