投稿その13

 放課後、特に予定がないのでネイルサロンに寄った。

 なんか真純くんとの距離が縮まらないから、ちょっと気分転換したくて。

 ストレス解消的な。


 お気に入りのネイルサロンに着くとネイリストさんが声をかけてくれた。

「いらっしゃいませ。今日はどうしますか?」

「学校で怒られないような短めのジェルネイルがいいんですが」

「そしたらワンカラーがいいですかね?」

 ……ワンカラーか。ちょっとシンプルすぎるなぁ。

「うーん、少しでいいからカワイイって思われるような……インスタを見た隣の席……じゃなくて友達が、気になっちゃうようなネイルがいいなぁ」

「そういうことならおまかせください!」

 え、今ので理解できたの?

「それでは「イニシャル入り」なんてどうですか?」

「イニシャル入り?」

「薄いピンクのベースに、細めのゴールドの文字を描くのがオススメです。これなら自然な感じで怒られないはずですよ」

「あー、いいかも」

「それに彼氏さんがいる人なんかは、自分のイニシャルと彼氏さんのイニシャルを入れたりしてますよ」


 ――はい、きましたこれ!匂わせにぴったりじゃないですか!


「それいい!すっごくいいです!それにしてください!!」

「わ、わかりました……」

 ちょっと興奮して大声出しすぎちゃった。ネイリストさんがびっくりして引いてるよ……

 ごめんなさい。私、真純くんのことになると周りが見えなくなっちゃうんです。

「では何の文字を入れますか?」

「うーん、どの指にイニシャルを入れるのがいいんですか?」

「そうですね~、よくいらっしゃるのは、自分のイニシャルを右手の薬指に、彼氏さんのイニシャルを左手の薬指に入れるパターンですね」

「あー、いいですねそれ。それでお願いします!」

 うっは~左手の薬指か~これはたまらんね~。

「では右手はどうしますか?」

「Kでお願いします」

「左手はどうしますか?」

「え、え、え、え、Mでお願いします!!」

 きゃー!言っちゃったよ!はずかしー!!

「彼氏さんですか?」

「ま、まぁそう言われればそうかもしれないし、そう言われなければそうじゃないかもしれないし……」

 あわわわ~やっぱりまだ彼氏とは言えないよ~!!

「ふふふ、青春してますね」

 ふふふ、青春してますよ~!!


 完成したネイルは超~かわいかった!!すっごく気に入っちゃった。

 でも、このネイルの写真をそのままインスタにアップしちゃうのは素人です。

 匂わせのプロである私は、ここからこんなアレンジをします。


 今流行りのベトナムのサンドイッチを両手で持って、あーんって口をして自撮りした写真。

「バインミー食べた。パクチー最高!#ネイル変えたよ」

 両手の薬指のイニシャルがしっかり見えるように、三脚の位置を変えながら何十回も撮影してやっと撮れた一枚。


 【匂わせポイントその13】気付いて!薬指に注目だよ!KとMだからね!


 時間がかかりすぎて、パクチーがしなしなになっているのは許して。

 薬指を見てみると絶妙にゴールドが写真映えしてていい感じ。

 これなら真純くんも「Mって誰のこと?愛すべき人のこと?」って、ジェラシー感じながら、あゆの歌を歌いだしちゃうかも。

 そして歌い終わった頃に「もしかして真純のM?」って、改めて匂わせに気付いてくれるかも。


 翌朝、真純くんにインスタを見たか聞いてみた。

「見たよ!バインミー美味しそうだね!」

「でしょ~」

 やっぱりまずはそこだよね。

「他に気付いたことなかった?」

「他に?」

「ほら、あのピンク色のさ……何か写ってたでしょ」

「あー!写ってた!」

 そうそれ!気付いてくれた?

「香織さんが、あーんって開けてる口。そのくちびるがとてもかわいかった!」

「く、くちびる!?」

「うん、香織さんのくちびるって、ぷるぷるのピンクでカワイイよね」

「……そ、そんなとこ見ちゃダメ~!!」

 ――今日もまたトイレへ逃走!!


 ジェラシー度0%!匂わせ失敗!


 【反省点】スマホの画像サイズでは「細かい匂わせ」はわかりづらい!


 これはですね……完全に私の作戦ミスですよ。

 だってネイルに描いたイニシャルなんて画像を拡大しまくらないとわかんないもん。

 私に興味がない真純くんがそんなことやるとは思えないよね……。でもそのおかげで「ぷるぷるくちびるがカワイイ」って言ってもらっちゃった!

 これはもう「肉を切らせて骨を断つ」じゃなくて「指を切らせてリップにチュー」だね。(意味わかんない)

 それにしても今後はスマホで見た時の画像サイズまで考えないといけないなんて……「匂わせ道」深すぎやしないか!?

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