投稿その29

 ずーっとドキドキしている間に、気がついたら放課後になってた。

 さぁこれからバイトの面接だ!

 でもネイルサロンの面接って、指とか爪とか見られるのかな?


 見られるよね~!


 だって靴屋さんのバイトだったら、絶対に何履いてるか見られるでしょ。

 メガネ屋さんだったら、メガネかけてるかどうか見られるよね?

 ってことは、お団子屋さんだったら、髪の毛をお団子にしてるか見られるの?


 見られるよね~!


 まぁ私のネイルは、シンプルな薄いピンクのジェルネイルだから大丈夫かな。

 ということで、学校のトイレの鏡で制服も髪も整えて、準備万端!


 学校を出て、約束の時間の10分前に駅前のネイルサロンに到着した

 白とパステルピンクの店内に入ると、受付のお姉さんが出迎えてくれた。

「いらっしゃいませ~↑」

「こんにちは。バイトの面接に来ました」

「こちらへどうぞ~↑」

 やたらと語尾を上げて高い声でしゃべるお姉さんに連れられ、奥へ向かった。

 私もバイトに受かったらこういうしゃべり方をしないといけないのかな?

 面接もこんな声で受けた方がいいのかな?

 な~んて考えているうちに、あっという間に事務室に着いた。

「中でおまちくださ~い↑」

「は~い↑失礼しま~す↑」

 真似してみたけど、お姉さんはノーリアクションでどこかへ行ってしまった。


 表のパステル調な店内に比べて、裏は雑多な事務所って感じだった。

 キョロキョロしていると、すぐに部屋のドアがノックされ、繊細そうな大人のお姉さんが入ってきた。

「おまたせしました」

「よろしくおねがいしま~す↑」

 急いで立ち上がって、高い声で挨拶をしたら、お姉さんはクールに笑った。

「普通でいいですよ」

「あ、ごめんなさい」

 お姉さんから座るように促されたので、エレガントに椅子に座った。

「ふふっ、高校生は可愛いですね」

「ありがとうございます」

「言われ慣れてるのかな?認めちゃうところも可愛い……」

「……あ、ありがとうございます」

 だんだん怪しげな雰囲気を醸しはじめたお姉さんは、私に手を出すように促した。

「ちょっと指を見せてもらえますか?」

 やっぱり指を見るんだ……ハンドクリーム塗りまくっておいてよかった。

 恐る恐る手を差し出すと、お姉さんは私の指をじっくり丁寧になでながら、ネイルの具合を確認していった。

「ふふふ、ちゃんとTPOをわきまえている、いいネイルですね……」

「あ、ありがとうございます」

「指も細くて綺麗」

 んん……おかしいぞ……ずっと指をなでたまま離してくれないぞ。

「すべすべしてて……」

「あ、あの……」

 んん……なんか指を頬ずりし始めたぞ……。

「それでいてしっとりしていて……」

「えっと……」

「……採用です」

「えっ?」

「可愛いから採用です」

「ホントですか?」

「もちろんホントです」

「どうして?」

「長くネイリストをやっていると、指とネイルを触ればどんな人かわかるんですよ」

「そうなんですか?」

「そう、あなたは一見ミステリアスな雰囲気の美人だけど、本当は一生懸命で一途な人なんでしょ?」

「えぇっ!!なんで!?」

「ふふふ、指のみぞ知るってところでしょうか」


 それから10分以上、指を撫で回されたところで、お姉さんは満足したのか、ようやく私の指を解放してくれた。

 さらに続けて、驚きのひと言を口にした。

「それじゃ、店長を呼んできますね」

「えぇ!店長さんじゃないんですか!?」

「そう、私は採用担当。店長は別の人」

「えぇっ!」

 こんな人を採用担当にして大丈夫か、この店!?

「少しだけここで待っていてくださいね」

 そう言ってお姉さんはウインクをしてから部屋を出ていった。


 するとすぐに店長がやってきた。

 さっきのお姉さんよりももう少しだけ年上っぽい落ち着いた綺麗な人だった。

「香織さんですね」

 その声はバイトに応募した時に電話をかけてきた女性の声だった。

「はい、そうです」

「採用試験は合格です。今日から香織さんも、このネイルサロンの一員です」

「あ、ありがとうございます」

 ぜんぜん試験を受けた実感がないけど……

 あの撫で回しが採用試験だったのかな?変なの。

 なんにせよ、採用してもらえてよかった。


 それから事務的な話があった。

 研修中の2ヶ月は時給950円。

 その後は1200円からスタートして、指名とかが入ったら少しずつ上がっていくんだって。

 しかも資格取得のための講習も受けられるんだそう。

 最初は雑用だけど、少しずつネイルも任せてもらえるみたい。

 すごくやりがいがあって楽しそう!


