投稿その24

 今の私をひとことで言うなら……ピン子だ。

 じゃなくて、ピンチだ。(子とチって似てるね)

 いや、修羅場に追い込まれている喜劇役者という意味では、ピン子なのかもしれない。


 何があったかというと、今日の夕方、郊外のスーパー銭湯で、親友の花ちゃんから「彼氏に会わせて~!」と言われた私は、もちろん彼氏などいないので、どうしたらいいかわからずミストサウナから逃亡するという失態を犯したのだ。

 ……って、端折りすぎてよくわかんないよね。(詳しくは投稿23を読んでね)


 まぁとにかく、花ちゃんから逃亡した私は、鬼電と鬼LINEを完全スルーして、自宅で「人生最大のピンチ」に震えているのだった。

 あれ?前回も「人生最大のピンチ」って言ってたような……

 それはさておき、どうしたらいいんだろう?


 直接花ちゃんに連絡をするのはかなり勇気がいる。嘘に耐えきれず「彼氏が架空の存在」ってことも白状してしまいそうだ。

 だとしたら、やっぱり“匂わせ投稿”か……。


 真純くんには、彼氏に焼きもちを焼いてもらいつつ、花ちゃんには逃亡した理由をちゃんとわかってもらえる“匂わせ投稿”。

 この難易度の高い“匂わせミッション”。どうクリアしたらいいのか……


 あ、そうだ!今日は土曜日じゃないか!

 休日は明日もあるじゃないか!

 無理して今夜投稿する必要なさそうだぞ!


 ということで、私はサスペンスドラマばりに、必死になってアリバイ工作を考えた。

 月曜の朝に花ちゃんが聞いてきそうなことも、全部シミュレーションして、ほころびのない答えを考えた。


 さらに証拠写真を撮影をするため、わざわざ同じスーパー銭湯に2日連続で訪れて、さらに夜の遊園地にも一人で行った。

 ふと我に返る瞬間もあって、一人で夜の遊園地にいる自分に悲しくなったけど、そんなのは些細なことだ。

 恋と友情を取り戻す“匂わせ”のためなら感情は捨てるのだ!


 ……こうして、日曜日をまるまる潰した私がインスタに投稿したのは、スーパー銭湯の館内着を着て休憩ルームで泣き顔をしている写真と、夜の遊園地でイルミネーションをバックに自撮りしている写真。

 さらに“匂わせ度”をアップするために、こんなコメントも添えてみた。

「お風呂で親友とはぐれちゃった(泣)でもイルミネーションでなぐさめてくれたよ(ハート)#夜の遊園地 #ありがとう」


 【匂わせポイントその24】寂しさ&優しさアピールで“匂わせ”2倍増量中!


 ちょっと長めのコメントになっちゃったけど、これを読んだら花ちゃんはきっと「初めて親友って言ってくれた!」って、逃亡したことも許してくれそうだし、真純くんはきっと「彼氏さんってイルミネーションで慰めてくれるんだ!優しねーしょん!」って、ジェラシネーションしてくれるかもしれねーしょん!


 そしてやってきた月曜日。

 朝、登校すると、予想通り花ちゃんがダッシュで駆け寄ってきた。

「かおりん!どうしたの?心配したよ!!」

 うぅ~やっぱり花ちゃんいい子だなぁ。こんないい子に嘘をついてごめんね……

 でも恋のためだ、仕方がない!

 もちろんこの“第一声”は予想の範囲内。シミュレーションですでに答えは考えてあるのだ。

「あーごめん、スマホが行方不明になっててさー、折り返せなかったんだよー。そのあとすぐ見つかったんだけどねー」

「違うよ。電話とかLINEのことじゃなくて、ミストサウナでいなくなっちゃったことだよ」

 よし、これも想定済みの質問だ。

「えー!?ずっといたよー」

「私ミストサウナの中、すっごい探したんだけど……」

「あーのぼせちゃったんで、水風呂に入ってたからかもー」

「そのあともマッサージするって言ってたから、マッサージルームまで見に行ったんだよ」

「あーそれがさ、花ちゃんとはぐれちゃって休憩ルームで泣いていたら彼が見つけくれて、マッサージをキャンセルしてくれて、すぐにイルミネーションを見せに連れて行ってくれたんだ」

 うぅ~全部想定していた受け答えとはいえ、スラスラと嘘が出てきて胸が痛いよ。


 するとそこへ、隣の席の真純くんが登校してきた。

「あぁ、香織さん、あのあと彼氏さんと会えたんだね」

「えっ!?」

「ほら、お風呂上がりに会った後」

「えっ、あー、うん」

「香織さんあのあとすぐ、ひとりでスーパー銭湯から出て行っちゃったからさ、心配してたんだよ」

 ……あっ、花ちゃんが不思議そうな顔をしているぞ。

「ねぇかおりん……さっき「休憩ルーム」で彼氏さんに会ったって言ってたよね?」

「えっと……それは……そう!真純くんが見送ってくれたあと、また戻ってきたの!」

「えっ?そうだったの?ボクずっと正面入口の近くのベンチに座ってテレビを見てたんだけど、戻ってきたのには気が付かなかったなぁ」

「うー、それは……」

「そういえば香織さんが泣いてた写真、髪乾いてたね。あんなにびしょ濡れだったのにすぐ乾いたんだね~。香織さんが使っているタオル、すごくいいタオルなんだね。今度教えてよ」

「うー、それは……」

 花ちゃんは、さっき私から聞いた話と真純くんの話が完全に食い違っていることに混乱しているようだった。

「ね、ねぇ、かおりん……」

「うー、ごめんね~!私、トイレ~!!」

 真純くんからのクリティカルヒットの連発に耐えきれなくなった私は、またまたトイレへと逃げ出した!


 トイレへの逃走「投稿その13」以来3回目!匂わせ失敗!


 【反省点】シミュレーション甘すぎ問題!嘘をつくなら味方など誰一人いないと思え!


 私はトイレの個室に駆け込んでドアを閉めた。

 困った時にトイレに逃げるのは本当に悪いクセだ。

 花ちゃんは根本的に人を疑うことをしないので、自分の勘違いだと思っているようだった。……ああ本当に心苦しい。

 恋のためとはいえ、花ちゃんみたいないい子に対して誠実じゃないって、ホントよくないよね。

 ということで、今日からしばらくの間、「花ちゃんを喜ばせようキャンペーン」を開始します!

 これは放課後が忙しくなりそうだぞ~!!(カラカラ、ジャー、バタン)←ちゃんと手洗った?

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