投稿その31

 スマホが壊れた。


 放課後に急いでバイトに向かう途中、着信があったんでバッグからスマホを取り出そうとしたら、手を滑らせて地面に落下。

 つま先で蹴っ飛ばしてしまい、そのまま車道へ一直線。

 走ってきたトラックに踏まれたところで、不幸のピタゴラスイッチは終了!

 悲しいかなスマホは粉々に粉砕されてしまった。

 車が来てないのを確認して急いで拾ったんだけど、ボロボロになって原型を留めていないスマホは、アンドロイドならぬ「あーんどろどろ」って感じだった。(余裕あるな!)


 うーん、これは困ったぞ。SNSに投稿できなくなっちゃうなぁ。

 でも新しいのを買いに行くにもバイトがあるし……んん?あれ?もしかしてバイトに遅刻の連絡もできない?

 ってことは、やっぱりバイトに行かないとだね……。

 バイト終わってから急いで家電量販店に行けば間に合うかな。


 ということで、ボロボロのスマホを握りしめてバイト先へダッシュ。

 5分だけ遅刻しちゃったんで、壊れたスマホを見せながら店長に事情を説明したら、泣きながら「女子にとってスマホが使えなくなるってことは、恋をするなって言ってるのと同じことだよ!」って、ちょっと引くぐらい同情された。

 まぁ確かに、そのくらい絶望的な状況ではあるんだけど……。

 他の先輩たちは面白がって、ボロボロのスマホの写真を撮って私のLINEに送りまくっていた。

 もう!他人事だと思って!


 バイトの時間は打って変わって何の波乱もなく、淡々と業務をこなしていった。

 今日の仕事は20時まで。近くの家電量販店は21時までだから余裕で間に合いそうだ。


 バイトが終わってダッシュで家電量販店に行くと、入り口のところでお母さんが待っていた。

 未成年は一人で機種変できないから、バイト先の電話を借りてお母さんに連絡しておいたんだ。

 よし!それじゃ時間が無いから、急いでスマホコーナーに行こう!


 ふむふむ、なんかいろいろあるなぁ。壊れちゃったスマホはお母さんにテキトーに選んでもらったやつだから、特にこだわりとかないんだよなぁ。

 強いて言うならカメラの性能が良いやつがいいんだけど……。

「ねぇお母さん、どれ選んでもいい?」

「できれば安いやつがいいけど……どれでもいいよ」

 どれでもいいのか……んん、待てよ。

 もしかしたらこれ、真純くんと同じ機種にできるタイミングなんじゃない?

 たしか真純くんが使っていたのは……えっと……リンゴマークが付いてたからiPhoneだった気がする。

 なんか友達と「アップルなんとかがなんとかかんとか」とか呪文みたいに言ってた気がする。

 ふむふむ。これは会話のきっかけになるかもしれないぞ。

「ねぇお母さん、iPhoneでもいいかな?」

「いいんじゃない?なんかオシャレだし」


 ということで、iPhoneのいちばん安いやつ……SEだったかな?にしてもらった。

 家に帰ってすぐに保護フィルムを貼って、インスタとツイッターとLINEをインストールした。

 ひとまずこれでSNS関連は更新できそうだよ。ふぅ、良かった。


 よ~し、遅くなっちゃったけど、さっそく匂わせインスタを更新しよう。

「スマホ壊れちゃった(涙)同じスマホにしたよ。#iPhoneはじめました」


 【匂わせポイントその31】彼氏と同じスマホだと匂わせつつ、実は真純くんと一緒!


 私のLINEにバイトの先輩から壊れたスマホの写真が送られていたので、それと一緒に新しいiPhoneの写真も載せてみた。

 これを見たら真純くんもきっと「香織さん、AndroidからiPhoneに変えたんだ。グッジョブズ!」って、黒いハイネックにジーンズで、どれだけ私のことが好きかプレゼンし始めちゃうかもしれない!


 翌朝、教室に入ると、すぐに真純くんが話しかけてきた。

「香織さん、スマホ変えたんだね!」

「そうなのそうなの!アンドロイドからiPhoneに変えたんだ」

「iPhoneか~。僕と同じだね」

「あ、そうだったんだ~!」

 なーんて、思いっきり知ってたけど。

「iPhoneのいくつ?」

「いくつって?一台だけだよ」

「あはは、違くて、iPhoneの8とか11とか、機種のこと」

「あーそういうことか。えっとね、SEってやつだったと思う」

「SEね。4.7インチのディスプレイを持ったデザインに、A13 Bionic、ポートレートモード、4Kビデオ、Touch ID、Retina HDディスプレイ、長時間駆動するバッテリーを詰め込んでるんだよね」

 ……真純くん、なんでアップルのホームページの商品説明をコピペしたみたいなしゃべり方になってるの?

「それにAndroidからの乗り換えだと最大3万2千円割引が適用されるから……」

 なんか変なスイッチ入っちゃったみたい。

 でもすごいなぁ。こんなに細かいスペックまで覚えてるんだ。真純くんって勉強もできるしすごいんだなぁ。

「よかったら、iPhoneの先輩としていろいろアドバイスしてあげるから、香織さんのLINEのアカウント教えて」

「えっ!えっ!?えっと……」

 どどどどどどうしよう!!そんな展開になるって思ってなかったから心の準備が!!

「ご、ごめん!まだLINEインストールしてないんだ!」

「あー、そっか。まだ機種変したばっかりだもんね」

「設定とか全部終わったら教えるから!待ってて」

「うん!わかった!」


 急展開率100%!匂わせとかちょっと保留!


 【反省点】この千載一遇のチャンスは丁寧に行こう!!


 うー、ここで素直に「いいよ」って言えないのが私なんだよなぁ。

 なんかさ、LINEを交換するのはいいんだけど、何を話したらいいのかぜんぜんイメージがわかないんだよね。

 緊張しちゃって会話が続く気がしないとか、メッセージ送るのに考えすぎちゃって時間かかっちゃいそうとか、ネガティブなことばっかり浮かんで来ちゃうんだよねぇ。

 でもこんなチャンス、二度となさそうだからさ。交換だけでもしてみるよ。

 ということで次回、ドッキドキのLINE交換編!

 あ、アイコンとかどうしよう……(焦りまくり)

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