投稿その17

 予告通り「男子高校生のドッキドキ生態調査!」はっじめるよ~!!


 そもそもこの調査は、真純くんが私の匂わせに対して、的はずれな感想を言ってくることを是正するために、男子高校生の食いつきが良さそうなネタを調査し分析することが目的だ。

 ……って、冒頭から堅苦しいな!もっと軽いノリの話ですから!


 調査するのは中学二年の弟ではダメ。あの年頃の男子は女子の気持ちなんて何もわかってない!

 女子のことを1ミリも理解しようとしないで「モテたいな~」なんて言い始める年頃だからね!


 なので今回は、真純くんや架空の彼氏と同じ年齢の“クラスの男子”をサンプルにして調査を進めます。


 ここ数日のやりとりで、真純くんは女子の流行とか好きなものとか、そういうものをほとんど知らないことがわかった。

 私としては「架空の彼氏に対して真純くんに焼きもちを焼かせたい!」っていう「匂わせスタイル」でやってきている以上、真純くんに焼きもちを焼かせられるようなネタを提供しなければならない。


 ――そう、この前のパターンがいい例だ。

 真純くんには「USJに一緒に行きたい!」って思わせたかったのに、そもそも真純くんは「USJ」を知らなかった。「USA」とか言ってた。欧米か!「USJ」は日本だ!

 これはもう「彼氏に対して焼きもちを焼かせる!」とか、そういう次元の話じゃない。

 架空の彼氏のレベルを、真純くんが焼きもちを焼けるレベルにまで下げないと「あー、香織さんにふさわしい人って、やっぱりイケてる人なんだな~」って思われて、試合が終了してしまう。

 これは可及的速やかに解決しなければいけない問題だ!


 ということで(心の)準備ができたようなので、今からこの教室にいる普通の男子を捕まえて、一般的な男子高校生の生態調査を行います。


 ――と、その前にこれだけは聞いてほしい。(過去編か!?)

 そもそも私は、昔から気軽に話せる男子生徒がいなかった。(やっぱり過去編だ)

 むしろ小学生の頃から大人びていたんで、近寄り難いと思われてきた。

 今では毎朝気軽に声をかけてくれるようになった真純くんも、最初はそう思っていたらしい。


 これまで男子からは、からかわれたり。告白的な意味で声をかけられたりすることはあったけど、ちゃんと会話をしたことは記憶にない。

 「会話」っていう意味では、真純くんといちばん会話をしてるんじゃないかと思う。

 そのくらい男子と会話をしたことがない……


 ――まぁ、そんなのは、昨日までの私のことだから置いといて(過去編全否定)

 さーて、誰に声をかけよっかな~!

 キョロキョロ。キョロキョロ……キョロ……はぁ~


 どういうこと?私あんなに「男子高校生のドッキドキ生態調査~!!」とかハイテンションだったくせに、実際声をかけるとなるとテンションだだ下がりなんですけど!

 どうした香織!お前はそんなにビビりだったのか!?かけろ!声をかけるんだ!香織!

 ……そんな脳内コントで自問自答をしている間に、放課後になってしまった。


 みんなが帰り支度を始める中、真純くんの席に、真純くんの友達がやってきた。

 おっ!これは絶好のチャンス到来じゃないか!?

 ……と思ったんだけど、まさかのピンチ!……私、この友達の名前、覚えていない!

 なんだっけな…?一文字も思い出せないぞ!もっとクラスメイトに関心を持っておくべきだったなぁ。


 するととつぜん、友達と話をしていた真純くんが、珍しく大きな声で笑った。

「あはは!やっぱり寛太(かんた)は面白いなぁ!」

 しめた!「寛太」か!お名前ゲットだぜ!

 でも寛太って、たぶん名字じゃないよね。初対面でいきなり名前で呼ぶのって気にするかな~。

 ……いや、迷ってなんていられない!私は勇気を出して寛太とやらに声をかけた。


「か、寛太くん!」

「へっ?」

「ちょっとお話があるんだけどいいかな?」

「えっ?なんでオレに?」

 ……そりゃ戸惑うよね。私だって自分で変なことしてるって思うもん。

「寛太くんに聞いてほしいことがあるの!」

「なになに?なんなのこの人?」

「ここじゃなくて、あっちに行こう!」

「えっ、ちょっと……」

 ――私は有無を言わさず寛太くんの手を取って、廊下に向かった。

 もし、万が一、ここで話す内容を真純くんに聞かれちゃったら、全部バレちゃうから!


 私と寛太くんは廊下の壁沿いに立って話しはじめた。

「……あのね、私、男子高校生のことをいろいろ知りたいんだけど」

「男子高校生のこと?……まぁオレでいいなら教えるけど」

「寛太くんじゃないとダメなの!」

 真純くんじゃダメなの!

