第33話 絶対絶命の蓮見!?



 ――そして。


 30分後。


 ふと何かに気付いたように目を開ける美紀。

「あっ、ごめん私寝てたみたい」


「別にいいよ。それよりよだれ拭いた方がいいと思うけど」


 蓮見の一言を聞いた美紀が急に顔を赤くして慌ててよだれを拭く。

 恥ずかしいのか顔を赤く染めて唇を尖らせ更には涙目になって上目遣いをしてくる美紀は可愛かった。

 試しに蓮見が頭を撫でてみると、更に顔が赤くなった。


「そんな気にするなよ。俺達幼馴染だろ?」

「むぅ~。それはそうだけど……やっぱり恥ずかしいの……」


「里美が寝てる間に思ったんだけど、俺ってやっぱり防御力低いの?」


 蓮見の質問に里美が少し考える。

「う~ん。低いって言うかPS(プレイヤースキル)が極端に低い。だから相手の攻撃を本来であればまともに受けないように回避行動を多くのプレイヤーが取るんだけど、紅の場合は毎回まともに喰らってるから防御力以前の問題だと思う」


 言われてみればと心当たりが沢山ある蓮見。

 考えて見れば当然だった。


 VRMMOゲームを初めてする蓮見が他の経験者と同じように動けることなどまずありえない。これで蓮見が運動神経抜群、ゲームに関しては天才と言った才能があれば話は別だろうが残念ながら平凡な蓮見にはそう言ったたぐいの物はない。あるとすればその場の発想力と機転が高いことだろう。

「なるほど。ならPS(プレイヤースキル)でも少し上げてくるか」

「そう。なら私も……」


 ――ピコーン

『運営よりメッセージを受信しました』


 突然聞こえてきた音声に口が止まり、パネルを操作して確認する美紀。

 それを覗き込むようにして蓮見も一緒に確認する。


『皆様に第二回イベントの告知です。詳しい内容を今から30分後にギルド前提示板に告知致しますのでご興味のある方は確認よろしくお願いします。


 参加条件:第2層到達

      Lv.20以上のプレイヤー


 注意事項:イベント開始までにはプレイヤーの準備期間として数日ありますので

      落ち着いてギルド前提示板の確認をお願いします。


      尚今回のイベントまではギルドを使いませんので

      無所属プレイヤーでも参加できます。



                                 運営より』


 と書かれていた。


 流石にまだ来ないと思っていたのだろう。

 美紀が驚きながらも物凄く嬉しそうな表情をする。


「紅、予定変更よ! 私は今から30分後ギルドに行ってくるから、今日は一人で頑張ってきなさい。夜に紅の家行くからその時にイベントの情報を共有しましょ。私はイベント内容を確認してからレベル上げもしくはスキル獲得に別で行くわ!」


 寝起きにも関わらずハイテンションになった美紀。

 多分……いや間違いなく嬉しいのだろう。


「おっ……おう。わかった……」

 あまりの気迫に蓮見はつい戸惑ってしまった。


「なら俺はどの道スキル不足だからモンスターと戦ってちょっとでも強くなってくるよ」


「うん。頑張ってね」

 蓮見がギルドを出ていくと、まるで彼女のように玄関を出て背中を見送ってくれる美紀がいた。

 少し照れくさかったので蓮見は気付いていない振りをして足早にモンスター討伐に向かう事にした。


 あてもなくブラブラと歩いているといつの間にか街の外に出ていた。


「あれ? ここ何処だ?」

 ついどうやったら美紀の様に強くなれるかを考えていた為に自分が何処にいるかよく分かっていない蓮見だった。

 周囲を見渡せば一層と同じく森の中にいた。

 見た感じはそんなに変化は見られなかった。



 ザザッ



「ん? モンスターか?」

 森の茂みからイノシシが姿を見せる。

 イノシシは体長二メートルと蓮見より少し大きく、口元には白く立派な牙が二本生えていた。

 蓮見を敵と認識しているのか突撃姿勢に入るイノシシ。


「いやいやいや……イノシシは怖いからダメだって……」

 だが、一歩後ろに足を出す蓮見にイノシシは容赦なく突撃してくる。

 慌てて横に飛んで何とか回避する。


「ふぅ、あぶねー。現実世界なら無理だがこの世界なら意外に躱せるのか……」

 まだゲームの感覚すらしっかりと掴めていない蓮見は少しだけ自信を持つ事に成功した。

 そして現実世界では無理な事でもこの世界ならパラメータが上がればできるのだと気づく。

 とりあえず躱す練習と思い、しばらく横に呼ぶことで身体を慣らしていく。


「よし。だいぶ慣れてきたし反撃でもするか」

 今後をイメージして弓が使えない状況になった時の為に、スキル『複製Ⅰ(別名 模倣Ⅰ)』を使い右手に【鏡面の短剣】を複製して持つ。


 そしてイノシシの突撃を躱しながら攻撃する。

「やった!! ダメージが通った!」


 喜んでいると方向を変えて再び突撃してきた。

「ふん。今の俺様にはもう通用しないぜ?」


 ――ズバッ!!


 今度は綺麗にカウンターが決まった。

「チッ、チッ、チッ……わかってないな、今の俺様は無敵だ!!!」


 今なら何でも出来ると思った蓮見のテンションが跳ね上がる。

 そして最高潮にテンションが達した瞬間、あるアニメのシーンを思い出す。

 それを再現すべく今度はイノシシと同時に走り始め、ぶつかる瞬間に手を伸ばしイノシシの上を飛びこえながらカウンターを決め…………。


「うぉぉぉぉぉーーーーー!!!」


 攻撃を失敗した方が身体を地面につけ苦痛に襲われる。


 二層の『怖い森』にて一人の少年の苦痛の雄たけびが木霊する。

 飛び越える所までは良かったのだが、飛び越える瞬間イノシシの二本ある白い牙のうち一本がジャンプした蓮見の下半身、それも正確には息子に触れてしまったのだ。


 痛覚が存在するこのゲームでは急所つまりクリティカルヒット扱いにはならないが蓮見にとってはKillヒットに激痛を伴う場所である。


 まるで木製のバッドで思いっきり殴られたような激痛に耐えられず右手に持っていた【鏡面の短剣】を捨て、自分の息子を抑えて苦しむ蓮見。


 これだけ痛くてもHPゲージは1割も減っていないのが現実……。


 さっきまでカッコイイ事を言っていた蓮見はそこにはいなくて、今いるのはまだ一度も好きな人に対しての仕事をしていない息子を通して伝わってくる激痛に苦しむ蓮見だった。


「うぉぉぉぉ!!! ……っぉまえなぁ~俺の息子様に……なんて……ことを……」


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