第40話 ツンデレ美紀ちゃん
――――
――――二人がログアウトして。
蓮見はもう間もなく提出期限が迫ってきた春休みの宿題をしている。
決して頭は良くない。
だけどこのまま【春休みの宿題】と書かれた五教科の宿題プリントを一回も開かず春休み終わりに学校に提出すれば担任の先生から何を言われるか大方想像がついたので、一問でも多く問題を解いて「俺やりました!」感を作る為、久しぶりに勉強机に腰を降ろし頑張っていた。
「ったく基本的な問題以外は全然わからねぇ……だけどしないと怒られるか……」
机の端には教科書を開き、例題の問題と解説を見ながら、今は数学の問題を同じようにして解いていた。答えが合っているかが重要なのではなく、途中式をしっかりと書いて答えを出す事が今の蓮見にとっては最優先事項となっていた。
「これが……あーなって……これが……こうか? ん~まぁとりあえずこれで答えが出るからいいだろう……」
ブツブツと独り言を吐きながら熱心に宿題に取り組む蓮見。
こんな姿を美紀に見られたらきっとバカにされる。そう思うと頼れなかった。
美紀は男子にモテるだけでなく、頭もよく学年でいつも上位にいる。
容姿が良くて、勉強できて、VRMMOゲームが強くて、料理ができて……と蓮見とは似ても似つかない優秀な幼馴染である。そんな幼馴染に頭を下げた所で素直に教えてくれるとは到底思わなかった。なんたって春休み始まって僅か2日で宿題を全て自分の力だけで終わらす天才なのだから。
「クソッ~イベント前にこんなことになるとは……」
その時、蓮見の手が止まる。
そして、腕を組んで真剣に考え始める。
「待てよ……これを機に今回のイベントを辞退すれば……美紀も納得するんじゃ……」
「蓮見?」
「うん?」
「何でそんな悲しい事を言うの?」
「そりゃ決まってるだろ。美紀の前でカッコ悪い所だけは男として見せたくないからだな…………」
後ろを振り返るとそこには美紀がいた。
目をパチパチさせて、ピタっと止まる蓮見。
「えっ、美紀?」
何故ここに? と思い視線だけを動かすと、部屋の空気の入れ替えの為に窓を開けていた事を思い出す。つまりはいつものパターンで窓から侵入してきたのだろう。ここは二階だが家が隣接し奇跡的に窓が同じ高さで向き合って存在しているため美紀の運動神経なら飛び移って蓮見の部屋に入ってくる事が可能となっている。
「それより、イベント! 一緒にするよね!?」
顔を近づけて美紀が言ってきた。
蓮見と美紀の顔の距離は後少しで触れ合うぐらいに近い。
「……宿題が終わったら出ます」
「ならイベント終わった次の日に私が全部一日かけて一緒に教えながらやってあげる。それなら文句ない?」
蓮見が頭の中で考える。
それで宿題が終わるのかと。
「多分蓮見が一人でやる倍は私とやった方が
「……ってそれ全部じゃねぇか!!!」
抗議をする蓮見を見て、美紀が腕を組んでソッポを向いて目を閉じる。
そして片目だけ開いて蓮見を見る。
「違うの? 嫌なら一切手伝わないけど?」
何ともなさけない。
ゲームで勝てず、勉強でも勝てず、どちらも教えてもらう立場だと言う事は。
だが!
――男にはどんなに惨めでも、どんなに恥ずかしくても
――プライドを捨てなければ……
――ならないときがあるのだ!!!
「……すみませんでした。全部美紀様の言われる通りにいたします」
蓮見が一瞬で手のひらを返して地面に頭を付けて土下座する。
「一応聞いてあげるけど、プライドとかは……」
美紀の言葉を遮って、決め顔で言う蓮見。
「ないです!」
「……そうなのね……ここまでキッパリ言われると、最早何も感じないわね」
「何を言う。男には時としてどんなに辛くても決断しないといけないときがあるんだよ。例えそれが可愛い幼馴染の前でカッコ悪い所は見せたくないと思う自分がいてもだな……」
「あ~もうわかった、わかったからこの話しはもう終わり。先に言っておくけどそんなんじゃ蓮見の事は嫌いにならないわ。勉強ができないのは小学生の頃から知ってるから」
当たり前の事だと言わんばかりにサラッという美紀に蓮見は心が締め付けられた。
これじゃ見栄を張る事もできないなと改めて思った瞬間でもあった。
――てか知ってるなら最初から教えろ!
とは口が裂けても言えない。
そんな事を言えば、美紀様のお怒りを買い天国に逝ってしまうからだ。
「それで今日は俺の部屋に不法侵入した美紀様の御用はなんですか?」
立ち上がりながら事情を確認する蓮見。
すると美紀が待ってましたと言わんばかりにベッドに行き寝転ぶ。
「私今日疲れたの。だからマッサージして欲しいなーとか思ってるんだけどどうかな? もししてくれたら私の中での蓮見のポイントが上がってイベント終わりの勉強会の時やる気出ると思うんだけどな~」
チラチラと上目遣いをしながらお願いしてくる可愛い幼馴染。
そんな幼馴染の為ならここは一肌脱ごうではないか。
「お嬢様、お任せください!」
早速立ち上がりベッドに寝転ぶ美紀の元に行く。
そんな蓮見を見て美紀がボソッと呟く。
「ホント単純ね……だからエリカにもいい顔するんだ……」
美紀は途中ブツブツ何かを言っていた。
しかし蓮見が美紀の背中にまたがってマッサージを始めると、気持ちいのか表情が一気に柔らかくなる。
「あぁ~しぃあわ~せぇ~だぁ~」
気持ちよさそうに声を出す美紀。
やっぱり素直に喜んでくれる時の美紀は可愛いなと思う蓮見だった。
「ねぇ~はすみぃ~?」
「なんだ?」
「はすみぃ~は、こうやって甘える私の事どう思う?」
――どう? ……って可愛くしか見えないんだが
だけどそれを言うのは照れ臭かったので、
「いいと思うぞ。ありのままの美紀って感じがして」
と少し照れながらも言葉を濁して答えた。
だけど美紀は満足してくれた。
「ならよかった。めんどくさい女だと思われてたらどうしよかと思ってた」
「バカだな美紀は。俺がそんな事を思うわけないだろ」
「そっかぁ。安心した」
「あぁ、なんたって勉強を変わりに教えてくれるんだから。これくらい安いもんだ」
蓮見の一言に美紀がため息を吐く。
そして冷たい視線を向ける。
「蓮見?」
「うん?」
「ばか!」
「えっ?」
突然冷たい視線だけでなく、不機嫌になった美紀が言う。
「なんでもない。それよりもっと力を入れて気持ちを込めてマッサージしなさい」
その後、蓮見は一時間美紀の為にマッサージをした。
すると蓮見の思いが伝わったのか最後は満面の笑みで「ありがとう。私の為にマッサージしてくれて。おかげで心と体が癒されたよ」と言ってくれた。
その日、蓮見と美紀はぐっすり眠る事ができた。
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