「……なんかいきなり名前で呼ぶとか、距離感近すぎじゃない?」

「そうかな!?私、男子みんなにそうなんだけど」

 うそなんだけど。実はすっごく緊張してるんだけど。

「で、何を聞きたいんだ?」

「実はね、私、同い年の彼氏と話が合わないみたいで、男子高校生が女子の話題にどれだけ興味があるかってことを知りたくて……」

「おう、そっか。それは大変だな!そのくらいならオレでも答えられるよ」

「ありがとう!それじゃお願いするね!」

 寛太くんって、名前の通り寛大で心が広いなぁ~。


 よし!これで真純くんが食いつきそうなネタを調べられるぞ~!

 私は嬉しさのあまり、教室にいるはずの真純くんの方をチラ見した。

 すると……真純くんが教室の扉のところで、そ~っとこっちの様子を覗き見してるじゃないですか!

 しかも真純くん、何かブツブツ、小声でつぶやいてるし!なんて言ってるんだろう?

「……う~ん、なんか「彼氏」とか「興味がある」とか言ってるなぁ、香織さん、もしかして寛太のことが……」

 ――なんと!そのつぶやきは、意外にも私と寛太くんの関係を意識しちゃっているかのようなつぶやきだったのです!


 【匂わせポイントその17】SNS以外でも「匂わせ」しちゃう私ってすごいかも!


 これはすごい!SNSを使わないでも「匂わせ」ができるなんて大発見だ!

 ……といっても、私に興味があるんじゃなくて、寛太くんの方に興味があるだけなのかもしれないけど。


 私は真純くんの視線を気にしながら、寛太くんに、本題の「男子高校生の興味」について聞いてみた。

「ねぇ男子って、ディズニーに興味ある?」

「興味あるよ。新エリアの「ファンタジースプリングス」とか気になるよな」

「ファッションは?」

「興味あるよ。今年は女子だけじゃなくて男子にもレイヤードが流行りそうだね」

「グルメは?」

「興味あるよ。専門店ブームはまだ続きそうだな。オレ的には今年はラム肉と台湾料理に注目しているよ」

 ふむ。打てば響く太鼓のような答えですな~。でもこれって……

「うーん、なんか違うな~」

「えっ?何が違うんだ?」

「隣の席の真純くんは、違う答えを言ってくる気がする」

「それってオレの答えが正解じゃないってこと?」

「いや、正解なんだけど、そういう答えが欲しかったんじゃないんだよなぁ」

「そうなのか?オレの答えじゃダメなのか?」

 ……ごめんね、寛太くん!ちょっと失礼なこと言っちゃったけど、寛太くんはサンプルとして違う気がする。

 だってこんなに詳しかったら、女子とめっちゃ話が弾むでしょ。

 でも私が攻略したいのは、こういう男子じゃないんだ。ごめんね。

「ううん、ありがとう。とても参考になったよ」

「最初から最後まで何の質問なのかよくわかんなかったけど、参考になったならいいや」

 寛太くんはそう言って真純くんのところに帰っていった。


 扉のところでこっそり見ていた真純くんが、話を終えた寛太くんを出迎えた。

 真純くんはなぜか少し怒っているようだった。

「ずるいよ寛太!香織さんとあんなに仲良さそうに話すなんて!」

「は?どういうこと?」

「香織さんがフレンドリーに会話できる友達は、花ちゃんさんとボクだけなんだからね!」

 真純くんが本日二回目となる大きな声を出した。


 ……んん~?あれ~?

 もしかして私、真純くんに「友達少ない」って思われてた?

 いつもクラスのみんなと会話してるよ。見てないの?

 それに今「友達」って断言された?

 もしかして恋愛対象にすら見られていない?

 やっぱり「匂わせ」が足りなかった?

 ぐるぐるぐるぐるいろんなことが、頭の中をマイムマイムして、気絶しそうになった。


 ジェラシー度5%!でもそれは友情!匂わせは失敗!


 【反省点】まさに絶望的状況!でも真純くんにも焼きもちを焼く感情があることを発見!


 今回の調査は大失敗!原因はサンプルを寛太くんにしちゃったせい。

 タイトルをつけるなら「調査失敗はキミ(寛太)のせい」。

 でもさ、たぶんアレだね。寛太くんには絶対、姉ちゃんがいるね。

 そうなると、いつどこから「匂わせ」がバレるかわかんないから、寛太くんにはSNSのアカウントを教えないでおこう。


 それにしても、真純くんから恋愛対象に見られていない可能性があるのは大大大ショックだよ。

 でも真純くんも焼きもちを焼くってことがわかったから、まだまだ私の「匂わせ」が足りなかったのかもね!

 次回からはSNSでカメムシ級に!いや、スカンク級にプンプン匂わせるよ~!!

 気絶するなよ~!ファブリーズ用意しとけよ~!

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