 ひと通り事務的な説明が終わったところで、エントリーシートを見ながらの雑談になった。

「香織さんは、お付き合いしている人はいるんですか?」

 おぉ!そんな話もするのか!!さすが女性だけの職場だなぁ。

「えっと……いるような、いないような」

「まだ付き合っていない微妙な感じ……ってところでしょうか?」

「そんな感じのような、そうでもないような……」

「なるほど、気になる人はいるってことですね?」

「そうですね……」

 なんだこの人、すごい洞察力だなぁ。何かの能力者かな?

「気になる人の写真とかないんですか?」

「インスタにいろいろと……」

「見てもいいですか?」

「どうぞ。検索すれば出てきます」

 そう言うと、店長はスマホで私のインスタを検索した。

「うわ~素敵な写真がいっぱいですね」


 【匂わせポイントその29】本当はいないけどSNSだけ見たら彼氏いるの間違いない!


「これで付き合っていないっていうのは、この男性が可愛そうですよ」

「ってことは……やっぱり彼氏がいて、その人のことが大好きなように見えますか?」

「もちろん。どう見ても彼氏さんラブですよ」

「ですよね~!!」

 よし、クラスメイトでもない第三者にもそう見えるってことがわかった。

 私の匂わせテクニックは間違っていない!


 すると店長は、写真をいろいろ見ながら疑問を口にした。

「それにしても、直接的な写真じゃなくて、間接的な表現の写真が多いですね」

「そうですね」

 あ~気付かれちゃったかな~?

「このインスタって、まるで今流行りの……」

「流行りの?」

「に……に……にわ……にお……」

「にお?」

「二度づけ?」

「違うでしょ!話題にはなってるけど」

「ってことは……二度手間、でしたっけ?」

「違いますよ!」

 確かに「直接告白しろよ!」って意味では二度手間かもしれないけど。

「もう!匂わせですよ。匂わせ」

「そうでしたそうでした!匂わせでした」

 あーあ、もう自分で言っちゃったよ!恥ずかしいなぁ!

「私、初めて見ました。これが匂わせってやつなんですね」

「そうですよ。匂わせ、覚えてくださいね」

「でもこれが「匂わせ」ということは……もしかして、SNSで彼氏の存在を匂わせて、気になる人に焼きもちを焼いてもらおうっていう作戦ですか?」

「さっきから洞察力すごすぎでしょ!ホントに何かの能力者ですか?」

「いえいえ、さっきの話と合わせたら、わかりやすいですよ」

「わかりやすいですか……でもその「気になる人」は、ぜんぜん焼きもちを焼いてくれないんですよ~」

「これで焼きもちを焼いてくれないなら、もうガツンと言わないとわからないと思いますよ」

「それができてたらねぇ……こんなに匂わせたりしないですよ」

「ふふっ、可愛いですね。勇気が出ないんですね」

「出ませんよ~!!ラブコメのヒロインなんてのはガツンと言う勇気がないから付かず離れずのお話が何話もできるんですよ!もし言える勇気があったら1話の1コマ目で終わっちゃってますよ!だからこんなに手を変え品を変え匂わせてるんじゃないですか!それなのにあの人は「あー見たよ○○だよね!」って斜め上のわけのわからない角度から感想を言ってくるんですよ!もうなにそれ!昨日の私のあれやこれやの苦労を返してよ!って感じですよ!」

 めっちゃ早口で喋ってしまった……

「あはは、香織さんって面白いですね」

 あー、初めて会った人にも「おもしろ認定」されてしまった。


 真純くん登場しない度100%!匂わせはバレバレ~!


 【反省点】気付かないのはキミのせい!ってことが判明!


 今回初めてクラスメイト以外の第三者から客観的な意見を聞けた。

 つまりあのSNSを見たら、彼氏とのラブラブっぷりを匂わせてるのがバレバレってことだよね?

 だとしたら、なんで真純くんはもっと食いつかないんだろう?

 も、も、もしかして、そんなことはないと思うんだけど……

 ま、真純くんは、私に興味がない……ってこと……かな……?


 それよりも、真純くんを表すのにピッタリの漢字2文字があるんだけど……

 真鈍くん……いや、真純くんに限ってそんなことはないはず……

 よし!今度、真純くんが本当に鈍感(言っちゃった)かどうか、確かめてみるぞ!

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