投稿その28

 高校生という時間が永遠に続かないのと同じように、匂わせの資金も無限にあるわけじゃない。

 やっぱりお小遣いだけだと匂わせバリエーションが広がらないんだよね~。


 もっとお小遣い値上げしてくれないかなぁ。

 と言っても、うちのお小遣いはちょっと変わっていて、1日200円ずつ渡されて、休日は300円。

 ぜんぜん使わなかったら7千円ぐらいにはなるのかなぁ。ちょっと多めなのかも。

 でもお手伝いをしなかったり、悪いことをしたり、テストの成績が良くなかったら1日分が半額にされちゃう。

 だから毎月6千円ぐらいになるのかな。平均よりはちょっともらっているのかも。


 スマホ代は親が出してくれてるから助かるんだけど、服とか文房具はお小遣いの中からなんだよね。

 だからちょっと足りない月もある。

 金欠女子高校生が服を買うのに、ファストファッションとフリマアプリは欠かせないよ。


 うーん、やっぱりバイトをしようかな。

 前回はバイトを探した時は、変な方向に話が行っちゃったから、今回はちゃんとやろう。

 

 さっそくネットで「高校生に人気のバイト5選」みたいな記事を見てみた。

 ふむふむ……「ファストフード、ファミレス、コンビニ、スーパー、カフェ」か。

 どれも良さそうだけど、万が一真純くんと会っちゃったら仕事にならなそうなんだよなぁ。


 よし、バイトアプリを使って、なるべく真純くんに会わなそうな仕事を探してみよう。

 まずは絶対条件の「高校生歓迎」にチェックを入れて、住んでる県を選んで検索。

 ……どれどれ?120件か。ちょっと多いな。


 そしたらジャンルを絞り込んでみようか。

 「接客」は最後の手段にとっておくとして……

 「レジャー・エンタメ」?

 おもしろそう!どんな仕事なのか謎だけど。

 チェックして検索っと!……「0件」

 結局謎のままだね。別のジャンルにしよう。


 えっと……あ、これ良さそう!

 「エステ・ビューティー」!

 これならインスタにも役に立ちそうだね。

 チェックして検索っと!……「2件」

 わぉ!いいね!どんな仕事があるのかな?


 ふむふむ。「ネイルサロン」か。

 いいじゃない!最寄り駅だし。

 時給は……1200円!?

 高校生でこんなにもらえるの!?

 それにネイルサロンなら真純くんに会う可能性も低そう!


 ってことで、さっそく応募してみたよ。

 そしたらすぐに電話がかかってきた。

 慌てて電話をとったら、声の高いお姉さんから電話がかかってきた。

「バイトに応募してくださった香織さんですか?」

「はいそうです!」

「高校生ですよね?」

「はい!」

「明日面接に来られる時間はありますか?」

「明日……明日は学校があるので放課後でしたら大丈夫です」

「でしたら17時はいかがですか?」

「大丈夫です!」

「それでは17時にサロンまで起こしください。受付で「面接に来た」と言ってくださいね」

「わかりました!」

 おぉ!いきなり面接が決まってしまった……。

 でも面接って何したらいいんだろう?

 考えてもわかんないや。ま、なんとかなるか。


 そんなこともあって、その日のツイートは、こんな感じで匂わせてみた。

「急にバイトの面接決まった!明日は会えないかも(涙)#本当は会いたい」


 【匂わせポイントその28】匂わせのためならバイトの面接も利用させてもらいます!


 このツイートを深読みさせて、バイトの面接の後に時間を作って彼に会いに行く“健気な私”を演出できるかも。

 きっとこれを読んだら真純くんも「香織さん、彼氏さんのためにバイト始めるのかな?これじゃますます二人が仲良くなっちゃうよ!ヤバイト、ヤバイト~!」って出川さんばりに動揺しちゃうかも。


 翌朝、さっそく真純くんにツイッターを見たか聞いてみた。

「ねぇツイッター見てくれた?」

「見たよ!バイトの面接があるんだね!何のバイト?」

「ネイルサロンだよ~」

「すごい!香織さんにぴったりだ!」

「そう?ありがと!」

「前もネイルの写真、インスタにアップしてたもんね」

「あーあれね、覚えててくれたんだ!」

「すっごく指、綺麗だなって思ったからね」

 うわー、そんなところ見てたんだ~。恥ずかしいなぁ。

「ちょっといい?」

 えっ!どうしたの真純くんいきなり!!

「やっぱり綺麗だな~うらやましいよ」

 わわわわ、わたしの手を~!!!

 真純くんが私の手首を持って、じっと指を見てる!!

「すっごく細くて長くて綺麗だなぁ。理想の指だよ」

「どどどどどういうこと?」

「ボクさ、小さい頃ピアニストになりたかったんだ。だから細くて長い指に憧れてるんだ」

「真純くんだって、指が長くて綺麗だよ」

 どさくさに紛れて、私も言ってみた。

「そうかな?ぜったい香織さんの方が長いよ」

 ……もももも、もしかしてこの展開は!!

 私が次にこう言ったら、真純くんも絶対に乗ってくるはず!!

「そそそ、それじゃ、比べてみる?」

 これで手の平を合わせて、指の長さを比べる展開に……

 すると真純くんは手の平を私に見せて……

「あ~ごめん、ボク手汗が恥ずかしいからやめとく!」

「えぇ~!!」

 そんなの気にしないのに!!

 真純くんは急に恥ずかしそうにズボンで手を拭き始めた。

 もう!照れてる真純くんも可愛いなぁ。


 真純くんとの距離縮まり度20%!匂わせは失敗!


 【反省点】私って受けにまわると弱いのかも。


 急なスキンシップに動揺しちゃって何も言えなかったけど、匂わせには全く触れてこなかったね。

 ……ぎゃ、逆に手に触れられちゃったけどね……きゃー!(正確には手首です)

 今は授業中だけど、ぜんぜんドキドキが止まる気がしないよ。

 隣の席の真純くんは、ぜんぜんドキドキしてない平常運転だけど。


 それに夕方はバイトの面接だ。そっちもドキドキしてきたよ。

 私、2乗でドキドキしすぎて、心臓の音が「太鼓の達人」の「幽玄ノ乱」(おに)の後半ぐらい早くなってきたかも。

 (YouTubeで検索してみてね!)

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