投稿その8
真純くんとの会話は、朝の「SNSの話」だけで終わることがほとんどで、放課後までその一回だけの日もある。
恒例の朝の会話以外は、残念ながら真純くんとではなく、女子の友達と楽しいおしゃべりをしている。
あの~、言っておきますけど私、ボッチじゃないですよ。私にだって女子の友達ぐらいいるんですから!
その日の休み時間も、授業が終わると同時に、いちばんの仲良しが私の席にやってきた。
「ねぇ、かおりん!昨日も「いいね」いっぱいだったね」
「花ちゃん!インスタ見てくれたんだ!ありがとう」
花ちゃんはいつもニコニコしてて、黒目がクリクリしてて、ちっちゃくて、大好き。
「やっぱりかおりんって、スタイルいいよね~」
「みんなに見られるの、恥ずかしいんだけどね~」
本当に見て欲しいのは一人だけなんだけど、花ちゃんも見てくれてるのは嬉しいな~。
「かおりんさんよ。それは贅沢な悩みだよ。スタイルいいから、わたしにも身長わけて欲しいぐらいだよ」
「私は花ちゃんみたいな、女子らしい、かわいい女子になりたかったなぁ」
「だったら二人を足して半分にしたら、ちょうどいいかもね~」
「そうだね」
……真純くんはあまり背が高い方じゃないから、私は、私の方が少し高いのがちょっと気になってるんだ。
あんまり女の子らしさがないな~って。
そもそも真純くんの好みのタイプを聞いたことがないから、わからないんだけどね。……でも、まだ怖くて聞けないなぁ。
花ちゃんはいつものように、私の椅子に半分割り込むようにして座ってきた。
「相変わらず彼氏とは上手く行ってるみたいだね」
「う、うん、いい感じだよ」
「いいなぁ。羨ましいなぁ」
「ま、まぁね~」
――そうなんです。花ちゃんはまだ、私が本当に好きな人が誰か知らないんです。
花ちゃんとは、高校生になってから友達になった。
きっかけは私のインスタのフォロワーだったこと。
それから一緒にいるようになったら楽しくなっちゃって、すごいスピードで仲良くなった。
そんなこともあって、いつも私の「匂わせSNS」をチェックしてくれている。
「でもさ、かおりん、最近アピールすごいよね」
「えっ、そうかな?」
「インスタもツイッターも「カップル垢」みたいになってるよ」
「やっぱりそう見える?」
「うん、ラブ臭がすごいよ。わたしが焼きもち焼いちゃうぐらい」
「えっ!ホントに!?」
「うん、ジェラシー感じちゃうけど……って、どしたの急に?」
私のテンションの上がりっぷりに花ちゃんが戸惑っている。そんな花ちゃんを見て、逆に私は安心していた。
「い、いや~普通に見たらそう見えるよね。よかった~」
「えっと……なんだかよくわかんないけど、上手く行ってるみたいでいいね。お幸せに」
どうやら花ちゃんから見ると、私と彼氏(架空)の交際は順調らしい。傍から見るとそう見えることが確認できて良かった。
つまりこれは、真純くんが私の恋愛に興味がないのか、真純くんが鈍感なのかの二択になったってことだ。
この先、真純くんを攻略していくことを考えたら、後者であって欲しいんだけど、きっと実際は両者なんだろうなぁ。
鈍感だったらまだ攻め甲斐があるけど、興味ないってところがスタート地点だと、先が遠すぎるよ。
――そんな絶望的な戦いでも、私はめげずに、今日も「匂わせインスタ」をアップする。
部屋のテーブルにさりげなく花束を置いて。そこにコメントを添えて……。
「言葉もうれしいけど、花束もうれしいな。#毎日大好き」
いつもと違って、私の姿は写さないで、花束とアロマキャンドルだけを写すことで、素敵な香りを匂わせ……って今の「匂わせ」は偶然だからね!
【匂わせポイントその8】「言葉」も「花」もくれる彼氏から「愛」もいっぱいもらってるアピール。
こんなに匂わせちゃったら、さすがの真純くんもジェラシー感じてくれるんじゃないかな。
真純くんから「ボクなら言葉と花束だけじゃなくて、全てをあげるのに」なんて言われちゃったりして。
もう!真純くんったら、全てってなんなの?……す、すご、すごすぎて想像が追いつかない!!
翌朝、真っ先に真純くんに話しかけた。(今日もこの会話だけになるかもしれないけど)
「インスタ、アップしたの見てくれた?」
「うん、見たよ。でも、なんか昨日のインスタって、いつもと違う感じだったね」
「えっ?そう?」
ん~?真純くんがこんなこと言うなんて珍しいぞ。何かやらかしちゃったかな?いつもみたいにちゃんと匂わせてたよね……。
「……ねぇ、ボクわかっちゃったよ」
「えっ?何?」
「昨日のコメント、彼氏さん宛てじゃないでしょ」
「えぇ!そ、そう……なの?」
「あの写真の花ってさ、花ちゃんさんにもらった花だよね。昨日花ちゃんさんがお花屋さんで花束買ってるの見たよ。きれいな花だったなぁ」
ちょっと真純くん!「花」が多いよ!今まで「香織さん」って言った回数より、今「花」って言った回数の方が多くない?
……って、あれ?あれ?待って待って。もしかするとここって、重要な分岐ポイントじゃない。
「花ちゃんからもらったことにする」か「彼氏からもらったことにする」か。
どっちを選ぶべきか……。選択肢間違えたら大変だぞ~。うーん、うーん。
――よし決めた!こっちで行こう!
「花ちゃんからもらった」ってことにしておけば「もう!真純くんったら、私だっていつも彼のことばっかりじゃないよ!」って流れになるでしょ。
そしたら真純くんが「もしかしたらボクって、香織さんと彼氏さんのこと意識しすぎちゃってる?」な~んて自分の恋心に気付いちゃうかも。
よし、これはいいぞ!
ってことで、私はこう言いました。
「そうそう、そうなんだ。あれ花ちゃんからもらったんだ。カワイイでしょ」
「うん。花ちゃんさんみたいで、カワイイ花だね」
……なぬ?いま真純くん「花ちゃんみたいでカワイイ」って言った?
「花ちゃんみたいでカワイイ」??
花ちゃん、ごめん!私この先、花ちゃんのこと警戒しないといけなくなった!
完全に選択肢間違えた!あぁ誰か、あの分岐の前からロードさせて~。
ジェラシー度0%!匂わせ失敗!
【反省点】思わぬライバル出現?!恋か友情かなんて選べないよ~。
やっぱり真純くんって、私の恋にも興味ない上に、鈍感なのかな。
あれ?でもちょっと待って。さっき真純くん「放課後に花ちゃんがお花屋さんで花束買ってるの見た」って言ったよね。
――『ちょっとカワイイと思ってる女の子が、放課後にお花屋さんで、カワイイ花束を買っている』
これって画になりすぎじゃない!?私なんかよりよっぽど運命的な出会いしてるよね?
真純くん花ちゃんと何か話したりしたのかな?そのまま一緒に帰ったとか?
……うぅ~、こ、これはちょっと本格的に探りを入れないとだね!メラメラ燃えてきた~!
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