第34話 命と息子は特に大切だと知った日


「ッ!?」


 ようやくイノシシに視線を向けると、イノシシには男の痛みを理解してくれる優しさはなく容赦なく今度は白いエフェクトを纏いながら突撃してきた。どうやらNPCも二層からはタイミングを見計らって的確にスキルを使ってくるらしい。あまりの痛みに目から涙が零れる。


 まだ立つことがままならない蓮見。


 両手で息子を抑えながら、横にゴロゴロと転がって攻撃を躱す事にする。

 目に見えないHPゲージが回復するまで、これでやり過ごす事を決意した!


 恰好悪いとかそうゆう事を考えているだけの余裕が蓮見にはなく、決断するのに要した時間は一秒弱だった。


「スキル『精神防御』を獲得しました」


 スキルゲット本来であればとても嬉しいが今の蓮見にはそんなことはどうでも良かった。まずは息子の回復が最優先事項だった。提示板に息子を抑えて死んだプレイヤー等と仮に書かれたらと考えると人として極限にマズかった。



 スキル『精神防御』

 効果:VIX値マイナス10。30秒間INT、MNDが+15。ただし一日10回まで。

 獲得条件:プレイヤーの精神状態がかなり不安定になる。



 本来であれば違う方法で獲得できるスキルを偶然にも獲得する。

 精神系統に対する攻撃魔法はまだ安全性が確認されていない事から実装予定で止まっている。その対抗措置として予め用意されているスキルの獲得。

 つまり今の蓮見にとってはシステムが精神破壊攻撃を受けたと認識する程に追い詰められていたのだ。


「だれかぁぁ。俺の息子を……助けてくれーーー」


 苦しみながらも、攻撃を躱す蓮見。


 ――――…………


 ――そして。


 蓮見が復活。

 額には尋常じゃないくらいの汗が流れ出ており、この瞬間だけを切り取ってみた人からすれば何をそんなにイノシシ一匹に苦戦をしているのだろうと勘違いされそうだった。

「……待たせたな。お前は俺が戦って来たモンスターの中で一番強い……と認めてやるよ」

「ガルルルル」


 激闘を繰り広げる両者がにらみ合う。

「スキル『イーグル』!」

 スキル『複製Ⅰ(別名 模倣Ⅰ)』を使い右手に【鏡面の短剣】を複製して持つ。


 蓮見とイノシシが同時に動く。


 ――ズバッ!!


 KillヒットされたイノシシのHPがゼロになり光の粒子となって消えていく。


 額の汗を拭きながら、

「いい勝負だった、だが所詮は本気を出した俺の敵じゃなかったな」

 とドヤ顔で呟く蓮見。


「せめて今度はもっと強くなってから……」

 歩き始めた蓮見の口が止まる。

 前方には騒ぎを聞きつけたのかイノシシの群れがいた。


 ――不幸なのは蓮見が冷静に状況を把握しスキルを使ったパワープレイで行けば、ただのNPCに過ぎないイノシシ等敵ではない事に気付く精神的余裕がまだなかったことだ。表情こそはいつもの蓮見だが、実はまだ息子さんがとしている。

 そのせいで次にあの攻撃を受けたらと思うと、とてもじゃなかったが冷静な判断などできなかった。


 何かを悟ったように蓮見は言う。

「……あはは。……戦略的撤退! 全力で全速ダッシュ!!!」


 この日、蓮見は知った。

 PS(プレイヤースキル)低いと今後危険であると。特に人体の急所が。


 故に次回のイベントまでの目標は『プレイヤースキルの強化と新しいスキルのゲット』で決定した。


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